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6 15, 2018

「私に助けが求められた」と考える。誰かの未来を変える、人命救助のリレー

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「目の前で倒れた人がいたら『私に助けが求められた』と考えてほしい」そう語るのはライフセービングの第一人者、小峯力教授。その人の人生、背後にいる家族を想うことから人命救助は始まります。

オーストラリアで出会ったライフセービングの精神とは?

小峯教授は1987年にオーストラリアで日本初のライフセービング指導者認定を受け、日本にライフセービングを普及させてきました。水難救助の先進国での経験はその後の人生をどう変えたのでしょうか。

 

「僕は『溺れた人を助けるんだ!』という使命感に燃えていました。ところが、オーストラリアでは、そんな僕の価値観をガラリと変えられる経験の連続でした。
 

最初の訓練は、荒れ狂う海でのレスキュー。台風のようなコンディションの高波に飛び込まねばならない。僕はあっというまに波に巻き込まれ、海中で揉まれて必死にもがきました。

 

その最中、指導者に助けられました。命からがら岸に着くと彼は『苦しかったか』と僕に聞くのです。そして、こう続けたのです。溺れる者の苦しみは、さらにその向こう側にある。

溺者の苦しみを生まないために、自分に何ができるかをまず考えろ、と

ライフセーバーは溺れた人を助ける存在————その考えをもう一度、見直すことを求められたのですね。

 

「答えを指し示してくれたのが、シドニーのライフセービング協会に貼ってあった1枚のポスターでした。監視所のデスクに座り、マイクを握っている車椅子のライフセーバーの姿が写っていました。

 

彼は天気図を読み解き、海のコンディションを知り尽くしている。大きなうねりが沖で発生すれば、波がビーチにたどり着く時間を逆算して、海水浴客を岸に上がらせるのです。彼は自力で助けにいくことはできないかもしれませんが、数千人もの生命を救うことができるのです。

レスキューせずして、本当の意味でのレスキューを実現している。これこそライフセービングです。僕はこの精神を日本で広めねばと決めたのです」

ライフセービング活動で最も大切なのは「ウォッチング」だと小峯教授は説きます。人を観察し、行動を予測して、未然に事故を防ぐ。それでもなお溺れる人がいれば、海に飛び込んで助けにいく。見守る「静」と、助けに向かう「動」――二つのスキルを磨くことがライフセーバーの訓練なのです。


「ライフセーバーを志す者に共通するのは『人の命を助けたい』という純粋な思いです。しかし、自分の身を危険にさらすような無謀なレスキューは、二重事故を生みかねない。他人だけでなく、自分の命を守ることができるよう、判断力と身体能力を徹底的に鍛え上げていくのです。

すると、彼らの心の中にある気づきが芽生えます。

人を助けたい!と思って訓練に入ったはずなのに、いつのまにか自分自身が心身ともに強い人間に成長している。

誰かを助けようとしたことで、自分自身も助けられていたのだと気づく瞬間が訪れるのです」

人命救助の限界”を超えた、AEDの登場

これからの季節、野外でのスポーツやレジャーが多くなります。海水浴場やプールではライフセーバーがいますが、突然の心停止などのアクシンデントは、あらゆる場所で起こるリスクがあります。その場に居合わせたとき、私たちはどうしたらいいのでしょう。


「救命処置とAEDで救助を試みてほしいと思います。救急車が到着する時間は全国平均で8.1分です。

ライフセービングの本質を語る小峯教授
生命と全身の機能を守るタイムリミットは心肺停止から約5分以内です。ファーストレスポンダー(最初の対応者)になれるのは、その場に居合わせた人だけなのです。

私たちライフセーバーもファーストレスポンダーです。救急車が到着するまでの間に救命処置をして、救命士にバトンをつなぐ。しかし、かつては溺者の6、7割は助からないような厳しい状況でした。

 

この状況を一変させたのが、AED(自動体外式除細動器)でした。心肺停止から3分以内にAEDによる心肺蘇生に着手できれば、4人に3人は助かるようになったのです。我々にとっての救世主でした。素晴らしいのは誰でも使えることです。AEDは人命救助の限界に大きな風穴を開けたのです」

 

突然の心停止は、日本ではがんに次いで第2位の死亡原因とされます。自分の身近な人や誰かの大切な人が目の前で倒れたとき、救命処置とAEDで生命を助けられる可能性が高まったのです。ただ、実際にAEDを使う局面になれば戸惑う人も少なくないかもしれません。

 

「広く認知されるようになったAEDですが、もっと身近に、みんなが活用できる必要があります。そのために僕はこう考えてほしいと思います。

あなたの目の前で倒れた人がいる。幸いにしてAEDがある。それは『あなたに助けが求められた』のです。

目の前で起きていることを、自分自身のストーリーとして受け止める。あるいは、倒れた人にも大切な家族がおり、それぞれに紡いできた人生のストーリーがある。そう考えることから人命救助のリレーは始まっていくのです。

AEDをもっと身近に

あなたにもできる。ライフセービングの精神

小峯教授は国内で5万4000人ものライフセーバーを育成してきました。日本ライフセービング協会理事長、海上保安庁アドバイザーなどを歴任し、現在は中央大学で救急教育学などを教えています。今後の目標とするのは?

 

「国民一人ひとりにライフセービング(救命行為)の精神を根づかせることが、これからの僕のライフワークです。たとえば、人命救助法の義務教育化。小中学生から体育の授業で救命処置を学べるようにしたいと考えています。

 

例えば、『倒れている人がいる。どうする!?』『誰がAEDを取りに行く?』とシミュレーションゲームのように学ぶ。ゲームでは敵を何人倒したかで点数がつきますが、人命救助の授業は正反対です。

人を多く助けた子がヒーローになれる。子どもたちが『人を助けることはカッコいい』と感じとってくれれば、いじめだって減ると思います。

高齢者も、レジャー施設の監視役やライフセーバーとして活躍できる場ができるといいと思います。オーストラリアの海では、高齢者のライフセーバーが活躍しています。自分が助けねばという自覚が生まれるから、足腰も鍛えるし、病気や寝たきりになっている場合じゃないぞ!と奮起できるのです」

みんなが「誰かのライフセーバーになろう」と行動することが、社会をより良い方向に変える力になる。

ライフセービングの精神は一人ひとりの自立を促すとともに、相互に助け合える社会をつくります。私たちも誰かを助けるために、行動できることがあるはず。その行動は強く生きる力となって自分自身に戻ってくるはずです。(取材・文/麻生泰子)

ライフセービングの第一人者、小峯力教授

<プロフィール>

小峯 力(こみね・つとむ)

日本ライフセービング協会スーパーバイザー
中央大学理工学部人間総合理工学科教授
同大学院都市人間環境学専攻(救急救命学)教授
1987年、オーストラリアでライフセービング・イグザミナー(検定官)資格を取得。日本ライフセービング協会理事長、国際ライフセービング連盟(ILS)教育委員、日本臨床救急医学会専門委員、日本救護救急学会副会長、海上保安庁アドバイザー、日本海洋人間学会副会長等を歴任。RESCUE’90、92、94世界選手権日本代表監督。日本体育大学大学院助手、東京大学医学部看護学校講師、流通経済大学教授、同大学院スポーツ健康科学研究科教授を経て、現在、中央大学教授、博士(救急救命学)

 

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