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街中で見かけるようになったAEDですが、救命率を高めるには、住宅を含めた適正配置と市民の意識向上が不可欠です。AED普及の歴史と未来を救命医療の第一人者、田中秀治国士舘大学教授に伺いました。

aed 20 years

「一般市民が使えるAED」が日本に登場するまで

 

日本では、毎日多くの人が心臓突然死で亡くなっています。その数は1日約220人にのぼり、約6分に1人のペースで、心臓突然死で尊い命が失われているのです*¹。たとえば、人々が行き交う街中で、ある人が突然倒れたら、どんなことが起きるでしょうか。そばにいる人が声をかけて、誰かが119番通報する。そして、誰かがAEDを探しに行く――そんな市民の連携が繰り広げられるものと思います。私たちは駅や商業施設、公共施設などでAEDを目にします。しかし、ほんの20年前、つまり2004年以前は、日本中どこを探しても、誰でも使える“街中のAED”は存在しなかったのです。

 

AEDは、心停止および心室細動の人に、電気エネルギーで心臓にショックを与えることで、心臓の状態の正常化を促す医療機器です。もともと医療機器は法律上、医療従事者にのみ使用が許されています。そんななか、なぜ医療機器であるAEDが市民の手の届く存在となり、誰もが使えるようになったのでしょうか。その背景には、救急医療に携わるドクターたちの献身的な働きかけに加え、関連する団体や学会が推進し、その取り組みをAEDを世界に供給するフィリップスも支援してきました。日本のAED普及に大きな役割を果たしてきた一人、田中秀治教授(国士舘大学体育学部スポーツ医科学科)は、その始まりをこう語ります。

 

「心停止は、1分ごとに生存率が10%ずつ低下し、5分を過ぎると命を救える確率が大きく下がります*²。一方で、日本では119番通報から救急車到着は平均9.4分*¹かかります。救急医療に従事する者は、時間との厳しい闘いを強いられてきたのです。ところが、2000年にアメリカ・ラスベガスのカジノにAEDが設置されると状況が一変しました。カジノの警備員がAEDを使った心肺蘇生法を実施できるようになり、救命率は59%も上昇しました。しかも、3分以内に実施できた場合は、74%の人を救命できるようになっていたのです。*3

 

救命率の劇的な向上を受けて、当時のクリントン大統領が全米にAEDを普及させることを宣言しました。法整備が始まり、政府施設や空港でのAED設置、航空機のAED搭載が一気に進みました。そして、日本に飛んでくる飛行機にもAEDが搭載されたことで、日本では2001年に国内航空会社の客室乗務員の使用を認可。AEDを使った心肺蘇生法の訓練を実施し、航空機へのAED搭載が進められました。このときAEDは一定の訓練を受けた特定の職種でなければ使えない医療機器でした。しかし、一般の人がAEDを使えれば、救える命は確実に増えるのです。このジレンマを解消するために、多くのドクターや関連団体が、AEDの一般普及に向けて動き出したのです」

救急車到着前の行動が大切です

大切な家族が無事に帰宅する。当たり前の日常を守るAED

 

大きな一歩を踏み出したのは、2002年の日韓共催のFIFAワールドカップでした。日本救急医学会が中心となって推進し、スタジアム10か所の会場医務室にフィリップスのAEDが設置されました。フィリップスの製品担当者が奔走し、厚生労働省の薬事承認を開催直前に取得し、大会に提供することができたのです。

 

「FIFAワールドカップでのAED設置は大きな前進でした。さらに普及の契機となったのが、同年11月の高円宮殿下の薨去(こうきょ)でした。スカッシュ中に心室細動を起こして47歳という若さで急逝したことで、国民に衝撃と悲しみを与えました。ここから、非医療従事者の一般の人でも使えるAEDの普及を求める世論が高まっていきました。一般市民が使えるAEDを日本に導入するにあたっては、先行しているアメリカの事例や制度設計、またAEDという医療機器についてよく理解するために、フィリップスの製品担当者と協力しながら、枠組みづくりを進めました。そして2年後の2004年7月1日から一般市民のAED使用が認可されたのです」

 

2004年7月以降、スポーツ施設や学校、ホテル、商業施設など人が集まる場所や心停止のリスクが高い場所にAEDを設置する動きが国内で広がっていきました。

 

「2005年の愛知万博では、250mごとにAEDが設置されました。これにより心停止を起こした5人中4人の方の救命ができました。AEDの一般使用が許可される以前、2002年に開催された第12回福知山マラソンでは50代のランナー3人が心停止で亡くなっています。元気に家を出た家族が悲しい姿で帰宅するようなことがないように、救急医療に関わる私たちにできることはないか――そう考えて、国士舘大学では、救急救命医と体育学部スポーツ医科学科の学生で構成されるモバイルAED隊を結成し、東京マラソンはじめ全国のマラソン大会をサポートする活動を2007年からスタートしたのです」

