本格的な寒さが訪れる冬は、風邪や冷えなどで体調を崩しがちです。寒さに負けずに元気に乗り切るためにはどんなセルフケアが役立つのか、インドの伝統医学であるアーユルヴェーダの知恵をATHA YOGA を主宰するマニーシュに教えてもらいましょう。 「日本では季節が変わるごとに“衣替え”をします。暖かいセーターや靴下、コートなどで寒さに備えるわけですが、じつは食事や睡眠も“冬シフト”する必要があるのはご存じですか? 食事で言えば、冷たい飲み物を飲んだり、お刺身や生野菜サラダなどの生ものは極力避けること。いくら外から温めても、体を冷やす食事をしていれば、冷えや体調不調につながります。そして、冬はいつもよりも多めに栄養をとることで、体熱を生みやすい体づくりをする必要があるのです。 睡眠時間も、夏と比べて長めに寝ることがおすすめです。冬は体熱を生み出すエネルギーを多く消費するうえ、寒さで免疫力が下がりますから、毎日睡眠をしっかりとって体力回復を図ることが肝要なのです」 冬を健康的に元気に乗り切るには、季節に合わせた生活習慣の見直しが不可欠だったのですね。 「はい。アーユルヴェーダでは、人間の体質は、ヴァータ(風)、ピッタ(火)、カパ(水)の3つから成り立つと考えられています(下記)。この3つは、季節にも当てはまります。日本の降雪が少ないエリアでは、冬季は冷えや乾燥のヴァータ(風)の傾向が高まります。もともとヴァータの傾向にある人はますます助長され、体の不調が生じやすくなります。 そして、どの体質の人にも共通するのは、年齢を重ねるにつれてヴァータが強まっていくことです。そのため、ヴァータを打ち消す『体を潤して温める生活習慣』を心がけることで、若さを維持し、冬の寒さに負けない強い体をつくることができます。その具体的なセルフケアについて次からお教えいたしましょう」。
体が乾燥して冷えがちな冬は、食べ物から水分と熱を体内に取り込むことが先決です。 根菜類や魚などをたっぷり入れた鍋物やスープがおすすめ。生ものはできるだけ避けて、蒸す、炊く、煮るなど火を通した食べ物をとることも心がけて。味つけは、甘味、酸味、塩味がヴァータを消す働きがあるとされています。 冬は外気が寒い分、体熱を生み出して体を温める必要があります。そのためには冬の間はよく食べて、よく体を動かすこと。そうすると体熱がよく産出されて、すみずみまでポカポカに温まります。 ②体の内側から温めるスパイスを毎日少しずつ 生姜、ウコン、カルダモン、シナモン、クローブ――これらは体を内側から温めてくれる代表的スパイス。とくにおすすめはウコンで、代謝をアップさせて体を温めるだけでなく、抗菌・抗炎症作用があるので風邪の予防にもぴったりです。毎日少しずつ(たとえばティースプーン半分ほど)とる習慣をつけることで、冷えに強く、風邪をひきにくい体になります。 ウコンの簡単なレシピを紹介すると、根菜類など季節の野菜を煮込み、ウコンや唐辛子、少しの油を加えたスープ。スパイスと野菜の旨味がブイヨン代わりです。あるいはホットミルクにウコンや黒胡椒を加えた、大人のホットミルクもおすすめ。バターやギー(バターから不純物を取り除いたもの)、ミルクなどの乳製品は、体の潤滑油やエネルギー源になる良質の脂質がとれるので冬に最適な食材です。 ③風邪をひきにくい体づくりは「睡眠」が決め手 冬にインフルエンザや風邪にかかる人が急増する要因の一つは、寒さで免疫力が低下するためです*1。体温が下がると体内の免疫細胞の活性が低下し、ウイルスに勝てずに風邪などの感染症にかかりやすくなるのです。 体の防御体制を強化するには「睡眠」が重要なカギになります。睡眠中は、病原菌と戦う免疫細胞が産生されます*2。免疫力を高めるために、冬は30分から1時間ほど長めに寝るのがベター。そもそも冬は日没が早く日の出が遅いので、自然のリズムに合わせれば自ずと寝る時間も長くなります。 帰宅したときや寝起きなど、ぬるま湯に塩を入れた塩水で、喉や口の中を洗い流しましょう。口内の雑菌を洗い流してくれます。鼻炎になりやすい人は鼻うがいも効果的です。 アーユルヴェーダでは、少量のゴマ油やココナッツ油を10〜20分ほど口に含んだままうがいする「オイルプリング」という健康法もあります。