真っ白な雲海に包まれた幻想的な姿から、“天空の城”とも称される竹田城跡(兵庫県朝来市)。 1990年代に入ると、黒澤明監督の『天と地と』の撮影地に選ばれて、竹田城跡が広く知られるようになります。そして、2006年には「日本100名城」に選ばれ、雲海に浮かぶ竹田城の写真で“天空の城”として一気に注目を集めます。たびたび観光ツアーも組まれるようになり、2012年に公開された高倉健主演の映画『あなたへ』公開後には、観光客が爆発的に急増しました。そして、古城ロマンをかき立てる稀有な観光地として、最多で年間50万人が訪れるほど広く知られた存在となったのです。
竹田城跡が全国的に注目されて、地域がにわかに活気づく中で、朝来市の観光交流課や消防署が頭を悩ましたのが「観光客の安全をどう確保するか」という問題でした。 「竹田城はもともと軍事拠点でしたから、長いコースでは険しい山道を40分かけて登ってようやくたどりつく山城です。城郭に到着すれば、石垣をめぐらした広大な遺構が、南北400m・東西100m広がっています。登頂後に具合が悪くなったり、石につまずいて転んだり、山頂に照りつける太陽で熱中症になるなど、健康・安全上のリスクがさまざま考えられました。 実際、年2、3回ほど救急車を呼ぶ救急事案が発生します。救急隊員は救急車で山道を登り、収受所から城郭までは徒歩となるので、通報から現場到着まで20分ほどかかることが想定されます。仮に山頂で急病人が心停止を起こした場合のシミュレーションを行ったところ、命を救える確率がかなり低いことがわかりました。そこで、観光客が急増した2013年から、職員が常駐する収受所に1台、城郭に2台、計3台のAEDを常備する体制を整えました。これによって、救急隊員が麓から山頂に向かっている間に、山頂で居合わせた人が、心停止に陥った傷病者に対してAEDと胸骨圧迫による心肺蘇生を実施することが可能になったのです」 心停止が発生した場合、1分が経過するごとに救命率は約10%ずつ下がっていくとされ*¹、命を守るには少なくとも〈5分以内〉に、AEDと胸骨圧迫による心肺蘇生を行う必要があります。さらに社会復帰率や救命率を上げるには〈3分以内〉を目指すのが望ましいとされます。そこで竹田城跡では、移動にかかる時間や人流を考え、城郭のどこで緊急事態が起こっても、3分以内にAEDが届けられるAEDの適正配置体制が確立されたのです。
「AEDを設置した北千畳と天守台近くは、観光客が最も多く集まるエリアです。秋から冬の混雑期には、地域住民が務める案内人も見守り役として立っています。もちろん案内人や職員は定期的に消防署の救命講習を受けています。緊急事態が発生した際は、案内人が近くのAEDなどで対応すると同時に、119番と収受所に連絡して、収受所の職員がAEDの入った応急手当リュックを持って駆けつける。さらに市役所に連絡が入る万全の救急連携体制を整えています」
竹田城跡にたたずむフィリップスのAED ハートスタートFRxシリーズは頑丈なので、屋内だけでなく屋外や厳しい環境下での使用にも適しています*2。また、風景になじむ特別仕様の茶色いAEDボックスに収まっており、ボックスの中で暑い日も寒い日も一定の温度管理がされており、24時間365日いつでも出動できるようにスタンバイしています。
「フィリップスのAEDを選んだのは、世界で普及しているAEDだからです。近年は台湾、香港、タイ、中国、フランス、アメリカの順で、海外からの観光客が増えています。世界に普及しているAEDであれば、日本の方はもちろん、外国の方が見てもすぐにAEDだとわかります。心停止などの救急事態が発生したときは、案内人や職員だけでなく、観光客の方の協力も必要になりますから、〈誰もがわかりやすい・誰もが安心して使える〉ことを優先したのです」
竹田城跡のある朝来市は、江戸期には天領地となり幕府の圧政に苦しみ、地域の暮らしを守るために大規模な一揆がたびたび起きた歴史があります。自分たちの力で暮らしを守る団結の伝統は、今も深く根づいており、市民で構成される朝来市消防団は857人(2024年4月時点)が所属しています。
「私を含め市の職員の多くが、消防団に所属しています。災害や火事があったときは、地域の消防署と連携し、水利の確保、避難経路の案内など地元をよく知る消防団が背後を守るのです。地域を自分たちの手で守るために、日頃の消火訓練はもちろんのこと、消防団員の多くが消防署の救命講習を定期的に受けています。
朝来の人たちは、古くからさまざまな地から訪れる交易の人を受け入れてきたためか、おもてなしの心に溢れています。この地を訪れる観光客の方にも、『安全に旅をして、元気に帰ってほしい』という思い、また、地域に浸透する共助の意識が、竹田城跡のAED設置の安全対策の実現につながったのかもしれません」
竹田城は、15世紀前半に基礎が築かれ、16世紀後半に戦国武将・赤松広秀氏が城郭を整備したといわれています。標高約350mの山頂に城が築かれた理由は、頂上からの風景に答えがあります。 フィリップスのAEDについてはこちら
城跡から眼下を見渡すと、播但街道と山陰街道が伸び、この地は山陰・山陽・京都を結ぶ交通の要衝であることがわかります。国盗り合戦が頻発した戦国時代において、竹田城は四方を睨む軍事的拠点として存在感を放っていたのです。しかし、この城を完成させた赤松氏は、1600年の関ヶ原の戦いで西軍側につくも、西軍の敗戦を知り撤退。その後、鳥取城を攻めたら徳川家康にとりなしてもらえる、という話から鳥取城を攻め落とします。その際に、市中に火を放ったという罪に問われて自刃させられ、竹田城も廃城となります。主を失った竹田城は400年以上の時を経て風雨で朽ち、石積みの城郭だけが当時の威容を今に伝えています。
「かつて竹田城跡は、地域の人や一部の歴史ファンしか知らないような、知る人ぞ知る秘境の城跡でした。私が通った小学校では、竹田城跡の登山遠足が恒例行事で、春になると地元の人がお花見を楽しむ憩いの場でした。人気観光地とはおよそ遠いものでしたが、地域の人に愛され、木を伐採したり、掃除をしたり、こまめに手入れをしてきたから、今もこのような状態を維持できているのです」
雲海が発生する秋冬シーズンは、竹田城跡が観光客で最も賑わう時期ですが、雲海のない晴れ晴れとした空の下で風景を眺め、歩んできた歴史に思いを馳せるのも、楽しみ方の一つだと中嶋さんは語ります。とりわけ城跡が一面の桜や新緑で包まれる春から初夏は、竹田城跡がよりいっそう美しく映えます。竹田城跡は、〈AED適正配置と地域住民による安心・安全体制〉が行き届いた日本を代表する観光地として、これからも国内外の観光客の皆さんを温かく迎え入れていくことでしょう。(取材・文 / 麻生泰子)
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*2 動作時:MIL STD 810G Fig.514.6E-1, ランダム波、スタンバイ時:MIL STD 810G Fig.514.6E-2,掃引正弦波(ヘリコプタ)、1.22 mの高さからコンクリート面に除細動器を落下させた場合の縁、角、面への衝撃、防水性 IPX5(IEC60529)、防塵性 IP5X(IEC60529)
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