 

2009年の東京マラソンでは、ランナーとして参加したお笑い芸人の松村邦洋さんが心筋梗塞を起こし、田中教授率いるモバイルAED隊が心肺蘇生をおこない、その場で自己心拍が再開し、命を取りとめました。

 

「松村さんの生還から、AEDは子どもたちまでもが知るところになりました。そして、2011年にはサッカー日本代表も務めた松田直樹選手が、練習中に急性心筋梗塞で倒れて34歳で亡くなりました。その後Jリーグでは、JFLも含めてスタジアムや練習場のAED配置や職員の救命講習などに力を入れるようになりました。松村さんや松田選手の事例からは、たとえ元気に過ごしている若い人であっても、心臓突然死のリスクがあることが知られ、AEDの必要性が強く認識されたのです」

田中秀治国士舘大学教授

心停止の7割は自宅。まさかの事態に家族ができることは?

 

「心臓突然死から救えるはずの命を守る」という思いから広がったAED――その思いが届き、一般市民がAEDを使用できるようになってから、今年(2024年)で20年を迎えます。いまや日本はAEDの設置数は世界トップクラスになっています。一方で、AED使用率はわずか4.1%と低い状況が続いています*¹。

 

「人を助けたいという思いは、一人ひとりの心の中に確かにある。それなのに、いざというときにAEDが使えない要因はなぜか? その要因を究明して、市民がお互いの命を守り合う社会を実現していくのが、これからの大きな課題だと考えています。

 

要因の一つは『AEDの場所がわからない』というアクセシビリティの問題です。皆さんは外出先のショッピングセンターで、たまたま立ち寄った駅で、誰かが倒れたとき、AEDの場所がわからないのが現実ではないでしょうか。実際の救急事例を見ても、AEDを探すことに時間がかかっているケースが少なくないのです。

 

一方、火事や地震が起きたときはどうでしょう? 人が集まる施設では、かならず緑色の非常口の標識があります。AEDもまた、設置場所を知らせる“赤い標識”があってしかるべきだと思います。AED設置場所を矢印や距離で示す標識が普及すれば、これまでより速く確実にAEDを使えるようになるはずです。

 

さらにアクセシビリティに関連して、心停止の発生場所とAED設置場所のミスマッチが生まれているという大きな問題があります。心停止の約7割はじつは自宅で発生しています*¹。ところが、AEDが設置されている住宅街や個人宅はごく少数です。マンションでも、共有エリアに設置されていなかったり、配置が十分でないケースがあります。とくに、心臓に持病がある方がいるご家庭や、5分以内にアクセスできる場所にAEDがない地域では、個人宅や集合住宅、自治会で家庭用AEDを常備することが重要だと思います」

AEDの設置場所の拡大

家庭に常備する安心の守り手、家庭用AEDの普及へ


フィリップスの家庭用AED「ハートスタートHS1 Home」は2021年から販売がスタートしました。これまで主に公共の場に置かれていたAEDが、家庭用AEDの登場で私たちの暮らしに、より身近な存在になったのです。

 

「多くの人は『まさか、AEDが必要となることなんて起こらないだろう』と考えていると思います。一方で、盗難や災害などの“まさか”に備えて、ホームセキュリティを導入するご家庭は増えていますよね。家庭用AEDもまた、ホームセキュリティの一環として〈家庭に常備する安心の守り手〉となるべきだと思います。

 

最近では家庭用AEDのレンタルをスタートしているセキュリティ会社も増えています。さまざまな種類のAEDが選べるので、すでにホームセキュリティを導入されているご家庭では、試しにレンタルしてみるのもいいと思います。とくにフィリップスの家庭用AEDは、慣れない人でも“直感的に操作できるデザインで、品質にも配慮しており、テクノロジーにおいてもより安全かつ効果的なAEDを目指しており、低エネルギー波形で心筋へのダメージを軽減し、ショックを必要としない人にはAEDが心電図を自動で解析して、不要なショックを行わない設計がなされています。短時間で低エネルギーでより確実な心拍回復を目指す――使う人と傷病者の両方の立場に立った、人にやさしいAEDなのです。心停止の約7割が自宅で起きている現実を考えると、家庭における対策は一度家族で話し合っていただきたいテーマですね」

 

さらに、田中教授は現在、心臓にリスクがある患者さんに向けて、薬剤師が近隣のAEDの位置確認や家庭用AEDの説明を服薬指導に取り入れることを薬剤師の団体と協議しています。

 

「心疾患や生活習慣病などの薬を処方する薬剤師が、患者さんにご自宅近くのAEDを確認してもらい、ご家族にも伝えておくなどの指導ができれば、万が一、心停止を起こしたときも迅速に対処できます。AEDをどれだけ家庭や日常生活の中に根づかせるか――ご家庭を訪れる宅配業者の方なども含め、さまざまな業界や職種にアプローチして家庭にAEDを根づかせていきたいと考えています」

AEDの使い方に自信がありますか?

