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10 01, 2019

AEDの設置は義務か否か?

「安全配慮義務」を知ろう

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街中でAEDを見かけることが増えてきましたが、AEDの設置は法律で定められているのでしょうか。企業や行政などにおける救護体制のあり方について、企業法務に詳しい弁護士に話を聞きました。

私たちを守る「安全配慮義務」が生まれた背景

職場での過重労働やパワハラ、労働災害などのニュースで「安全配慮義務」という言葉を耳にすることがあります。ちょっと聞きなれない言葉ですが、じつは私たちが毎日を安心して生活するうえで欠かせない概念だといいます。安全配慮義務とは一体何なのでしょうか? 
 

「『安全配慮義務』とは、企業や行政が、従業員や市民の心身の健康を害さないように、さまざまな面から配慮すべきとする法の基本的な原則です(下図)。企業-社員、学校-生徒、商業施設-利用者、スポーツ指導者-競技者などの間で生じる義務です。
 

例えば、企業は従業員の労働時間がオーバーしないように人員や仕事量を調整したり、危険な場所で働く従業員にヘルメットやマスクなどの着用を指示する法的義務があります。これは『安全配慮義務』に基づいています。あるいは、大勢の人が集まる商業施設やオフィス、学校などで防火設備を備えたり、AEDを設置することも、企業や施設の『安全配慮義務』に関わってきます。
 

この概念が生まれたのは1975(昭和50)年の自衛隊の車両整備工場事件の最高裁判決。自衛隊員が車両整備中に後進してきたトラックにひかれて亡くなった事件で、裁判所は雇用者である国に安全配慮義務があったとして責任を認めたのです」今の時代からすると当然の責任であるようにも思えますが、被害者の訴えによって認められてきたのですね。
 

「そうです。ただし、どこまでが『安全配慮義務』となるかは、社会通念や価値観の変化にも左右されます。例えば、10年ほど前は、AEDを見かけることは今ほど多くなかったと思います。でも、現在は駅やオフィスビル、商業施設などで必ずといっていいほど目にするようになってきました。
 

AEDの設置を義務づける法律はまだありませんが、安全配慮義務の観点からすると、人が多く集まる施設の管理者はAEDを設置することが望ましいという社会的風潮が高まってきていることは確かだと思います」

安全配慮義務を怠った場合の責任

企業や施設に期待される安全管理体制とは?

どんな企業や施設がAEDを設置すべきか、その具体的な基準はあるのでしょうか。

 

「条例レベルでは、一部の施設に設置を義務化する自治体がすでに出てきています。例えば、横浜市は飲食店、スポーツ施設、旅館、ホテルでAEDなどの救急資機材を整備することを義務化しています。また、茨城県と千葉県では、県内の事業者に対してAEDの設置等を努力義務とする条例を制定しています」

 

AEDがあれば防げる可能性が高い心臓突然死は、いつ誰に起こるかわからない急性疾患です。予測することは困難ですが、心肺停止などのリスクや確率が高いとされる施設では、AEDを設置しようという社会の流れが確立しつつあるのですね。

 

「一般的に、安全配慮義務があるかどうかの判断基準は『予見可能性』と『結果回避可能性』にかかっています。あらかじめこうした自体が起こるリスクが予見でき、それを避けるための対策をしていたか、その対策を怠ると、責任が問われる可能性もあります。ちなみに過去の裁判例から、企業や施設が行うべき安全配慮の物的措置、人的措置をまとめると下図のようになります」

安全配慮義務を果たすためのとるべき措置

AED関連訴訟の争点となる「安全配慮義務」

実際に、心肺停止で人が倒れてAED設置や使用が問題になったケースはあるのでしょうか?
 

