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4 15, 2019

札幌市の新ランドマークから学ぶ 大型施設の「AED適正配置」

ページを読む時間の目安: 3-5 分

AEDの配置場所次第で、命を救える可能性は変わります。「AEDの適正配置」はどうあるべきか。行政が主体となって、AEDなど施設の安全管理体制で先進的な取り組みをする札幌市の「札幌市民交流プラザ」を訪ねました。

“札幌文化の発信地”を安心して過ごせる場所に

2018年10月、札幌市街の真ん中、大通公園と札幌市時計台のほど近くに「札幌市民交流プラザ」がオープンしました。札幌市民交流プラザは、札幌文化芸術劇場 hitaru、札幌文化芸術交流センター SCARTS、札幌市図書・情報館からなる複合施設で、札幌市民交流プラザの来館者は開館から半年ほどで予想を大きく上回る約100万人を突破。その賑わいぶりがうかがえますが、市民に活用される文化発信の場とする構想は2007年から10年近く議論されてきました。その構想を実現していく段階で、大きなテーマの一つとなったのは「来館者の安全確保」です。

 

近年、人が集まる大型施設では、施設側の安全管理義務の一つとしてAED設置が一般化しつつあります。公共施設や交通機関、ショッピングセンター、スタジアム、ホテル等でのAED設置を推進する自治体も増え、一定の基準に該当する施設に設置を義務化する流れも生まれています。

 

こうした流れを見据えて、札幌市民交流プラザでは救急時に備えて計14台のAED設置を決めました。施設の管理を担当する札幌市芸術文化財団市民交流プラザ事業部の松島康之さん(2019年3月取材当時)は、施設の安全管理体制の重要性をこう語ります。

 

「万が一の救急対応時を想定して、オープン前からAEDの適正配置を検討してきました。市民が集う場を創出する側の義務として、誰もが安心して過ごせる場とすることが私たちの役割です。そのためには最低限の対策にとどまらず、AEDを多く設置するなど行き届いた安全管理体制をつくることを早い段階から決めていました」

 

AEDを置いていても、設置間隔や設置数が不十分な施設もあるなかで、札幌市民交流プラザでは一歩進んだ安全対策の実施を目指しているのです。

札幌市民交流プラザ

来館者目線で考えたAED適正配置の条件とは?

札幌市民交流プラザで、多くの人が最初に立ち寄るのがエスカレーター下の総合案内所です。案内板に並んでAEDが設置され、さらに劇場や図書館へ至るエスカレーターを上った先にAEDが置かれています。

 

「AEDの設置基準として、最も重視したのが〈誰もが目にしやすい場所〉に置くこと。総合案内は多くの人が立ち寄る場所ですし、案内板の隣にAEDがあることで自然と視界に入ってきます。また、エスカレーターに乗るときは、行き先に目線が向きます。その目線が届く先にAEDを置くことで、できるだけ多くの人の目に触れるよう工夫しました」

 

10フロアからなる札幌市民交流プラザには、見通しのよい場所に各フロアに1~2台ずつAEDが設置されています。

 

「心肺停止の発生を想定して、AEDによる“5分以内の処置”を実現したいと考えました。しかし、エレベーターや階段で移動すると、AED到着まで時間が大幅にロスしてしまいます。そこで〈1フロアにつき1AED〉という基準をつくり、各フロアにAEDを1台以上設置することにしたのです」

 

“5分以内の処置”とは、日本救急医療財団の『AED適正配置のガイドライン』に記載されている「心肺停止から5分以内に除細動が可能な配置」というAED設置条件に則っています。心肺停止は、発生から1分ごとに約10%ずつ助かる確率が下がっていきますが、5分以内であれば約半数の人の命が助かるといわれています。

 

一方、救急車が到着する時間は全国平均で8.6分(平成30年版 救急・救命の現況)。10分以上が経過した場合、救急救命士が処置をしても助かる可能性はとても低いのです。

 

