ICT(デジタル)時代の到来で、医療分野でもビッグデータ、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things:ネット接続されたモノ)の活用が広がります。テクノロジーが進化することで、私たちの健康や生活はどう変わるのでしょう。フィリップスでヘルステック事業を推進する相澤仁に、もうすぐ実現するヘルスケアの未来を聞きました。 「日本の医療費はすでに42兆円(2015年)に達し、さらに2025年には54兆円に膨らむことが予測されています。現在、75歳以上の高齢者の年間医療費は平均約93万円にのぼり、その負担の多くは働き世代にのしかかっています。このまま増えつづければ、国民皆保険制度は破綻しかねません。では、その医療費の内訳はどうでしょうか。じつは生活習慣病からくる慢性疾患がほとんどなのです。アメリカやヨーロッパなど先進諸国でも、医療費の7、8割もの割合を慢性疾患が占めています」 生活習慣病をいかに予防していくかが、これからの医療の一大テーマなのですね。 「ところが、生活習慣病は、病院だけで解決できないのです。感染症ならば病原菌を退治すれば治りますが、生活習慣病の原因は、食事、運動、睡眠、ストレス、性格、遺伝などと多岐にわたります。極端な話、偏った食生活でお酒もたっぷり嗜んできた人が100歳まで元気に長生きすることもあれば、節制した食生活を送ってきたのに生活習慣病が原因で70歳で亡くなってしまう人もいます。その違いは明確には説明できません。そのぐらい原因は複雑に重なり合っているのです」 ここまで医療が発達しているのに、なぜ因果関係が明確に解明できないのでしょうか。 「その理由の一つは、現在の医療では、病院内で測定する血液検査や心電図、CT画像など断片的な情報しか得られないことが挙げられます。病院の外では、その人がどんな食生活を送り、どれだけ体を動かし、どんな睡眠をとっているかまでは正確に把握できません。しかし、腕時計やリストバンドなど身の回りのモノのIoT化が進み、睡眠時間や運動量、心拍数など、その人の24時間365日の健康データを集めることができる時代になりました。こうした健康データを集めたビッグデータをAIで解析し、病院の検査データや遺伝情報などをかけ合わせれば、生活習慣病になりにくい人、なりやすい人の傾向がより明確に見えてくるはずです」
病気になりやすい傾向や体質、習慣がわかれば、有効な予防策が講じられるようになりますね。 「とくに生活習慣病の予防は、パーソナルヘルスケアにかかっています。そこでフィリップスでは、ヘルスケア製品や医療機器のIoT化を進めており、自宅で体調や生活習慣をチェックして、専門医療である病院とそのデータを共有できる「Philips HealthSuite Digital Platform」というデジタルプラットフォームを構築しています。例えば、睡眠時無呼吸症候群の検査機器であるCPAPは、患者さんの自宅で睡眠中の呼吸や心拍をモニタリングできます。さらに「Philips HealthSuite Digital Platform」のプラットフォームを通じて、お医者さんにその情報を共有します。これまで、お医者さんは『よく眠れましたか』『寝起きはどうですか』と質問して患者さんの睡眠状態を推察するしかありませんでした。でも、患者さんだって睡眠中のことはよく覚えていません。それが「Philips HealthSuite Digital Platform」を通じて、お医者さんも、患者さんも、睡眠状態を正確に把握できるようになりました。それによって、患者さん個人に合った最適の選択ができるようになったのです」 自分の健康状態や生活を客観的にモニタリングして、お医者さんと共有できる――そんな機器が、すでに登場しているのですね。 「はい。電動歯ブラシ『ソニッケアー』、ワイヤレス照明『Hue』も目下、研究開発が進められています。ソニッケアーは、歯ブラシにセンサーが搭載されて、ブラッシングの強弱や磨き時間などをモニタリングして、スマホのアプリで磨き残しなどを教えてくれる製品が発売されています。生活習慣行の予防に有効とされる口腔ケアに関して、さらに進んで現在、フィリップスが東北大学と共同研究しているのは『毎日3回の歯磨きを習慣化するにはどんな仕組みをつくればいいか』という人間の行動原理に迫る研究です」 歯磨きを習慣化するための仕組みとは、面白いですね。 「いくら歯ブラシが進化しても、本人が歯を磨く行動を起こさないかぎり、虫歯や歯周病は予防できませんよね。義務感からではなく、歯磨きはこんないいことがある、こんな楽しいというベネフィットがあれば、それはたやすく習慣化できるのです。この発想は、歯磨き以外のヘルスケアに広く応用できます。運動を毎日続けるにはどうすればいいか、腹八分目に抑えるにはどんな動機づけがベストか。生活習慣を良い方向に行動変容を起こさせていく仕組みを私たちは提供したいと考えているのです」 食事制限、筋トレなど健康のために始めたものの、習慣化せず挫折した経験がある人は少なくないはず。フィリップスの製品は、健康や美容に関する悩みやジレンマも解決してくれる可能性があるのですね。 「その通りです。実は、ここに医療費問題を解決し、健康で寿命を迎えられる社会をつくっていく大きなヒントがあると私たちは考えているのです」
生活習慣を良い方向に導いてくれるヘルスケア機器。そんな夢のような機器が、私たちの暮らしに入ってくれば、健康や人生そのものに良い影響がありそうですね。 「私たちのチャレンジは、日本の医療全体、みなさんの健康寿命を実寿命に大きく近づける可能性があります。でも、それはフィリップスだけの力では達成できません。例えば、家の中に健康データをとるシステム装置を取り付けたり、ヘルスケア製品や食品を皆さんの家に確実に届けるシステムをつくる。そんなヘルスケアのエコシステムをつくるために、フィリップスは通信会社、ハウスメーカー、物流会社、食品会社などと現在、タッグを組んでいるのです」 業界の垣根を超えて、ヘルスケアに本気で取り組む企業が力を合わせるヘルステックの時代が始まろうとしているのですね。 「フィリップスはヘルスケア製品から医療機器まで、健康に関する機器を幅広く揃えています。つまり、皆さんの健康生活から病院での治療、そしてホームケアまでに一貫して寄り添える唯一の企業なのです。 日本は、世界で最も早く超高齢化に突入します。乗り越えなければならない問題は多くありますが、私はヘルステックの力で乗り越えられると信じています。フィリップスが育てるヘルステックのモデルは、これから日本と同じように超高齢化社会を迎える先進国で応用できます。ゆくゆくは30億人の人々の生活を向上させる――そのための新しい一歩は、ここ日本ですでに始まっているのです」(取材・文/麻生泰子) <プロフィール> 相澤仁 フィリップス・ジャパン マーケティング&BCD、戦略企画・事業開発 統括本部長 日本電信電話株式会社、MCIワールドコム日本法人社長、アクセンチュア パートナー、シスコ・システムズ執行役員などを経て現職。
フィリップスが考える、健康な生活、予防、診断、治療、ホームケアの「一連のヘルスケアプロセス(Health Continuum)」において、皆様の日常生活に参考になる身近な情報をお届けします。一人ひとりの健康の意識を高め、より豊かなヘルスケアプロセスの実現を目指します。