夏になると「食欲が減退する」「体がだるい」「疲れがとれない」「眠れない」などの夏バテ症状に悩まされる人が少なくありません。ATHA YOGAを主宰するマニーシュに夏の暑さを乗り切るアーユルヴェーダの知恵を聞いてみました。マニーシュはカナダのインド人家庭に生まれ幼い頃からアーユルヴェーダの知恵に囲まれた環境で育ちました。医学部で学んだのち、日本での生活を経て、インドに渡りヨガやアーユルヴェーダの知識を深めました。日本の生活は通算20年以上、日本の夏が大好きで野外でアクティブに過ごします。 「夏バテの原因はさまざま。夏の暑さに身体が慣れていない場合や、発汗で体内のミネラルや水分が失われて体力を低下している場合などもありますが、日本で暮らす現代人がとくに気をつけるべき要因は“温度差”です」 私たちは1日にめまぐるしく温度差を体感します。例えば、家から駅まで暑い中を歩いて、冷房の効いた電車に乗る。電車から降りたらオフィスまで汗をかきながら歩いて、涼しいオフィスに到着、と温度環境がコロコロ変わります。そのたびに自律神経が混乱し、体力を余計に奪われているのです。 「腕など露出している肌を触ってひんやり冷たい感触があるなら、身体が冷えている証拠。夏でも、ブランケットやストール、長袖の上着などをオフィスやバッグに常備しておきましょう。一枚羽織るだけでも、外との温度差が縮まり、冷えから身体を守ることができます」 高温多湿な日本の気候に合わせた夏の過ごし方はあるのでしょうか。 「日本は四季があるので季節が変わるごとに身体をうまく適応させることが健康維持で不可欠です。無理なく適応するには、服装や室内環境などの工夫をして、気温の変化に少しずつ慣らしていくことが大切です。 日本には『三寒四温』という言葉がありますね。冬が終わり、暖かい日が続いたと思ったら、また寒さが戻ってくる。そんなことを繰り返しながら、ようやく春が訪れます。季節の変わり目は、これからやってくる季節に身体を慣らしていくための助走期間。少しの暑さなら冷房をつけないで、無理のない範囲でガマンすることも身体には必要で、それが本格的な夏の到来に向けての身体づくりの第一歩になるのです」
マニーシュが日常生活やヨガのクラスで実践するアーユルヴェーダは、インドに伝わる伝統医学で、今もインドでは生活に浸透している知恵だといいます。 「日本ではリラクゼーションなどのイメージが強いかもしれませんが、インドではアーユルヴェーダは医学的な要素が強くアーユルヴェーダの大学や病院も多くあります。アーユルヴェーダ医学の特徴は、その人の体質や体調、年齢に合わせて、食事、薬草、ヨガなど生活全般にわたる処方を出すこと。なるべく薬に頼らずハーブなどを用い、生活習慣や身体を整えることで病気を予防する医学なのです」 アーユルヴェーダでは、人間は「ヴァータ(風)」「ピッタ(火)」「カパ(水)」の3つ体質(ドーシャ)から成り立ち、生まれ持った資質、年齢、生活習慣などでドーシャが変わってきます。 「誰しも3つのドーシャの要素は持っており、1つがメインで、1つのサブがあります。また年齢ごとにバランスが変化し、子どもから青年期はみずみずしいカパが強く、成人してからは火のエネルギーであるピッタ、年齢を重ねると風のヴァータが強まって乾燥傾向が強まります。本来はアーユルヴェーダの医師が診断しますが、下記に挙げたそれぞれのドーシャの外見的特徴や性格、身体の傾向を参考にしてご自身に当てはまるものがあるか確かめてみてください」
