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11 15, 2018

COPD患者さんの生きる力を引き出す 呼吸リハビリテーションの力

ページを読む時間の目安: 3-5 分

COPD(慢性閉塞性肺疾患)による呼吸障害を全身の機能を高めることで改善していく理学療法。病める人を元気な人に変える医療を理学療法士の千住秀明先生にお聞きしました。

障害ではなく「できること」に注目する医学

「息をゆっくり吐きながら一歩踏み出し、そのまま吐きながら、もう一歩頑張りましょう」
 

理学療法士に肩を支えられながら、呼吸障害のある患者さんが一歩ずつ前に進んでいきます。武蔵野の雑木林に包まれた複十字病院(東京・清瀬市)の呼吸ケアリハビリセンターでは、理学療法士の千住秀明先生が中心となって、呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を行なっています。

 

呼吸リハとは、肺気腫や慢性気管支炎などで呼吸障害のある患者さんに、呼吸と合わせた歩行法などを訓練するものです。近年では、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんも増加しています。COPDとは、喫煙を主な原因とする肺の慢性疾患で肺胞が破壊され、徐々に呼吸が困難になっていく病気です。症状が悪化すると、酸素ボンベから酸素供給を行う酸素療法が必要になります。

 

つねに酸素ボンベが欠かせず、動くと息苦しさが伴うため、長年自宅に閉じこもり、やがて寝たきりに近い状態になってしまう患者さんも少なくありません。COPDは世界の死亡原因4位で、国内には約530万人の患者さんがいると推定されています。しかし、「呼吸リハ」を行うことで、こうした呼吸困難感を予防改善できる可能性があると千住先生は話します。

「COPDは症状が進行すると、ほんの少し動いただけで息が苦しくなります。すると本人も動くのが辛くなり、医師ですらじっと安静にしていなさいと指導します。じつは、これが悪循環のもと。動かないことで全身の筋肉が衰えてしまい、患者さんは本当に歩けなくなってしまうのです。たしかに、COPDによって肺の呼吸機能は落ちています。しかし、手足や他の臓器は正常に働いている。寝てばかりではちゃんと動くはずの手足も廃用性萎縮(長期間筋肉を使わないことで、筋肉が萎縮してしまう症状)で全身が弱ってしまいます。呼吸リハは、肺の動きをサポートするために全身の筋肉を鍛え、少ない酸素換気量で動ける呼吸法を身につける訓練法なのです」

最初は足を踏み出すのもやっとで、階段を上ると酸素が足りずパニックになるCOPD患者さんもいます。そんな患者さんに対して、千住先生は「大丈夫。あなたが悪いのは肺だけ。手足は健康なのだから、リハビリをして肺を上手に使って体力をつければ、歩いたり、階段を上ったりできるようになるよ」と励まします。その言葉によって、「自分は病人だ」と自信を失っていた患者さんは少しずつ前を向きはじめます。

「理学療法とは、残されている体の機能に注目する医学です。その人に残された能力や気力を最大限活用して、日常生活が送れるように導いていく。そのために、頭から足の先までよく観察し、心の状態も見つめて、患者さん全体を理解するのです。

僕たちの仕事は、患者さんができることを見つけて、教えてあげること。そうすれば、患者さんは、自分の失った機能を補うための力を身につけることができるのです」

リハビリテーションとは、患者さんの中にある「生きる力」を引き出すものなのですね。

「僕は患者さんの中に、その「生きる力」は無限に存在すると思っています。しかし、患者さん自身が気づいてないことが多い。だから、心身両面から寄り添って、患者さんの生きる力を引き出すのが理学療法士の役割なのです」

フィリップス・ジャパン 相澤仁

呼吸リハで、COPD患者の生存率が向上する

患者さんの生きる希望をも引き出してくれる「呼吸リハ」。しかし、呼吸リハを指導する病院は少なく、病を進行させてしまう患者さんが多くを占めるのが現状です。千住先生のもとを訪れる患者さんも、COPDが重症化してからようやくたどりつく人が少なくありません。
 

