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毎年、職場で実施される健康診断は、より健康で元気に働くためのヒントがいっぱい詰まっています。従業員や会社側は健康診断をどう活かすことができるのか――産業医の木下翔太郎先生に伺いました。

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健康診断は従業員も義務

 

会社勤めの場合、毎年受ける健康診断の結果をみて、1年間の振り返りや、今後の改善に活かせていますか? 従業員が受ける健康診断は、会社側の義務であると同時に、実は従業員側の義務でもあります。従業員の健康診断受診義務には、日本の医療制度と深いつながりがあると木下先生は話します。


「日本のように従業員への健康診断を企業に義務付けている国は多くはありません。健診制度は、日本が1961年に世界に先駆けて確立した国民皆保険制度とセットで考えることができます。国民皆保険のおかげで誰もが医療を安価で受けることができますが、もし国民がひっきりなしに受診すれば医療費がかさみ、医療機関もパンクします。みなさん一人一人が定期的に健康診断を受けることで自分の健康を自分で守るようにしていただくことが重要です。そして従業員は企業に対して自己保健の義務を果たす必要があります」

日本の労働者の約6割が健診で異常と診断 

 

健康診断で「異常あり」と判定される割合は年々増加していると聞きますが、それはなぜでしょうか。

 

「2023年の日本における全労働者の一般健診の有所見率は58.9%にのぼります。つまり、6割近くの人が健康状態に何らかの異常があると診断されています*1。有所見率は年々上昇傾向にあり、2007年と比べても10%も上昇しています*2。これは、生活習慣の変化に加え、労働者の高齢化が一因と考えられます」

 

私たちの身体は、体質だけでなく、生活習慣や加齢に大きく影響を受けます。こうした身体の変調は自分で気づかないことも多く、健康診断で客観的に知ることは健康づくりの大切な一歩なのですね。

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労働者の1割にのぼる心電図異常。まずは医師に相談を

 

自分の健康は自分で守る観点から、健康診断の結果で注意すべき項目があれば教えてください。

 

「年々増えている生活習慣病に関して言うなら、脂質・血圧・血糖は毎回しっかりチェックしてほしいですね。生活習慣病は、進行中は自覚症状がほとんどなく、明らかな不調や症状が現れる段階ではかなり悪化しています。逆に言うと、健康診断でちょっと数値が悪いぐらいの段階ならば、運動や食事など生活習慣の改善で正常値に戻せるケースも多いのです。

 

一方、ちょっとした異常値も甘く見ず、慎重に判断する必要があるのが心電図の項目です。他の項目と比べ、心機能の異常は、突然倒れるリスクが高いので油断大敵です。これまで心臓に問題がなかった人でも、お薬の副作用などによって、失神や心臓突然死につながりかねないQT延長症候群やブルガダ症候群という心疾患を発症しているケースもあります。日本では、労働者の心電図異常が11%近く*1にのぼるので、けっして人ごとではないと捉えていただきたいですね」

 

脂質・血圧・血糖の異常は、前年の数値と比較したり、生活習慣の見直しを図ったり、場合によっては病院に受診して時間をかけて改善していくことが大切だと木下先生は話します。一方、心電図で異常所見が認められたら、先延ばしせず、産業医やかかりつけ医へのすぐさまの相談が必要になります。

 

「今は心電図に異常がないという人も、脂質・血圧・血糖の異常値が長く続けば、動脈硬化が進み、心血管系の疾患を引き起こすこともあります。ネットで調べると、年齢・性別・血圧・脂質・血糖・家族歴などからご自身の心疾患発症リスクを算出する方法も紹介されているので試してみてください。

健康診断では把握しにくい、睡眠に関する病気も危険

 

自分の健康状態を客観視する手段として有効な健康診断。しかし、健康診断では把握することが難しく、生活習慣病の引き金にもなりうる睡眠に関連する病気があると木下先生は指摘します。

 

