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10 15, 2019

埼玉県春日部市の地域の見守り役!AED搭載ごみ収集車で人命救助を実現

ページを読む時間の目安: 3-5 分

救急搬送された心肺停止の約7割は自宅で発生します*1。AEDの設置が少ない住宅地域でいかに市民の命を守るか――AED搭載の可燃ごみ収集車が地域を回り、人命救助に貢献している春日部市の事例を紹介します。

突然の心肺停止。そのとき、どうする?

2019年7月24日10時半頃、連日の猛暑が続く埼玉県春日部市内で、AEDを必要とする緊急事態が発生しました。粗大ごみ収集作業中の40代の作業員の男性が、卒倒して心肺停止となったのです。最初に気づいたのは、同僚の石津哲也さん(写真・右)

「駆けつけると、意識のない状況でした。急いで119番通報して救急車を呼び、私はすぐに胸骨圧迫を始めました」(石津さん)
 

「胸骨圧迫をするうちに、地域を回っていた可燃ごみ収集車が近づいてきたので、大声で応援を呼んだのです」(石津さん)
 

通りかかった可燃ごみ収集車に乗っていたのは、小林克雅さん(写真・中央)と小野沢佳明さん(写真・左)。春日部市では可燃ごみ収集車へAEDを搭載しています。運転席に常備しているAEDを手にとると、すぐに駆けつけました。
 

「いつも一緒に働いている仲間が倒れていることに驚きました。石津さんが必死に胸骨圧迫をしているのを見て、とっさに自分にできるのはAEDだと判断しました。AEDの電源を入れてガイダンス音声に従って、胸にパットを貼り、電気ショックを実行しました」(小林さん)
 

「その間、私は周囲の交通の安全を確保し、会社に連絡して状況を伝え、代車手配などの応援要請をしました」(小野沢さん)
 

AEDは、倒れた人の心電図を自動的に解析し、電気ショックの有無を判断してくれます。必要と判断した場合、音声の指示に従って、心臓を拍動させるための電気ショックのボタンを押します。その後、胸骨圧迫(可能ならば人工呼吸も)を再開し、ふたたびAEDによる電気ショックの指示があるまで続け、胸骨圧迫と電気ショックをくり返します。
 

石津さんが胸骨圧迫と人工呼吸、小林さんがAEDによる電気ショック、小野沢さんが応援要請と安全確保と「救命の連鎖」が行われ、それぞれが同僚の命を助けるために全力を尽くしたのです。

小野沢佳明さん、小林克雅さん、石津哲也さん

AED講習会が「救命の連鎖」につながった

春日部市からごみの収集・運搬を委託されている春日部環境衛生事業協同組合では、収集にあたる作業員のAED講習会を消防署の指導のもと行っています。すでに4月には、3人は2回目となる講習を受けていました。

「講習会では、AEDを持ってくる人、救急車を呼ぶ人などと役割分担して、シミュレーション方式で訓練します。いざとなると、やるべきことは頭の中で明確でした。迷うことなく手順を進められたのは、講習会のおかげだったと思います」(小林さん)
 

「講習会で習ったとおりに胸骨圧迫と人工呼吸を行いましたが、当然ですが人に行うのは初めて。正しくできているか不安はありましたが、同僚の命を助けるためにとにかく無我夢中でした」(石津さん)
 

石津さんが第一発見の段階で、あえぐような呼吸から「死戦期呼吸」に気づき、胸骨圧迫のアクションを起こせたことも、講習会の大きな成果といえます。
 

通報から約8分後に救急車が到着。同僚は救急救命士の処置を受け、救急病院に搬送されていきました。
 

心肺停止を起こすと、生存率は1分ごとに10%ずつ下がっていき*2、救急車到着後では間に合わないケースも多いのが現実です。しかし、3人の的確な救命活動があったおかげで、同僚の方は一命を取り留めました。緊急手術にあたった医師からは「救急処置が早かったおかげで手術も成功し、命を助けることができた」と感謝されたそうです。
 

その後、同僚の方は後遺症もなく順調に回復して9月から職場復帰し、ふたたび元気に働いています。
 

「春日部消防署からは感謝状もいただきましたが、また一緒に働けることが何よりうれしい。倒れた同僚は、持病などもなかった働き世代です。今回の経験を通じて、心肺停止はいつ誰に起こるかわからないとあらためて実感しました。家族ともAEDの設置場所は知っておこうと話をしました」(石津さん)

AEDを搭載した春日部市ごみ収集車

“AEDデリバリー”で、地域の安心を実現する

春日部市における可燃ごみ収集車へのAED搭載は、収集車が市内を回るメリットを生かし、地域に貢献したいという春日部環境衛生事業組合の思いから、「家庭ごみ収集運搬車両への自動体外式除細動器(AED)搭載に関する協定」を締結し実現しました。救急搬送された心肺停止の約7割は「自宅」で発生する*1とされています。AEDは、駅や学校、商業施設など人が多く集まるエリアへの設置は進んでいますが、住宅地域への配置はこれからの大きな課題です。この課題に向き合い、いち早く行動を起こしたのが春日部市です。
 

もともと春日部市は、健康政策に積極的な取り組みを行っている自治体です。2009年には、23万人の市民の健康と命を守るべく「AED普及計画」を策定し、現在、学校や公民館などの公共施設やごみ収集車等に176台のAEDを配置しています。また、市民の関心も高く、2018年には、消防署主催のAED講習会が131回行われ、2,992人もの市民が受講しています。
 

こうした市を挙げての意識の高さが、可燃ごみ収集車のAED搭載という着想につながったのです。最近では、ごみ収集車に防犯カメラも搭載し、“地域の見守り役”としてますます心強い存在になっています。
 

可燃ごみ収集車は週3回、「おさるのかごや」のメロディを流しながら市内全域を巡回します。石津さんがすぐに仲間を呼べたのも「ごみ収集車のいつものメロディが聞こえて、近くにいることがわかった」おかげだと振り返ります。
 

春日部市のごみ収集車へのAED搭載は、住宅地域におけるAED体制づくりの優れたお手本です。国内における心臓突然死は1日約200人、じつに7.5分に1人の割合で亡くなっています*3。少しでも減らすためには、5分以内にAEDを取りに行ける “適正配置”が望ましいとされますが、エリアや時間帯によってはむずかしい場合もあります。春日部市のような“AEDデリバリー”の新たな発想で、町中にAEDの救命ネットワークを張り巡らすことができれば、助かる命はもっと多くなるはずです。(取材・文 / 麻生泰子)

発生場所別心肺停止傷病者(平成29年)

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