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yofuke banana masthead

6 15, 2019

映画『こんな夜更けにバナナかよ』
困難を乗り超えて人生を味わう力

ページを読む時間の目安: 3-5 分

厚かましくも、どこか憎めない筋ジスの鹿野さんと、彼を支えるボランティアたちの日々を描いた映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』。鹿野さんの生き方には、豊かな人生、みんなが生きやすい社会を考えるヒントがありました。

「バナナ食べたい!」はわがままなのか?

「腹減ってきたな。バナナ食べたい!」──大泉洋さんが深夜に言い放つそんなフレーズが耳に残ります。これまで障害者を描いた映画やドラマは数多くありましたが、「わがまま」な障害者というのは、おそらく前代未聞でしょう。

 

大泉洋さん演じる筋ジストロフィーの鹿野靖明さん(1959〜2002年)は、「どんなに障害が重くても、地域で普通に生活したい」という思いを抱いて、1983年より札幌市でボランティアとの「自立生活」を約20年に渡って続けた実在の人物。

映画の原作は、ノンフィクションライターの渡辺一史さんが、鹿野さんらを約2年半にわたって取材し、2003年に出版した作品です。

 

「障害者というと、どことなく聖人君子のイメージがありますが、取材を始めてみると、現実はまるで違っていました。鹿野さんはとにかく自己主張が強く、『あれしろ、これしろ』とボランティアに次々と要求を繰り出してくるし、食べ物の好き嫌いが激しかったり、人のウワサ話は大好きだし、エッチなところもたくさんあったりと、どこが聖人君子なの?という人でした」

 

原作者の渡辺さんはそういって笑います。そして、取材前に抱いていたイメージをくつがえされたのは、鹿野さんだけではありませんでした。

 

「ボランティアの人たちもまた、よくイメージされるように善意に満ちあふれた、献身的な若者たちというのとは全然違って、しょっちゅう遅刻してくる人もいれば、介助を何度教わっても覚えられずに、鹿野さんから『もう来なくていい!』と怒られるような人もいました。そして、みんな人生にそれぞれの悩みを抱えたごく普通の若者たちでした」

 

そんな「わがまま」な障害者である鹿野さんと、ごく普通の若者たちであるボランティアが織りなす葛藤が、原作の重要なテーマであり、それは映画でもまったく同じです。

 

「高畑充希さん演じるボランティアの美咲が、あるときブチ切れて、『鹿野さんって何様? 障害者だからって、何言ってもいいわけ!』と怒りをぶつけるシーンがありますよね。現実もまさにあんな感じで、鹿野さんとボランティアたちとの衝突や葛藤は絶えませんでした。いってみれば、筋ジスで手足が動かず、人のお世話になりっぱなしのはずなのに、まったく悪びれない鹿野さんに、映画を観ている観客も最初は美咲と一緒になって怒りを募らせるのではないでしょうか(笑)。でもそれが徐々に、『いや、そうじゃないのかもしれない』と思い始めるプロセスが、映画ではとても丁寧に描かれていました」

 

当初は誰しも抱きがちな「鹿野さんって何様?」という思いが、徐々に溶け始めるのはなぜでしょうか。それは、「わがまま」に思える鹿野さんのふるまいの裏に、“命がけ”の覚悟が秘められていたからです。

「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」

「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」

2019年8月7日 Blu-ray&DVD発売!

発売・販売元:松竹

©2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会 

重度障害者の「自立生活」って何だろう?

実在の鹿野さんが、それまで入所していた障害者施設を飛び出し、ボランティアたちとのユニークな自立生活を開始したのは1983年、24歳のときだったといいます。当時は、今の「在宅福祉制度」にあたるような制度がほとんど皆無の時代でした。そのため、鹿野さんのように重い障害がある人たちは、親の介助を受けながら一生を親元で過ごすか、さもなくば、施設に入所して社会から隔離された形で生きるか、その二つに一つの生き方しかない時代でもありました。

 

「でも、それって、社会のあり方として正しいでしょうか。別に障害があるのは、その人のせいというわけでもないのに、なぜ障害があるというだけで普通の人生をおくる機会を奪われなくてはならないのか。そんな思いから、親元や施設を飛び出し、『地域で普通に生きる』という第三の道に踏み出した、勇気ある障害者の人たちが1970〜80年代に登場し始めたのです。鹿野さんも、まさにその一人でした」

 

こうした生き方のスタイルを、重度障害者の「自立生活」と呼びます。

とはいえ、誰かの介助なしには一日たりとも生活できない彼らは、街頭でチラシをまいたり、大学の授業の時間を借りて、学生たちに「介助者がいなくては生きていけない現状」を訴えるなど、つねにボランティアを募集しながら、毎日を綱渡りのように生きなくてはなりませんでした。

 

「三浦春馬さんが演じた医学生ボランティアの田中が、『あの人のわがままは命がけなんです!』と鹿野さんをかばって言うシーンがありますが、まさにそうですよね。制度が何もなかった時代に、地域に飛び出した障害者の覚悟って、ものすごいものがあったと思います。そうした背景がわかるに従って、鹿野さんの『わがまま』って、じつは『普通に生きたい』というごく当たり前の思いに過ぎないのではないかと思い始める。そして、それに気づいたボランティアは、自分自身もまた大きく変わり始めるんです」

 

