心臓を原因とした心停止は1日約250人*1に起こっているといわれています。これは交通事故による死亡者数を大きく上回り、35倍に達します(図1)*2,3。そして交通事故と同様に、いつでも、どこでも、そして健康な人にも起こりうるのが心停止による突然死です。心停止で倒れた人が幸い命を取りとめる――その望みを実現するには、居合わせた人がその場で1次救命処置(BLS)を行うことが重要です。 図1
そこで、フィリップスでは、現在どれだけの人が救命救助への意識をもち、心肺蘇生法を体得しているのかを確認するための「心肺蘇生法とAED調査」を独自調査しました。 図2
今回の調査では「躊躇なく1次救命処置を行えるか」の質問に、1~5段階評価で3以下と自己判定した人が7割近くにのぼり、平均値は2.78でした(図2)。日本はAED普及率は世界トップクラスで、AEDを街で見かける機会も多くあります。それでも、救命処置は「躊躇する」「自信がもてない」と感じる人は少なくないようです。その原因を、アンケート結果を見ながら、考えていきましょう。
そもそも、なぜ心肺蘇生の1次救命処置を行うことを求められているのでしょうか? 大きな理由の1つは、心停止には非常に短い「命のタイムリミット」が伴うことです。心停止を起こすと、脳や全身に酸素が届かなくなり、命を救える確率は1分経過するごとに約10%ずつ低下する*5といわれています。救命処置ができずに10分経過してしまうと、救命率は1割以下にまで落ち込むのです。一方で、救急車の到着は、全国平均で10.3分*1かかっています(図3)。 図3
もし、その場に居合わせた人が胸骨圧迫とAEDによる心肺蘇生を実施できたら、結果はどう変わるでしょう。その場合、救命のチャンスは約8倍、社会復帰率が約13倍と、飛躍的に高まることがわかっています*1。今回のアンケートでも、心肺蘇生の重要性を認識している人は、合計で95%に達しました(図4)。 図4
心肺蘇生は素早く実施するに越したことはありませんが、時間の目安はあるのでしょうか。最新の救急医学では、3〜5分以内に胸骨圧迫とAEDの使用が望ましいとしています。今回のアンケートでは、3〜5分以内の救命処置の必要性を「知っていて、対策ができている」と答えた人は31%にとどまり、「知っていたが、対策していない」「全く知らなかった」という人は合計で69%にのぼりました(図5)。 図5
もしもの心停止発生に備えて、私たちにできる事前対策は大きく2つ挙げられます。第1に「心肺蘇生法の体得」、次に「AED設置場所の把握」です。AED設置場所については、よく行く場所や自宅近くのAEDを確認しておく、あるいはAED関連団体が提供しているAEDのマップなどで確認することもできます。一方、心肺蘇生法の体得では、学べる機会は多様化しており、各地の消防署や日本赤十字社などの外部講習、トレーナー機材の使用、本・WEBサイト・動画での学習などがあります(図6)。 図6
この中でも、「外部講習」はAEDや人体模型などを実際に使い、実践的に学べるうえ、専門家に評価してもらえるチャンスもあり、心肺蘇生法のスキルを身につける王道といえます。しかし、アンケートでは、外部講習を受けた回数が0回(39%)という人が4割近くを占め、次に多い3回以上(26%)という人の3割近くの数値と対照的な結果でした(図7)。多くの人が心肺蘇生の重要性を認識していたものの、実際に学ぶアクションを起こしている人と、そうでない人の差が大きいことが明らかになりました。 図7
ちなみに、市民向けガイドラインである『救急蘇生法の指針2020』(日本救急医療財団)では、1次救命処置の訓練は、受講から3〜12ヶ月で知識や意欲が衰えはじめると指摘しています。せっかく学んだ知識を定着させ、救命への意欲を持ち続けるには、定期的な訓練や再評価を行うことが欠かせないのです。ガイドラインでは1次救命処置のスキルを維持していくには、1〜2年以内に再受講することを推奨しています。
これらのことから、多くの人が1次救命処置を「躊躇する」「自信がもてない」と感じてしまうのは、実践の少なさが大きな要因となっていると考えられます。救命のアクションを起こせる人を増やしていくには、「繰り返し学べる機会を身近に増やす」ことが、めざすべき課題として見えてきました。
今回のアンケート調査で、共通した意見として「自主トレーニングのビデオがあると便利」(92%)、「日頃、AEDの実機やAED実機さながらのトレーナー機で練習することは有効だと思う」(99%)と、身近に学べるツールを望む声が圧倒的に多くあがりました(図8・9)。外部講習を補完する手段として、トレーニングビデオやAEDのトレーナー機を求める人が想像以上に多いことがわかってきました。 図8
図9