「それは睡眠時無呼吸症候群(SAS)です。寝ている間に喉が塞がることで、呼吸が止まってしまったり、一晩に何度もいびきをかく病気です。単なるいびきと思われがちですが、睡眠時無呼吸症候群は心血管系に多大なダメージを与えかねない深刻な病気です。

 

睡眠時無呼吸症候群が体にダメージを与えるルートは、大きく3つあります。1つめは〈血圧上昇〉。喉が塞がって低酸素状態になると、全身になんとか酸素を送り続けようと心臓の拍動が高まり、血圧が上がります。この高血圧状態が続くと、血管が硬くなり動脈硬化につながります。2つめは〈心臓の負担〉です。酸素を取り入れようと心拍数が上がると、寝ている時にも激しい運動をしているような状態となり、心臓が疲弊してさまざまな心疾患にかかりやすくなります。3つめは〈酸化ストレス〉。低酸素状態と正常な状態を繰り返すと酸化ストレスにさらされ、臓器や血管の細胞にダメージを与えます」

 

睡眠時無呼吸症候群の主な症状は、睡眠中に発現するので把握されにくく、睡眠不足や居眠り、高血圧などの不調で受診してようやく判明するケースも少なくないそうです。「昼間に睡魔に襲われる」「よく眠れない」「いびきをよく指摘される」など睡眠の不調を抱えている人は、ネットで簡単セルフチェックできます。単なる睡眠不調と思っていたら、生活習慣病や心血管疾患を誘発しかねない睡眠時無呼吸症候群は、まず自分で自覚して行動を起こすことが大切です。

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労災のリスクが高い職場では、会社の安全配慮義務が問われる

 

会社側からすると健康診断は、従業員が健康かつ安全に働ける環境をつくるために役立つものです。もし、従業員が心停止などにより職場で倒れてしまったとき、会社に責任が問われることがあるのでしょうか。

 

「たとえば、劣悪な環境で長時間働かせていたり、健康診断などで異常値が出ている人、持病がある人、高齢の人などに過重労働をさせていることがあれば、安全配慮義務上の会社側の責任が問われると思います。一方、従業員側も、健康診断での再検査や要治療の判定を病院などに行かず放置していた場合、義務違反が問われるケースもあります。仕事中のケガや急病は、体を使った作業が多い業種はとくにリスクが高いとされています。たとえば、脳・心疾患に関する労災補償件数は、業種別で多い順に、運輸・郵便業、卸売・小売業、建設業となっています*3」

 

万が一、職場で従業員が心停止で倒れたとしたら――と想定してみましょう。心停止発生時は1分ごとに救命率が約7%から10%ずつ低下*4するとされますが、救急車到着には平均で10.3分*5かかります。倒れた従業員の命を助けるには、職場で居合わせた人が心肺蘇生を実施できるか否かが重要です。この問題について、職場でできる対策はありますか?

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「大きく2つあります。1つは、胸骨圧迫とAEDによる心肺蘇生法を誰もができるようにしておくことです。会社で救命講習を定例開催するなど、多くの人に受講するのが望ましいでしょう。もう1つは、職場でのAED設置です。人が多く集まる交通機関や商業施設ではAEDを必ずといっていいほど見かけるようになりました。しかし、会社については、設置していない企業がまだ多いと思います。職場ごとにAEDを設置し、AEDの管理や救命講習会などを担当する救急・防災担当者を任命することが望ましいですね。AEDをどの位の間隔で置くかといった設置基準は、日本救急医療財団の「AEDの適正配置に関するガイドライン」を参考にしたり、産業医に相談してみるのもいいと思います」

 

大阪府(2005〜2011年)の統計を見ても、会社は自宅・介護施設に次いでAEDショック実施率が低いです。職場のAED講習会や設置は、従業員の健康のために会社が取り組む課題かもしれません(目撃件数が最も多く、心肺蘇生術実施率・AEDショック実施率ともに低い住宅での備えについては、「Home AED は心疾患患者さんとご家族の心の支えになる」「救命率を高めるには住宅を含めた適正配置と市民の意識向上が不可欠」「心停止発生の 7割が自宅という健康リスクへの対策」の記事で取り上げています)。