その最たる例が、三浦さんが演じる田中でした。田中は、北海道大学の医学部に通う医学生であると同時に、大病院の跡取り息子という設定。いってみれば、顔はイケメン、頭も優秀、生まれ育ちも恵まれた境遇ですが、その性格はというと、気が弱くてなぜかウジウジしています。「自分は医者に向いているんだろうか、本当に医者になりたいんだろうか」と思い悩むタイプです。

 

「男子学生によくありがちでしょう?(笑) 自分で自分の限界を定めてしまうタイプというか……。映画に出てくる田中と美咲は、原作に登場するボランティアの何人かを凝縮した、いわば架空の人物なのですが、私たち健常者の多くが、じつは田中だったり美咲だったりする。その一方で、鹿野さんはといえば、身体的には不自由で限界だらけなのに、誰よりも自由に生きているように見える。そのギャップが不思議だし、それを感じて、田中も美咲もしだいに心が解放されていく。その意味では、彼らのほうが鹿野さんに支えられているわけです」

鹿野靖明さんと渡辺一史さん

鹿野さんのわがままが社会にもたらすもの

鹿野さんの命がけの「わがまま」は、果たして本当にわがままなのでしょうか。そのことを、もっと社会的な視野で考えるとき、最もわかりやすい例が、駅のエレベーターだと渡辺さんはいいます。

 

 

「ふだん私たちは、駅にエレベーターがあるのは当たり前だと思って生活しています。でも、駅のエレベーターは“自然の流れ”でできたのでも、鉄道会社や行政の“思いやり”でできたのでもありません。鹿野さんのように地域に出た障害者が、『駅の段差をなくしてほしい。エレベーターを設置してほしい』と1970年代から延々と陳情や運動を続けて、ようやく実現した成果なんです」

 

 それ以前は、行政も市民も、「障害者のために、そんな高価な設備をつけるのは不可能だ」「なんてわがままな主張をする人たちなんだ」と考えていたといいます。しかし、1970年代から全国各地で巻き起こった障害者運動によって、2000年に「交通バリアフリー法」(現・バリアフリー新法)などの法律が制定され、一定規模の駅や施設でのエレベーター設置が義務づけられました。

 

「大切なことは、エレベーターが障害者だけでなく、高齢者やベビーカーを押す親、あるいは、足を骨折した人や、重たいキャリーバッグを引く旅行者など、さまざまな生の条件を背負った人たちに恩恵をもたらしていることです。障害者の切実な訴えには、こうした面があることを私たちは忘れるべきではないでしょう。最初は『なんてわがままな!』と反発さえ覚えた訴えが、結果的に社会全体をいい方向、豊かな方向に変えてくれることが往々にしてあるからです」

 

たとえば、多くの障害者たちの「地域で暮らす」という実践が、今日の在宅介護制度の充実を推し進めてくれていますし、「人に迷惑をかけてはいけない」という社会的な規範が強い日本の社会において、「他人や社会に助けを求める」ことの意義を問い直してくれるような生き方でもあると渡辺さんはいいます。

 

「映画公開時に、日本テレビの『世界一受けたい授業』という番組に、大泉さんと一緒に出演させていただいたとき、大泉さんがこんな印象的なことを語ってくれたんです。『これまでは自分の娘に、人に迷惑をかけないようにしなさいと言ってきた。でも、この映画を通して考え方が変わった。これからは、できなことは人に頼りなさい、そして人に頼られたときは、それに応えられるような人になりなさい、と言うようにしたい』と──。じつは健常者のほうこそ、『人に迷惑をかけてはいけない』という規範にしばられ、悩みや苦しみを誰にも打ち明けられずに、孤立してしまっている人が多いのではないでしょうか。鹿野さんの『わがまま』が、私たちの社会にどんな豊かさをもたらしてくれているかを、この映画やDVDをきっかけに、一人でも多くの方々に考えていただければと思っています」(取材/ 麻生泰子)

 

 

*進行性筋ジストロフィー…筋萎縮と筋力低下が進行して体を動かすことが困難になり、やがて心筋症や呼吸不全へと至る難病。鹿野さんが人工呼吸器をつけた1995年は、おりしも国内で在宅人工呼吸器が保険適用になった翌年。在宅用人工呼吸器のおかげで、鹿野さんは再び自立生活に戻ることができた。

劇中では、鹿野さんが使用したものと同型のフィリップス・レスピロニクス製の在宅用人工呼吸器が登場し、鹿野さんを担当したフィリップス・ジャパン社員が撮影現場に立ち会い、当時のままに再現した。人工呼吸器の進歩は、筋ジストロフィー患者の平均寿命を飛躍的に伸ばし、脳性マヒや脳血管障害、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などで呼吸が困難になった人たちの在宅生活にも貢献している。

原作者・渡辺一史さん

渡辺一史(わたなべ・かずふみ)

1968年、名古屋市生まれ。北海道大学文学部を中退後、北海道を拠点に活動するライターとなる。2003年刊『こんな夜更けにバナナかよ』(文春文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞を受賞。他の著書に『北の無人駅から』『なぜ人と人は支え合うのか』がある。

 

『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018年公開・松竹 監督:前田哲  原作:渡辺一史 脚本:橋本裕志、出演:大泉 洋、高畑充希、三浦春馬ほか)

筋ジストロフィーという難病を抱えながらも自らの夢や欲に素直に生き、皆に愛され続けた実在の人物・鹿野靖明さんと、彼を支えながらともに生きたボランティアや家族の姿を描いた人間ドラマ。口コミで評判が広がり、興行成績11億円を突破。2019年8月7日、Blu-ray&DVD発売予定。

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