日中の活動で疲れているはずなのに、夜ベッドに入るとなかなか寝つけない、そんな経験はありませんか。なぜ、疲れているのに眠れないという矛盾が生じるのでしょう。インドでアーユルヴェーダやヨガを修め、現在はATHA YOGAを主宰するマニーシュはこう指摘します。
「現代人の多くに足りないのは『正しく疲れる』ことです。例えば今日1日、仕事を頑張りました。では、どれだけ体を動かしたでしょうか。多くの人は、デスクワークで目や脳を酷使したり、作業や接客で立ちっぱなしなど偏った頭と体の使い方をしています。そのアンバランスさが眠りを妨げている可能性があります。そこで寝つきが悪い人におすすめしたいのは『体を動かす』ことなのです」
「眠る」とは真逆の行動ですが、「体を動かす」ことでよく眠れることがあるんですね。
「睡眠は心身を休め、内臓の働きを修復し、免疫力を高め、必要なホルモンをつくりだすためのものです。また、睡眠は、脳が情報を記憶・整理するのにとても重要な働きを果たしているという研究結果もあります。ところが、脳が休養を必要としていても、活動量が少なかった体は休養に入るほど疲れてない、あるいは、こわばって血行不良になっているときがあります。そんなアンバランスな状態を解消するには、ほどよい運動が効果的なのです。
かつては日常生活の中に、体を使う動作が組み込まれていました。日本の伝統的な生活様式もそうですね。畳の上での生活は、立ち上がったり座ったりするのに足腰の筋肉や関節をよく使います。しゃがむことで腸を圧迫して排泄物を出やすくする和式トイレも、人間の体の構造によく適っていると科学的にも証明されています」
あまり体を動かす必要がない現代の生活環境は、どんどん体の可動域を狭めているとも言えますね。
「そう。だから、意識的に体を動かしてあげる必要があるのです。ヨガのポーズでは、猫のポーズや犬のポーズなど動物の体の使い方を真似する動きが多くあります。さまざまな動きで体を解放し、本来、体に備わった機能を取り戻すのがヨガのポーズの役割なのです。
体を使い慣れていないと、ヨガのポーズを苦痛に感じる人もいるかもしれませんが、本来、自分の快適や安定を見つけ出すもの。ヨガのポーズをサンスクリット語でアーサナ(坐法)といいますが、アーサナは『安定、快適』の定義があります。ヨガで筋肉がすみずみまで使われ、体が安定と快適の領域に入ると、心地よい疲労感が訪れて、おのずと夜もよく眠れるようになるのです」
夜寝る前に行うヨガアーサナは、全身の緊張をゆるめてニュートラルな状態にしてくれる穏やかなポーズが役に立ちます。誰でも簡単にできて心地よい眠りに誘ってくれるヨガアーサナをマニーシュに教えてもらいましょう。
「快眠を誘うヨガアーサナは①〜④を順に行ってもいいし、自分が気持ちいいと感じるポーズをやってみるのもいいでしょう。最初は一つのポーズ2~3分を目安に、徐々に時間を延ばしていきましょう。ポイントは無理をせず、心地よいと感じるところでしばらく身をゆだねること。そして、最初の3回ぐらい気持ちよく深い呼吸をして、その後は吐く息を少し長めにするとリラックスが深まります。寝る前に行う習慣をつけると、だんだんと寝つきのいい体になっていきます」
人間の体は、サーカディアンリズムという体内時計の働きにコントロールされ、夜になると睡眠を促すメラトニンなどのホルモンが分泌されて眠くなるというリズムが刻まれています。ヨガを習慣化することはホルモンバランスを整える効果があり、1日の生活リズムを整える効果が期待できるそうです。
「寝る前のルーティンの一つとして、ヨガアーサナを行う習慣ができると、心と体を眠りにいざなう “入眠スイッチ”が入ります。また「心=体」なので、体の偏りを整えることで、怒りや焦りなどのネガティブな心の偏りも解消して、精神が安定するようになります。よく眠って、明日を元気に生きるためのリセット習慣として、あなたの生活にぜひヨガを取り入れてみてください」(取材・文 / 麻生泰子)
マニーシュ Maneesh
アルバータ州立大学医学部(薬理学専攻)卒業、ウエスタン大学ビジネススクールでMBA取得。カナダにて伝統的なインド人家庭に生まれ、ヨガ哲学に基づいた価値観のもとで育つ。日本の外資系企業で働いたのち、自らのルーツであるインドでヨガ、アーユルヴェーダ、サンスクリット語を学び、現在、ATHA YOGA 主宰。今秋より東京でアーユルヴェーダを含めた独自のトレーニングプログラムを開催予定。日本在住20年。
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