工場や倉庫、スタジアムなど広大な場所で人が突然倒れたら、とっさにどんな行動がとれますか? 心臓突然死で倒れて亡くなる人は、1日約200人*1にのぼるといわれています。とりわけ工場や倉庫は、危険をともなう場所や作業も多く、事故やケガなどの重大リスクとも隣り合わせです。 首都圏に向けた一大物流拠点であるフィリップスの川越営業所は、4階建・総床面積1万6375㎡の巨大な立体倉庫施設です。ここで働くのは、配送などを請け負う協力会社社員等を含め約300人。施設内はたえずフォークリフトが走り、最高6mに及ぶ棚もあるため、高所作業車も使われています。広いフロアには高い棚が林立し、人の目の届かないところで1人で作業する場面も少なくありません。 これまで安全管理対策として1フロアにAED が1台ずつ設置されていましたが、川越営城所の安全管理責任者でもある森嶋さんは、働く人の安全を考えたとき、さらに網の目状の対策が必要でないかと考えました。 「心停止の場合、1分過ぎるごとに救命率が10%*2下がるため、3分以内の迅速なAED実施が望ましいとされます。しかし、倉庫内はフロアも広く、人もバラバラに点在しているため、発見から救護、AED到着まで時間がかかる可能性があります。 さらに、心停止以外にも、転落や衝突などさまざまなリスクが考えられます。応急処置に加え、119番通報や到着した救急隊員の誘導まで考えると、救護者は1人や2人だけでなく、できるだけ多いほうがいい。1秒でも早く現場に駆けつけ、なおかつ複数人で救護にあたれる体制づくりが必要不可欠だと考えたのです」 そこで、川越営業所で導入されたのが「SOSボタン」です。SOSボタンは緊急事態が起きたときに、ボタンを押すだけで、周囲にいる人のスマートフォンやタブレットに救援依頼通知が送信されます(無料の救命・健康サポートアプリ「MYSOS」をダウンロードし、SOS受信設定をした人が対象)。 SOSボタンのすぐれた点は、GPSでは追いきれない階層(縦軸)を含め、より詳細な位置情報がわかること。SOSボタンが押されると、受信者のスマートフォンにアラームとともに救援依頼画面が表示されます。アプリ画面には「5階南側トイレ前」などと位置情報が表示され、地図でSOSボタンの位置と最寄りのAED設置場所を確認できます。 「電話や人を呼びにいく方法では、発生場所の把握や離れた場所への往復に時間を要するという課題がありました。でも、SOSボタンなら、すぐ近くの人に通知されるので〈最短時間・最短距離〉で救護に駆けつけられるのがいいと思いました」 しかも、救援依頼通知は、複数人に同時に発信されます。通知範囲は半径300m、500mなど任意で設定できます。施設規模や人員数などに合わせて、範囲を設定すれば、同時に複数人が駆けつけて救護にあたれる体制がつくれるのです。
川越営業所でSOSボタン導入されてからすぐ実際にボタンが押されて「救護依頼」が発信される緊急事態が生じました。場所は倉庫3階のBゾーン。協力会社スタッフと立ち話していた営業所社員が突然、倒れました。 協力会社スタッフは、すばやく近くにあった緊急時対応サインを確認しSOSボタンを押しました。同時に、ボタン近くに表示していた安全管理責任者の電話番号に連絡を入れました。安全管理責任者である森嶋さんは1階事務所にいましたが、ちょうど同じ3階に居合わせた社員とともにAEDを持って、1分以内に到着することができました。続いて、森嶋さんら複数の社員が駆けつけ、119番通報、意識確認、家族に連絡、到着した救急隊員の誘導など、役割分担して迅速に行動することができたのです。 「救護は“時間との勝負”です。救護の現場では1分1秒の遅れが致命的になることがあります。人やAEDを探し回ったり、事務所に呼びに行くタイムロスをなくし、少しでも早く対応できたら、多くの人が助かるはずです。SOSボタンは、命を救うまでのタイムロスをなくし、みんなが力を合わせて助けることができる救援システムだと実感しました」
川越営業所ではSOSボタン導入にあたって、応急救護に詳しい専門員が現地をリサーチし、1フロア(約4000㎡)につき20個のSOSボタンが設置されました。エレベーターやトイレなど多くの目に止まる場所、死角になっているエリア、危険が多いゾーンなどを選定し、網の目状にSOSボタンネットワークが張られます。 SOSボタンはIoT向けの通信回線LTE-Mを利用しているため、配線工事の必要はなく、ネジや粘着テープで壁に固定できます。設置後は、わかりやすいビデオコンテンツで従業員やスタッフが使い方を学ぶことができます。 今後、川越営業所では、施設の避難計画や訓練、AED講習会などにSOSボタンを用いた救護シミュレーションを取り入れていく予定です。また、今回の救護体験から「SOSボタンの大切さを多くの人に伝えたい」と社員有志が参加した動画(リンク:)も制作しています。働く現場へのSOSボタン導入について森嶋さんはこう語ります。 「SOSボタンネットワークで万全な救護体制が確立できたことはもちろんですが、ここで働く人たちの意識が変化したと感じています。導入当初は、使い方をレクチャーしたり、アプリのダウンロードを推奨する働きかけをしました。それによって“自分たちの職場は自分で守る”という意識が一段高まったようです。日頃からこうした意識をもつことで、あらゆるリスクや問題に自分たちで力を合わせて行動する“共助”精神が培われていきます。それが安心・安全の働きやすい職場づくりにつながっていくのではないかと感じています」(取材・文/麻生泰子) *1 総務省消防庁「救急救助の現況」令和元年版 *2 総務省消防庁「平成30年版消防白書」
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