アーユルヴェーダの視点から、マニーシュが日本の夏の過ごし方で特に気になるのは冷たい飲み物の飲みすぎといいます。 「インド出身のアーユルヴェーダの権威であるDr.Vasant Lad(サント・ラッド博士)が “Ice water is poison to the system, and hot water is nectar” と言うように、アーユルヴェーダでは 冷たい水は身体に毒で、温かい水は神の飲み物という考えがあります。 冷たい飲み物は胃を冷やします。胃が冷えると消化酵素の働きが落ち、消化不良や食欲不振につながります。さらに、冷えた胃を温めるためにエネルギーを浪費するので、体力が奪われてだるさや疲労感につながります。インドでは暑い日もチャイという熱いお茶を飲みますが、胃腸を温めて食欲や消化を増進させる夏バテ解消の効果があります。 体を冷やすなら、水分の多い夏の野菜や果物がおすすめです。ビタミンやミネラルなどの栄養素も同時に補給できるから体力増強にもつながります。日本ならば、キュウリ、スイカ、ナシ、モモなどの旬の農作物。飲み物なら、ミネラルの含まれた麦茶もいいですね」 とくに暑さが厳しく疲労困憊した日は、風邪を引いたときや体調が悪いときの食事が参考になります。 「揚げ物はピッタ(火)を上げる食べ物なので、夏のピッタ(火)の時期には摂り過ぎると身体に負担をかけてしまいます。アーユルヴェーダでは “Like increases like, opposites balance”(同質は助長させ、異質は調和する)といわれ、同じドーシャを重ねるとそのドーシャを強めてしまうため、反対の要素を取り入れることでバランスがとれると考えられています。 どの体質の人も特に暑い日には胃にやさしい食べ物で体力を消耗させないことが大切です。塩分がとれて栄養バランスのいい旬の野菜をたっぷりと入れたお味噌汁は、夏バテ予防にとてもいいと思います」
自分の体質を自覚し、体調や気候の変化に合わせてコントロールする。そのためには、自分の身体の声に敏感である必要がありますが、私たちは元来、その“気づく力”が備わっているとマニーシュは話します。 「内側に意識を向ける習慣をつけることで、“気づく力”がぐんと上がり、身体が求める食べ物や生活習慣がわかるようになります。そのために編み出されたのがヨガです。ヨガとは、自分の心や身体の気づきを高めるシステムなのです」 夏に最適なヨガの呼吸法として、マニーシュがすすめるのは「シータリー」という呼吸法です。 「シータリーとは『熱を冷ます』という意味で、この呼吸をするだけで暑さが和らぎます。身体を内側から冷やし、血液を浄化して、心を落ち着かせて集中力を高めることができます。シータリーを5分ずつ毎日続けることで、呼吸が深くなり、自律神経が整い、夏に強い身体がつくれます」 〈シータリーの呼吸法〉※ 呼吸法をする際は空腹が望ましく、口から空気を取り入れるのできれいな空気で行うのがおすすめです 1 舌を少しだけ唇から出して、舌をタテに丸める 2 舌を通すようにして息を吸う 3 鼻から息を吐いて、出しきる 4 1〜3を繰り返し行う できない方は他の方法もあります シータリーの呼吸法の主な効果 ・夏のピッタ(火)の要素を下げる ・体の熱を取る ・消化を助ける ・心を落ち着かせる ・免疫力を上げる ・のどの渇きを抑える ご自身の体調に合わせ、必要に応じて医師のアドバイスを受けましょう。(特に低血圧、呼吸器に疾患がある方) 無理はせず、呼吸が苦しくなったらすぐに自然な呼吸に戻してください。
※ヨガにおける呼吸法は本来、専門の知識を持った指導者から直接指導されるものです。
「大切なのは、内面に意識を向ける努力を毎日少しずつ続けること。そうすると、自分の中心が見つかるので、日々の些細な変化に気づく力が高まります。中心が整うことで、外の環境に左右されることなく、いつでも最適な自分でいることができるのです。ぜひアーユルヴェーダの知恵を活用して自己調整力を高め、元気に夏を乗り切りましょう」(取材・文 / 麻生泰子)
マニーシュ Maneesh アルバータ州立大学医学部(薬理学専攻)卒業、ウエスタン大学ビジネススクールでMBA取得。カナダにて伝統的なインド人家庭に生まれ、ヨガ哲学に基づいた価値観のもとで育つ。日本の外資系企業で働いたのち、自らのルーツであるインドでヨガ、アーユルヴェーダ、サンスクリット語を学び、現在、ATHA YOGA 主宰。今秋より東京でアーユルヴェーダを含めた独自のトレーニングプログラムを開催予定。日本在住20年。
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