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9 15, 2018

いつ、誰にでも起こりうる心肺停止の怖さ。あなたができる救助の心構え

ページを読む時間の目安: 3-5 分

誰にでも起こりうる心肺停止リスク。目の前で倒れた人の命を救うには、プライバシー問題から周囲の対応力まで多くのハードルがあります。私たちが知っておくべきことは?

AEDを使った心肺蘇生活動には、多くの人のヘルプが必要  

心肺停止時には、倒れた人の服を脱がせた上で電極パッドを上半身に貼り、発生から5分以内にAEDによる電気ショックを与えることが必要です(日本救急医療財団『AEDの適正配置に関するガイドライン』)。その際の蘇生率は50%で、5分を過ぎると1分ごとに蘇生率が10%ずつ下がります。日本における救急車の到着時間は平均8.5分。つまり、救急車の到着を待たず、その場に居合わせた人(あなた)が、すぐに対応することが不可欠なのです。

 

心肺停止という緊急事態が起きたとき、近くにAEDがあれば命を救える可能性が高くなります。でも、倒れた人が知らない人や異性だったら?AEDは、電極パッドを上半身の肌身に直に貼って使用する必要があるため、倒れた人が異性だった際にプライバシーへの配慮が頭をよぎり、躊躇してしまうことも考えられます。心肺蘇生は一刻を争います。少しでも早くアクションを起こすことが、命を救う最大のカギとなります。そこで「つなぐヘルスケア」編集部では、フィリップスメールマガジン読者を対象に、AED使用時のプライバシーに関するアンケート調査を実施しました。

 

アンケート結果によると、医療従事者以外の一般の人が救助にあたる場合、「AEDを使うために異性に衣服を脱がされること」について、女性の合計86%が不快感、もしくは抵抗感を感じるとの回答結果でした(下グラフ)。さらに、プライバシー配慮については「周りの人から見えないようにしてほしい」という要望も寄せられました。

これらのアンケートの回答をふまえ、日本とアメリカでの救急救命士資格をもつフィリップス・ジャパンの成川憲司に、プライバシーに配慮した対応方法と、実際の場面での流れを聞いてみました。

 

「倒れた人のプライバシーをに配慮するには、 “救護者で人垣をつくる”のがベストだと思います。近くの人に声をかけてまわりを取り囲んでもらうのです。倒れた人が女性ならば、女性に多く声をかけて呼び込んでいくといいでしょう。人を呼び込むのは、救護をスムーズに行ううえでも重要です。なぜなら倒れた現場の状況にもよりますが、呼吸や意識の有無を確認する人、119番通報する人、AEDを取りにいく人、施設の管理者を呼びにいく人、救急車を誘導する人など複数の人手が必要だからです」

 

思ったよりも多くの人のヘルプが必要となるのですね。手助けしてくれる人は集まるでしょうか。

 

「不特定多数に向けた呼びかけより、『女性の方、協力してください』『そこのスーツの方、手を貸してくれませんか』など個々に向けた呼びかけが有効です。特定の人に向けて発することで“自分事”として意識が切り替わるのです」

 

AEDを使った心肺蘇生活動は、できれば複数の人で行うのがいいのですね。助ける人たちが人垣となれば、通りすがりの人からジロジロ見られることは少なくなります。視界をさえぎるテントやついたてがある場合は、それを使うのも効果的です。また、複数の人がいることで救命の可能性が高まるだけでなく、救助者は、倒れた人が意識を回復した後も、服を脱がしたのはあくまで救命のためであったことも立証しやすく、あらぬ疑いをかけられにくくなります。

AEDを使った心肺蘇生活動には、多くの人のヘルプが必要

胸骨圧迫+AED、みんなの力で命をつないでいく  


「呼吸がない場合、胸骨圧迫で心臓の代わりに全身に血液を送る必要があります。圧迫のペースは1分間100~120回、成人であれば深さ5センチ以上6センチ未満、胸が凹むぐらいの力で押します。(小児は胸厚の3分の1程度)胸骨圧迫は、強い力とスピードが必要です。一般の人ならば1分間も行えば、階段を駆け上ったときと同じぐらい息が苦しくなってくると思います」

 

AEDや救急車の到着が遅れるケースも考えられます。救護者が複数いれば、交替しながら胸骨圧迫を継続することができますね。

「一般的に心肺蘇生には「胸骨圧迫、人工呼吸、AED」の3つの要素が必要とされています。ただし、人工呼吸はスキルが必要で、経験がないと適切に実施できない可能性も。さらに、粘膜や唾液など患者への接触は感染症のリスクも伴います。したがって、慣れていない人が行う場合は、胸骨圧迫に集中するほうがいい場合もあります。とにかく胸骨圧迫をしっかり行うことが第一。ただし、胸骨圧迫だけで心拍が再開する確率は低く、AEDによる心臓への電気ショックは不可欠です」