心臓突然死から命を守るには、心肺停止の予防、早期認識と通報、心肺蘇生とAEDによる一次救命処置、救急隊や病院での二次救命処置からなる、救命の連鎖を踏まえた対応が必要です。施設側ができることとしては早期認識と通報、そして一次救命処置の対応となります。まず、万が一の事態に備えた通報体制を整え、さらに人の目につきやすい場所にAEDを設置して、居合わせた人がAEDを使える環境を提供することが重要です。

 

「職員や警備員がAEDを持って駆けつける救命フローも考えたのですが、今はAEDの使い方をご存じの市民の方も増えています。倒れた方の救命を第一に考えると、その場に居合わせた方がすばやく対応できる環境を整えるべきだと考えました。そのために〈1フロアにつき1AED〉という原則にしたのです」

 

さらに、施設内にある2,302人収容の札幌文化芸術劇場 hitaruには、舞台裏に2台のAEDが設置されています。

 

「劇場の舞台技術者からの提案で実現したものです。演劇や演奏は激しいパフォーマンスを伴うこともあります。また、ご高齢の出演者が増えていることも考慮して、楽屋近くと舞台の下手にそれぞれ1台ずつ設置しました。

 

広く市民の方が使うことを考えると、使いやすさも大切です。AEDは音声ナビゲーションがついていますが、耳の不自由な人や外国人でも使えるように〈目でわかるナビゲーション〉がわかりやすいAEDを選びました」

 

札幌市民交流プラザでは、施設の構造や用途にもとづいて〈誰もが目にしやすい場所〉〈1フロアにつき1AED〉〈目でわかるナビゲーション〉の3つをAEDの条件に定め、フロアごとに10台、管理課事務室と警備室に2台、そして劇場の舞台裏2台と、合計14台のAEDを設置することになったのです。

札幌市芸術文化財団・松島康之さん

AEDは“常にそこにある”ことが大切です

札幌市民交流プラザのオープン前から安全管理体制づくりに奔走してきた松島さんは、AEDの重要性について次のように実感しているといいます。

 

「AEDは“常にそこにある”ことが何より大切です。私もAEDの適正配置に関わってから、思ったより多くのAEDが私たちの暮らしの中にあることに気づきました。この安心感は大きいと思います。市民の方々も施設を利用するなかで、AEDの存在をなんとなく感じとっていただければ何よりですね」

 

松島さんら職員が札幌市民交流プラザのオープンに向けて奔走していた頃、忘れられない出来事が起こります。2018年9月6日、マグニチュード6.7、最大震度7の北海道胆振東部地震が起こり、札幌市も震度6弱〜5弱に揺れ、大規模停電に陥りました。当時、オープンを1ヶ月後に控えた準備段階でしたが、臨時避難所として観光客に開放することを急遽決めました。

 

「市内のホテルでは宿泊客の受け入れができず、大勢の観光客が困り果てていました。当施設は地下に発電施設があるので、暖房や照明など電気の使用ができます。毛布を配り、400人がここで夜を明かしました。今後、地域に根差す施設として、施設内はもちろん、近隣エリアで心肺停止が発生した際にも、施設のAEDの使用を想定しています」

 

この経験を「非常時における施設の対応や備えについて学ぶことが大きかった」と松島さんは振り返ります。いつ、どこで、誰に、災害やトラブル、急な症状が起こるかは予測できません。しかし、助け合いの精神や非常時の備えがあれば、漠然とした恐怖を多少なりとも解消してくれる“安心”につながります。

 

私たちが街中で見かけるAEDは、まさにこの“安心”の象徴です。AEDは人々の助け合い精神が発揮されることに希望を託し、そこにあるのです。そして、手を差し伸べた人たちの行動が報われるためには、命のリミットに間に合う適切な範囲内にAEDがあることが欠かせません。行政など施設運営者が主体となって進める「AEDの適正配置」は、社会全体の安心と助け合い精神を実現する重要なプロセスなのです。(取材・文 / 麻生泰子)

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