「訴訟にまで発展するケースが多いのは、学校における心肺停止です。部活動や授業の最中に生徒が心肺停止で亡くなった事件では、親御さんが学校を相手に訴訟を起こした事例がいくつもあります。

争点となるのは安全配慮義務、すなわちAEDの適切な備えや使用ができたかどうかです。そして、時間が経つにつれてその考え方も変わってきました。
 

2010年に新潟県内の小学校で5年生の児童が心不全で亡くなった事件では、新潟地裁は『AEDを使用することは、期待されるものではあっても、義務であるという認識が一般的であったとは認められない』と遺族の訴えを棄却されました。一方で、5年経った2015年に、埼玉県内の高校で、女子生徒が強歩大会のゴール直後に亡くなった事件では、学校の救護体制が不十分でAED到着まで約20分かかったことから、さいたま地裁は学校側の注意義務違反を認めました。

時間が経過することでAEDの普及が進み、AEDが一般的になってきたことに伴い、AEDを含めた安全配慮義務についての考え方に変化が出てきたと言っても良いかと思います」
 

AED関連訴訟の多くは、AED不使用と死亡の因果関係を立証するのが困難であることから、残念ながら遺族の訴えが認められる事例は少ないとのこと。「せめてAEDを使ってくれていれば…」という遺族の無念は晴らされることなく、棄却か和解という判決に至っています。そのなかで、さいたま地裁において、学校側の注意義務違反を認めた判決が出たことは注目に値します。
 

「判例の変遷を見ると、裁判所のAEDの知見や救護体制への考え方が少しずつ変わってきていることは明確です。世の中においてもAEDの認知は広がりつつありますから、今度もこうした訴訟が起こることは予想されます。人の命はもちろんのこと、裁判で失われる社会的信頼の損失を考えれば、企業や行政がAED設置や救護体制を整えることは、今後リスク管理の一環となっていくかもしれません」
 

実際、企業を対象とするAED関連訴訟と安全配慮義務に関するセミナーでは、企業側が負う安全配慮義務について高い関心が寄せられています(下図)。また、セミナーに参加した企業の担当者からは「企業側が安全配慮義務についてとらなければいけない措置などがよくわかった」「お客様と同僚の安全に寄与したい」との声が寄せられました。

安全配慮義務に関心を持つ企業は多い

5分以内にAEDを使える配置か

AEDを設置する際は、いざというときに使える場所に置くことが重要です。AEDの「適正配置」はどう考えたらよいでしょうか。

 

「厚生労働省の定める『AED適正配置に関するガイドライン』では、心肺停止から“5分以内”にAEDによる電気ショックができるような配置が望ましいとしています。それは一つの目安になるのではないでしょうか」

 

なぜ、「5分以内」なのでしょうか?

 

「心肺停止時の救命率は、1分ごとに7~10%ずつ低下※1していきます。5分経つと最大約50%となり、生命の危険や身体へのダメージが大きくなる分岐点といわれます。かたや救急車の全国平均到着時間は約8.6分※2とされています。救急車を待つ間、私たちは何もできないと思いがちですが、5分以内というタイムリミットを考えると、まわりに居合わせた人の行動が大切になります。

 

ちなみに、救護者は、善意で今できるかぎりの救護活動を行なっていれば、民法第698条の『緊急事務管理』による免責が認められ、法的責任を問われることはありません。

 

ただし、ご注意いただきたいのは、通りすがりの第三者と、学校の先生やスポーツ施設の従業員などでは立場が異なるということです。後者であれば、救護義務が発生します。個人が法的責任を問われることはありませんが、雇い主側である学校や企業の責任が発生する可能性はあります」

 

日本では心臓突然死で1日約200人※3もの人が亡くなっています。これは交通事故による死者数の22倍※4、火災の53倍※5に相当します。しかし、AEDと胸骨圧迫を行うことで救命率は4倍に上がるのです。誰かの大切な人の命を守るために必要なのは、AED適正配置などのハード面、救護体制やAED教育などソフト面双方での取り組み。企業や行政、そして、私たち個人にできることは、まだまだたくさんあるのです。(取材・文 / 麻生泰子)

救急車到着前の行動が究明が大切です

※1 日本AED財団

※2,3 総務省消防庁「平成30年版救急・救助の現況」

※4 警察庁「平成 29 年中の交通事故死者数について」

※5 総務省消防庁「平成30年版消防白書」

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