 

胸骨圧迫+AED、この二つが命を救うアクションなのですね。

 

AEDを使う際は、電極パッドを倒れた人の右胸と左腹に直接貼りますが、アンケートでは「上半身の衣服を脱がせることに抵抗がある」と答えた割合が男性では75%、女性では70%にのぼりました。

 

「無理に脱がす必要はありません。シャツや下着の下から電極パッドを滑り込ませて貼る方法でも大丈夫です。それでも男性は倒れた人が女性だと躊躇するかもしれません。救急救命士の中には、倒れた人の意識の有無に関わらず『腕を上げますよ』『服を開けますよ』と声かけしながら処置をする人もいます」

 

声かけをしていけば、心理的にも対応が進めやすくなります。また、助ける側も、言葉に出すことで、焦る心をしずめることにつながるかもしれません。

胸骨圧迫+AED、みんなの力で命をつないでいく

正しい処置の進め方は、AEDが教えてくれる  


アンケートでは、倒れた人の衣服を脱がせることに抵抗がある理由として「人前で他人の衣服を脱がす行為がイレギュラーすぎる」という回答が最多でした。さらに「配慮不足で訴えられるのが怖い」「AEDを使わないと救えない状況であることを認識できず、プライバシーを優先してしまいそう」という回答も目立ちました(下グラフ)。

 

「AEDを使った心肺蘇生活動で、基本的には個人が訴えられることはありません。

『JRC心肺蘇生ガイドライン2015』では、呼吸の有無が判断できなかった場合、直ちに胸骨圧迫とAEDを実施することが推奨されています。胸骨圧迫とAEDを実施することで、呼吸がある場合、は身体が反応することもあります。また、AEDは、心電図が状況を判断し電気ショックを行うか自ら判断しますので、迷わずに使うことが大事なのです」

厚生労働省は、人命救助のためのAED使用は刑事罰、民事罰ともに「原則として免責される」という方針を打ち出し、その方針に従ったAED条例を制定する自治体も増えています。

 

「一般の人が判断するのは難しいからこそ、AEDが必要なのです。AEDを使えば、搭載されたアルゴリズムによって電気ショックが必要か不必要かを判断し、指示してくれますから」

 

衣服を脱がすこと、AEDの使用は、個人の責任は問われない——このことを多くの人が知ることで、人命救助を第一にした行動ができる社会へと変わっていくことを期待したいですね。

正しい処置の進め方は、AEDが教えてくれる

多くの人が集まる施設に救命のためのEAP体制  

成川は、AEDを使った心肺蘇生活動の決め手となるのは、居合わせた人たちの行動力、さらには現場となった施設の対応力だと言います。

 

「例えば、駅、スタジアムやショッピングセンター、オフィスビルなど公共の場で、心肺停止が起こったと想像してみてください。どう対応する? AEDはどこ? 救急車が到着できるエリアは? 救急隊救命隊員をどう誘導する? シミュレーションしてみると、たまたま居合わせた人たちの力だけでは対応が難しいケースが多く想定されるのです」

 

慣れない場所ではAEDの設置場所などがわからず、施設職員のサポートが不可欠です。こうした現実をふまえ、成川が現在進めているのは、施設に向けた救護体制のEAP(Emergency Action Response Plan /緊急時対応プラン)の構築です。

 

「多くの人が集まる施設では、火災に備えて消防訓練を実施することが消防法で義務づけられています。かけがえのない命を救う人命救助も同様であるべきです。AEDが必要となる場面を想定した訓練をして、事前に準備し体制づくりをしていくこと。特に人が集まる施設やイベントにおいては必要不可欠です」

成川は「心臓突然死は、年齢や持病の有無に関わらず誰でも起こりうる」と訴えます。いつ、誰が、どんな症状で倒れるかをあらかじめ予測することはできないのです。しかし、私たち個人でできることを想定して備えること、さらには多くの人が集まる施設側では救急救命のEAPを万全しておくことはできます。それは誰かの命を救う確実な第一歩となるのです。(取材 / 文・麻生泰子)


<監修>

成川憲司

株式会社フィリップス・ジャパン エマージェンシーケア&レサシテーション クリニカルスペシャリスト

救急救命士

日本の大学を卒業後、米国パロマカレッジにてParamedicを取得。アメリカでの救急救命の実務経験を経て帰国。その後、帝京大学医療技術学部スポーツ医療学科救急救命士コース教員。現在、フィリップスにてAEDを最大限に活かす救護体制づくりを策定。その一環として、救命救助のEAP(緊急時対応プラン)のプロジェクトを推進する。

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