プリング(pulling)とは「引きはがす、引っ張り出す」の意味で、口内細菌や老廃物をオイルで絡めとって排出させることで、免疫力を高めることができます。 ⑤寝起きの白湯がめぐりをよくする 朝起きたときは、体の水分が不足しています。白湯(沸騰したお湯を冷ましたぬるま湯)をゆっくりと飲むと、水分補給とともに体が温まり、内臓機能の向上や血流改善が期待できます。胃腸の活性化、体内デトックスなどにも効果があります。 ⑥ぬるめの風呂はポカポカが持続する 冬になると熱い湯に浸かりたくなるかもしれませんが、熱いお風呂は逆効果。お湯が皮脂を落としすぎて皮膚を乾燥させ、出たときに急激に体温が下がるので湯冷めしやすくなります。冬は40度前後の湯でじっくり体を温めるのがおすすめ。副交感神経が優位になり、血管が拡張するので、あたたかさが長く持続します。 ⑦オイルマッサージで血行促進効果 寝る前などに、つま先など冷えやすい部位を、あたためたゴマ油でマッサージしてあげましょう。これはアーユルヴェーダでは、アビヤンガ(油を塗る)といわれるボディケア法。皮膚から浸透したオイルが、体の毒素を溶かし出し外に排出しやすくすると考えられています。アビヤンガを継続することで、リラックス効果や眠りの質が高まり、冷え性の改善につながります。
①温かくて水分が多い食事が冬の食養生
④口内洗浄習慣が免疫力アップにつながる
季節や体質に合わせて、セルフケアを整える。これだけで人生の質は大きく変わるとマニーシュは話します。 「7つのセルフケアのうち、自分が実践できそうなものを “冬のルーティン”として1日の中で実践する時間をつくりましょう。自分をケアする習慣をもつことで、意識が自分に向きます。そうすると、ちょっとした不調や前兆に早めに気づくことができ、セルフコントロールできる力が高まるのです。 仕事や家事、子育てなどに追われると、自分のことを後回しにしがちですが、私たちが第一優先しなければならないのは『自分を大切にする』こと。自分を二の次にすると、自分が少し不幸になります。それが積み重なると、やがて体調や表情、振る舞いにも現れてきます。自分を後回しにすることは、結果的には仕事や家族のためにもならないのです。 自分を大切にするセルフケアが習慣化することで、『自分を大切にする』思考と行動が定着します。それが健康な心と体づくりにつながり、人生を豊かにしてくれるのです」 冬になると草木が枯れて寒々しい風景が広がりますが、冬は春に向けて成長のエネルギーを蓄える時期。エネルギーをじっくりチャージする冬あるからこそ、春に花を咲かせる生命力が発揮できるのです。寒い冬こそ、いつもよりも養生を心がけて、自分を大切にいたわってあげましょう。(取材・文 / 麻生泰子) 参考文献・サイト *1 Ellen F. Foxman, et.al. “Temperature-dependent innate defense against the common cold virus limits viral replication at warm temperature in mouse airway cells” Proc Natl Acad Sci USA,112(3),827-32,2015 *2 久留米大学がんワクチンセンターサイト「週刊がんを生きよう第1部」 第35回目がんと睡眠と免疫機能について http://www.med.kurume-u.ac.jp/med/cvc/F/magazine3.html#magazine_35
マニーシュ Maneesh アルバータ州立大学医学部(薬理学専攻)卒業、ウエスタン大学ビジネススクールでMBA取得。カナダにて伝統的なインド人家庭に生まれ、ヨガ哲学に基づいた価値観のもとで育つ。日本の外資系企業で働いたのち、自らのルーツであるインドでヨガ、アーユルヴェーダ、サンスクリット語を学び、現在、ATHA YOGA 主宰。日本在住20年。 関連ブログ アーユルヴェーダの知恵が教える、 夏を快適に過ごす身体づくり 呼吸が睡眠と生活の質を変える。眠る前の“ヨガの呼吸法”を始めよう!
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