AED普及世界トップを誇る日本は、市民の救命活動も世界一を目指せる

 

これまで20年以上にわたりAEDの一般普及に大きく貢献してきた田中教授ですが、次の20年に向けての目標を教えてください。

 

「私の最大のミッションは、国民一人ひとりがAEDを使った救命活動ができる国にしていくことです。『AEDは安心して使える』『自分が人を助けるんだ』という意識を浸透させていくために、私たちは子どもたちに向けたAED救命講習を全国に展開するべく環境整備を進めてきました。現在、中学校・高等学校の学習指導要領では、AEDを使った心肺蘇生法の実習を求めています。こうした実践を通じて、子どもたち一人ひとりが自信と自覚を高められるようになっていけばと思います。

 

2023年のフィリップスの調査では、『AEDの使い方に自信がない』人が多いことが浮き彫りになりました(上図)。私たちでも救命の現場では緊迫しますし、時には焦燥感や困難に直面することもあります。しかし、死に瀕していた人がAEDで心拍を復活させて息を吹き返す瞬間は、生命の尊さを感じ、なにものにも代えがたい深い喜びと安堵を感じます。これから日本は高齢化で救急医療が逼迫する状況が少なくとも2035年までは続くと予測されています。また、医療過疎化が進む地域では、救急車の到着も今より遅くなるかもしれません。

 

こうした時代に向けて、高等教育機関である大学でのAED教育は重要です。また、大学入試などに広く導入されていけば、CPRをより深く学ぼうという中高生も増えるでしょう。子どもたちが人命救助のスキルを高め合う『CPR甲子園』(仮称)を実現するのも私の夢です。

 

自ら考えて行動できる国民を育てていくことは、これからの日本の安心・安全を守っていくうえで重要です。AED普及率世界トップクラスを誇る日本は、市民による救命率が世界一高いHeart Safe City(ハ―トセーフシティ)を実現することができる国だと思います。その希望に向かって、これからも走り続けたいですね」

 

私たち市民がAEDを使用できるようになり、2024年7月で20年を迎えます。AEDを使った救命救助が市民に普及していくことは、生命や健康はもちろんのこと、みんなが安心して暮らせる信頼の社会づくりにつながっていきます。フィリップスは次の20年も、Heart Safe Cityを日本全体へと広げていきます。(取材・文 / 麻生泰子)

*1 「令和4年版 救急・救命の現況」総務省消防庁

*2 Holmberg M et al.Effect of bystander cardiopulmonary resuscitation in out-of-hospital cardiac arrest patients in Sweden Resuscitation 47 :59-70,200

*3 人工臓器37巻(2008)1号「心肺停止症例と全自動体外式除細動器 (AED)」

AEDは救命処置のための医療機器です。AEDを設置したら、いつでも使用できるように、AEDのインジケーターや消耗品の有効期限などを日頃から点検することが重要です。

AED設置者及び管理者は品質保証及び安全管理の為、以下の内容の確認をお願いいたします。1.AED設置の際はAED管理者を設置し、製造販売業者の推奨する保守点検を行い、いつでも使用できる状態に管理する事。特に電極パッド、バッテリ等の消耗品は、使用期限を明記したAED管理表示ラベルを本体またはカバンなどのわかりやすい位置に貼り、使用期限の確認及び、期限内の交換を確実に実施する事。2.AED設置者及び管理者は、AED管理表示ラベル上に明記された消耗品等の使用期限を確認する事。3.AED設置者及び管理者は、AEDに不測の事態が発生した時及び、譲渡時(高度管理医療機器販売業の許可業者に限る)、廃棄時には、製造販売業者又は販売業者等の連絡先に連絡する事。製造販売業者又は販売業者からの情報提供方法等(交換時期のお知らせ等)について確認する事。4.電極パッドは使い捨てなので、再使用する事は禁止である。5.添付文書を必ず読む事。6.未就学児に対する成人用パッドの使用については、小児用パッドを備えたAEDが近くにないなど、やむを得ない場合に限り使用し、その場合、特に、2枚のパッドが触れ合うことがないように注意する。

販売名:ハートスタートHS1

医療機器承認番号:21700BZY00426000

特定保守管理医療機器/高度管理医療機器

製造販売業者

株式会社フィリップス・ジャパン

〒106-0041 東京都港区麻布台1-3-1 麻布台ヒルズ森JPタワー15階

フィリップスAED コールセンター  0120-802-337  03-4334-7645

受 付 時 間 9:00~18:00 (土・日・祝祭日・年末年始を除く)

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