女優の杉田かおるさんのお母様も、千住先生のもとで呼吸リハを行った一人。COPDを20年近く患い、一時は心肺停止して危篤状態になりましたが、呼吸リハを2ヶ月続けて200mを自力で歩けるまで回復しました。
 

「長年の患いで手足もずいぶん細くなっていて、『このまま寝たきりでいいのですか』と本人に問いました。とても気丈な方で『棺桶まで歩いて入ろう』と冗談を言いながら、呼吸リハに励んでくれました」
 

以前は座っているのもやっとだった杉田さんのお母様ですが、呼吸リハで生活を取り戻せたことに感動し、「同じ病気の人に希望をもってもらいたい」と亡くなる直前までリハビリを続けたといいます。

 

千住先生によると、早い段階で呼吸リハを始めれば、生活の質が維持できることはもちろん、5年後生存率は20%上がり、10年後生存率は30%にのぼるといいます。呼吸リハを多くの人に知ってもらうために、杉田さんとともに講演会などを通じて啓発活動を行なっています。

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大学教授から理学療法の臨床へ

呼吸リハの第一人者として臨床で活躍されている千住先生ですが、2015年3月まで長崎大学医学部の医歯薬学総合研究科教授を務め、研究の最前線にいました。65歳で退官を迎えたとき、これまでのキャリアを捨てて、ふたたび臨床に戻る決意をされたのはなぜでしょうか。
 

「僕は、研究の場から、呼吸リハビリテーションの普及に務めてきました。自分が続けてきた呼吸リハの教育と研究が本当に社会で生かされているのか、それを確かめたくて臨床に戻ってきました。研究は後進に任せて、残りの人生は臨床の場で、じかに患者さんに呼吸リハを伝えていきたいと考えたのです」
 

千住先生のいる複十字病院は、日本における呼吸リハ発祥の地といわれています。今後は臨床の場から、これまでの経験を役立てていくのですね。
 

「とはいえ、ガラリと環境が変わり、1年目は長崎に帰ろうとかと思いましたね(笑)。でも、呼吸リハで元気になられた患者さんが『先生、ずっとここにいてね』『ありがとう』といつも僕を励ましてくれるのです。これにまさるものはありません。こちらこそありがとう、と僕は患者さんに伝えたいですね」

 

COPDは呼吸苦はもちろんですが、酸素ボンベと鼻をつなぐチューブ(カニューラ)の見た目を気にして、家に引きこもってしまう患者さんも少なくありません。

「カニューラと酸素ボンベは、メガネや車椅子と同じ。最初は奇異の目で見られるかもしれませんが、外に出る患者さんが増えれば偏見は薄れていきます。だから、呼吸リハで、普通に生活できる患者さんを増やすのが僕の目標。COPDの患者さんが堂々と生きるための手助けができたらと思います」

「COPDと上手につきあうために」 という動画では、千住先生監修のもとCOPD患者さんに取り組んでいただきたい運動療法や呼吸法、トレーニングなどを紹介しています。

千住先生が30年間にわたる研究・教育生活を過ごした長崎大学医学部では、開祖であるオランダ海軍軍医メールデルフォルトの「医師は自分自身のものではなく、病める人のものである」という言葉を建学の理念に掲げています。

「僕は理学療法士として、患者さんに残りの人生を捧げる覚悟です。今年70歳になりますが、呼吸リハで一人でも多くの患者さんを元気にするために、これからの時間を尽くしたいと思います」

残された機能に注目して最大限活用する医療のあり方は、COPDに限らずあらゆる病気や障害において大切な視点かもしれません。また、「人と違うこと」が当たり前に受け入れられる社会になれば、みんながより生きやすい社会に変わっていくはずです。(取材・文/麻生泰子)

<プロフィール>

千住秀明(せんじゅう・ひであき)

公益財団法人結核予防会 複十字病院 リハビリテーション科

呼吸ケアリハビリセンター付部長

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