パワーナップ(Power Nap=積極的仮眠)が注目を集めています。パワーナップとは、社会心理学者ジェームス・マース氏が提唱した昼間の短時間仮眠。要するに“昼寝”のことですが、仕事のパフォーマンス向上に直結する習慣として、Google、Apple、Microsoft、NIKEなどの世界的企業では、オフィスに仮眠スペースを設けたり、睡眠装置を置くなどして積極的に推奨しています。 パワーナップの科学的効果を実証したのは、NASA(アメリカ航空宇宙局)。1995年頃からNASA Napsという睡眠研究を行っており、その実証実験では昼に26分間の仮眠で、認知能力が34%、注意力は54%も向上しました。昼下がりに眠気に襲われて、ウトウトした経験は誰しもあると思います。これは昼食で血糖値が急激に上昇するのが原因ですが、もう一つ大きな要因があります。それは生体リズム。人は夜中の午前2〜4時頃、お昼の午後2〜4時頃に眠気のピークが訪れるように体内時計が設定されているのです。つまり、昼下がりに眠気が訪れるのは、いわば自然の理。そのまま仕事を続けても、効率や成果は落ちる一方です。昼間に一時的に睡眠をとり、眠気を解消することは、生理学的にも理にかなっているのです。 実際、昼寝は夜の睡眠の3倍の効果があるとされています。なぜ、ここまで効果があるのでしょうか。それは入眠時に訪れる、深い眠りのノンレム睡眠に秘密があります。 ノンレム睡眠は、深さに応じて4つのステージがあります。カリフォルニア大学の神経科学者マシュー・ウォーカーの研究では、入眠20分ほどで訪れる軽い睡眠レベルの「ステージ2」は、脳内の“キャッシュ・メモリ”がクリアされて、情報を整理・記憶したり、優先順位をつける脳のワーキングメモリが強化されることが明らかになりました。これが短時間睡眠で、頭がスッキリ冴えわたる理由の一つです。 ただし、仮眠が30分以上になると、ステージ4に進み、深い眠りに到達してしまいます。すると、寝覚めが悪く、起きてからもボーッとした状態に。パワーナップは20分前後の短時間で済ませることが、スッキリ目覚める最大の秘訣です。
オフィスや外出先でパワーナップを実践するには、入眠しやすい環境づくりも重要です。そこで、上手に仮眠するルールをお伝えしましょう。
パワーナップでは、机に突っ伏した状態や椅子の背もたれに寄りかかって寝るのがベスト。横にならないことで、首にある交感神経節がほどよく刺激されます。交感神経は覚醒状態をつかさどるので、深い眠りに落ちるのを防いでくれます。
周囲が明るいと、眠りのホルモンであるメラトニンの分泌が減り、睡眠の質が下がります。仮眠をとるときは、明るい窓際ではなく奥まった場所を選んだり、アイマスクを付けたりすると、睡眠モードに入りやすくなります。また、意外と邪魔になるのが、パソコンのディスプレイの光や作動音。電源を落としたり、スリープモードにするのがおすすめです。
話し声が聞こえたり、シーンと静まりかえっていると、寝つけなくなることがあります。脳の活動を抑え、眠りを促すとされるのが「ホワイトノイズ」。雨や波、風の音のような心地よい雑音です。オフィスやカフェなど騒がしい場所で仮眠するときは、ホワイトノイズを聴けるアプリなどを活用するのも手です。
コーヒーや紅茶などのカフェイン飲料は、飲んでから覚醒効果が現れるまで約20~30分かかります。つまり、眠る直前にコーヒーや紅茶、緑茶などを飲むと、仮眠から目覚めるタイミングでカフェインが働いてスッキリと目覚めることができます。
パワーナップは“昼間の短時間”だからこそ、効果が期待できます。夕方以降にとると、夜の睡眠に影響を及ぼす可能性があります。また、アラームを設定するなどして、20分前後の短時間にとどめましょう。
パワーナップで日中のパフォーマンスが上がるのはいいけど、「夜に眠れなくなってしまうのでは」と不安になる人もいるかもしれません。じつはそれは逆。パワーナップは体内リズムに従っているので、むしろ夜の睡眠の質が高まり、朝の目覚めが良くなる効果があるのです。 夜寝たはずなのに、日中の眠気が強く、だるさや疲労感などの自覚症状がある人は、睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:以下SAS)の可能性もあります(セルフチェックはこちら 。主な症状として「いびき」がありますが、人に指摘されるまで気づかないことが多く、潜在的な患者は日本に300〜500万人とされています。 「眠気」は、脳と体からのSOS。無理にガマンするものではなく、眠気の原因に向き合い、解消に向けたアクションを起こすことで、心身の状態が改善されます。よく休むことは、よく働くことと表裏一体。眠り上手になって、人生のパフォーマンスを向上させてみませんか?(文/麻生泰子)
ただし、SASと診断されても、CPAP(持続的気道陽圧)装置で睡眠中の酸欠状態を改善するなど治療をスタートすることで、睡眠の質を高め、合併症や居眠りを予防していくことはできます。最近では、携帯できる小型・軽量の装置も登場し、出張先や外出先などでも使えるようになりました。
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