今回のアンケートの自由回答でも「AEDの使い方を実際に経験したい」「身近な家族への対応も含めてAEDの取り扱いは定期的に行うべき」「消防講習、防災士講習で受講したが、実機訓練をしないと実地対応は難しいと感じた」「会社でAED導入に関わり、ある程度の知識はあるが、やはり反復トレーニングは緊急時に必要だと思う」と、AEDを使った自主訓練の重要性を感じさせる声が多く寄せられました。アンケートでも「AED実機を心肺蘇生法の復習として使ってみたい」という声が8割以上に達しました(図10)。 図10
ちなみに、心肺蘇生法の自主トレーニングにビデオ(動画)が便利だと思う理由として多かったのが「リピートで視聴できる」(30%)、「好きな時に好きな場所でできる」(26%)でした。このほかにも「聴き逃した場面を振り返れる」「時間やスキルに応じて調整できる」ため、不安な点や記憶があいまいな部分が解消できる効果も期待されているようです(図11)。 図11
今回の調査から、自分のペースで繰り返しトレーニングできる環境やツールを充実させていくことが、市民の心肺蘇生法のスキル向上や自信を高めうることが見えてきました。 「親戚がAEDで2度助けられました。母も慢性心不全でたまに発作を起こします。AEDを使える方が沢山いれば命を救える確率も上がるので、自分もしっかり覚えたいと思いました。家族だけじゃなく、自分が誰かの役に立てたら良いです」 「先日職場で同僚が亡くなりました。一部の職員は講習も受けていましたが、初期対応の遅れが悔やまれます。繰り返さないために、より多くの者に定期的な訓練が必要と感じました。仕事柄2年に1度の講習を受講していますが、たくさんの人がAEDを扱えれば多くの命が救えるようになると思います」 心肺停止の現場に居合わせる可能性は、確率で考えたら高くはないかもしれません。しかし、滅多に起こらないからこそ、瞬時の判断と行動は誰もが難しく、だからこそ「トレーニングを繰り返す」意味があるのです。フィリップスは、AEDとそのトレーニング製品の充実を通じて「いつでも・誰でも使えるAED」環境を日本中に普及させて、誰もが命を助けられる社会づくりに貢献していきます。
誰でもAEDを使うスキルを高められるよう、フィリップスではAEDの実機に「トレーニングパッド」を装着することで、AED実機をトレーナー機としても使用できます。このトレーニングパッドは、ご家庭に備えている家庭用AEDだけでなく、小売店や事務所など小規模施設に設置している法人用AEDを用いての1次救命のトレーニングにも適しています。
また、AEDトレーナー機もあります。AEDトレーナー機があれば、玄関エリア等に設置中のAEDを動かすことなく、会議室やホールや屋外などでの定期的な救急救命講習会で活用することができます。CPRコーチング機能によりAEDの使用手順だけでなく、胸骨圧迫時の手の位置やテンポを体で覚えることができ、いくつか用意してあるシナリオ選択によって臨場感あるトレーニングが実施できるもので、最近製品リニューアルも行い、更にAED実機さながらの仕様にバージョンアップしました。
今回のアンケートでは、心肺蘇生の現場に実際に関わった人からの貴重な声も寄せられました。
フィリップスのAEDについてはこちら 働く人の心停止リスクと向き合う。 産業医が教える職場の健康診断の活かし方| フィリップス “天空の城”竹田城跡に、なぜAEDがある?地域の共助精神から生まれた「観光客の安全対策」 | フィリップス 胸骨圧迫とAEDの普及で、救命処置を奇跡ではなく“当たり前”に変える | フィリップス 心停止発生の7割が自宅という健康リスクへの対策。フィリップスのAEDが「人にやさしい」理由 | フィリップス (philips.co.jp) 誰もがヒーローになれる社会をめざしてAEDをつかう「勇気」をそだてる社会づくり | フィリップス | Philips アンケート概要: フィリップス「心肺蘇生法とAEDに関する調査」 期間:2024年8月2〜14日 方式:インターネット 有効回答数:878人 *1 総務省消防庁「令和5年版 救急・救助の現況」 *2 警視庁「令和4年度中の交通事故死者数について」 *3 総務庁消防庁「令和5年版 消防白書」 *4 日本救急医療財団・心肺蘇生法委員会「救急蘇生法の指針2020(市民用)」 *5 Holmberg M et al.Effect of bystander cardiopulmonary resuscitation in out-of-hospital cardiac arrest patients in Sweden Resuscitation 47:59-70,2000 参考.アンケート回答の趣旨が変わらない範囲で、文体を複数回答者間で合わせるなどの文言微調整を行っております。
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