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従業員の健康と、健全な職場環境を担う「産業医」という存在

 

産業医は、従業員50人以上の会社で選任することが労働安全衛生法で義務づけられていますが、産業医は普段どんな仕事をしているのでしょうか。

 

「従業員が健康的で安全な職場環境で働けるように専門的立場から指導・助言を行うのが産業医の役割です。具体的には定期的に会社訪問し、健康診断やストレスチェックなどの結果を分析して従業員の健康状態を把握し、気になる所見がある方に個別連絡したり面談したりします。また、メンタルも含め健康上の悩みを抱える方の相談、休職中の従業員の復帰サポート、職場巡視、衛生委員会出席なども行ないます」

 

従業員は、健診結果で不明点や気がかりなこと、健康の悩みに関して気軽に産業医に相談してよいのでしょうか。会社とつながりのある産業医に健康状態を打ち明けるのは抵抗がある人もいるかもしれませんが。

 

「産業医にぜひご相談ください。病院に受診するのはちょっとハードルが高いですが、産業医ならば無料で早期に相談できます。健康診断の結果や、病院に行くべきかわからない段階の健康の悩みを相談するには、産業医は適任だと思います。

 

また、従業員の方がとくに打ち明けにくいのはメンタルの相談かと思います。私は産業医だけでなく、精神科の診療や研究をおこなっていますが、メンタルの病気はご本人の心の弱さや落ち度ではなく、家族との死別などライフイベントや職場のストレス、体調不良などが重なることで誰にでも起こりえます。一人で抱え込まず、できるだけ早い段階で医師に相談して心の荷を下ろすことが、健康を取り戻す近道につながります。産業医が面談で知った内容を本人の同意なく会社に漏らすことはないので、その点もご安心ください」

 

産業医がいない会社では、従業員の健康上の問題が生じた場合、人事や労務の担当者は各地域にある地域産業保健センターに相談してみるといいと木下先生はアドバイスします。健康に問題のある従業員に向けた医師の面談と指導、医師や保健師による健康相談、個別訪問による産業保健指導などを行ってくれます。

 

健康診断や産業医は、明日も元気に働くために、今の自分の身体が必要としていることを教えてくれるありがたい存在なのですね。仕事は人生の多くの時間を占めており、職場で過ごす時間も長くなります。毎年1回の健康診断を通じて、ご自身の身体の状況とポジティブに向き合う機会にしてみてはいかがでしょうか。

 

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フィリップスの睡眠時無呼吸症候群(SAS)についてはこちら

いびき等が気になる方は睡眠時無呼吸症候群の可能性をセルフチェックはこちら

 

プロフィール

木下翔太郎

慶應義塾大学医学部特任助教

医学博士 労働衛生コンサルタント 日本女性心身医学会認定医 

1989年生まれ。千葉大学医学部卒業後、内閣府勤務を経て、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室に所属。精神科医・産業医として勤務する傍ら、医療政策や予防医療などの研究に従事。著書に『国富215兆円クライシス 金融老年学の基本から学ぶ、認知症からあなたと家族の財産を守る方法』(星海社)、『企業は、メンタルヘルスとどう向き合うか』(共著・祥伝社)がある。

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*1 厚生労働省「定期健康診断結果報告」(令和5年)

*2 厚生労働省「定期健康診断結果報告」(平成19年)

*3 厚生労働省「過労死等の労災補償状況」(令和5年)

*4 Holmberg M et al.Effect of bystander cardiopulmonary resuscitation in out-of-hospital cardiac arrest patients in Sweden Resuscitation 47 :59-70,200

*5  総務省消防庁「令和5年版 救急・救助の現況」

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