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5 15, 2020

学校に必要な安全管理体制とは?子どもを突然死からまもるために

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日本小児循環器学会は「片道1分以内のAED設置」「対外試合のAED携行」など多様な学校生活の場面におけるAEDの配備を提唱する『学校管理下AEDの管理運用に関するガイドライン』を作成しました。子どもの心臓突然死をゼロにするために今できることは?

「突然死」とは、予期しない何らかの疾患による(外傷性ではない)急死のことで、発症から24時間以内の死亡と定義されています。一般成人での原因は、心筋梗塞をはじめ、心筋症、弁膜症、心不全などの心臓病によるものが6割以上で、そのほか脳血管障害、消化器疾患などがあります。突然死の中でも心臓病に原因するものを心臓突然死といい、日本では2019年1年間で79,400人*1が亡くなっており、その中で特に多いのが急性心筋梗塞です。

 

心臓突然死は心臓病が原因ですが、心臓が停止する直接の原因は心室細動(VF)という不整脈が約8割です。心筋梗塞を例にあげると、心臓に栄養と酸素を送る冠動脈で動脈硬化が進行して血管の内側が狭くなり、血栓が詰まると、そこから先の血流が途絶えて心筋が壊死してしまうのが心筋梗塞です。こうした事態により心室細動が発生し、心室筋が協調した動きを失い、心臓はポンプ機能を失い、脳に血液を送れなくなり死に至ります。そのほか、心室頻拍(VT)も致死性が高い不整脈で、心室細動に移行すると突然死に至ります。

安全配慮義務を怠った場合の責任

学校における子どもの突然死の現状

現在、医療技術や安全管理が進化して、学校管理体制下における安全面は格段に向上しています。学校管理下の子どもの死亡事例を調査研究してきた小児循環器の専門医である鮎沢衛先生(日本大学医学部附属板橋病院小児新生児科科長)は、学校管理下における子どもの突然死の変遷をこう話します。

 

「1980年代には、全国の小中高校で起きた死亡事例は毎年約250例にのぼっていました。このうち、心疾患や中枢神経疾患などによる突然死は約120例にのぼり、全体の約半分を占めていました。

 

しかし、一般市民によるAED使用が認められた2004年以降の8年間では、死亡事例は約75例、突然死は約40例と減少しています*1。以降も、学校管理下での死亡事例は減少の一途をたどり、2018年では死亡事例数は57例、このうち突然死は25例(心臓突然死は12例)と、約5分の1まで減らすことができたのです。

安全配慮義務を果たすためのとるべき措置

学校の健康診断だけでは発見が難しい疾患も

最新の研究では、多くの疾患で突然死の可能性は克服された中で、まだ課題が残る心臓突然死を起こしうる疾患として、冠動脈の先天異常、解離性大動脈瘤、カテコラミン誘発性心室頻拍があります。これらの発見には、学校の健康診断で行われる心電図検査では見つけることが難しく、MRI/CT検査や遺伝子検査などが必要であることが判明しています。

 

そんな心臓突然死は、かつて学校管理下の死亡原因で圧倒的に多かったものの、今では年間10例前後と減少の一途をたどっています」

 

子どもの命を守るために――全国に普及した学校AED

 

心臓突然死は、健康な子どもにも起こりうるもので予測が困難です。そうでありながら、学校管理下での子どもの心臓突然死を大きく減らすことができたのはなぜでしょうか?

 

「循環器医療技術が進歩したことに加え、1995 年から小・中・高校の1年生を対象に心電図検査が義務化されて、大規模な学校心臓検診システムが確立されたことが大きいと思います。さらに2004年7月から一般市民による AEDの使用が認められました。おかげで、今ではほとんどの小中高校にAEDが配置され、教職員や市民など誰もが一次救命処置ができるようになったのです。

 

心臓突然死は運動の場で多く起こりますが、近年(2008年4月〜2015年12月)、学校管理下におけるスポーツの場で、BLS(Basic Life Support:胸骨圧迫やAED実施などの一次救命処置)の実施率は87% *4にのぼり、その他の場所に比べるとかなり高い割合です。そのうち、心肺停止が疑われる子どもへのAED実施率は80%となっています。学校に設置されるようになったAEDの存在、そして『子どもの命を守ろう』という学校側、市民、行政など社会全体の強い意志と行動が、この数字によく現れていると思います」

安全配慮義務に関心を持つ企業は多い

救命・社会復帰率を高める「片道1分以内」のAED設置条件

学校において“救命の連鎖”が多く実現されたことで、心臓突然死は年間10例前後まで減らすことができました。しかし、AEDが設置されていながら、心肺停止の発生現場から遠すぎるなどの理由で「間に合わなかった」「使わなかった」というケースもいまだにあります。心肺停止の際はAEDの使用が1分遅れるごとに、救命・社会復帰率は7%から10%ずつ下がります。つまり、発生から5分後では、救命・社会復帰率は50%まで低下します。それゆえに、3分以内にAEDを実施することが望ましいのです。

 

子どもの命を助けようと力を尽くしても、AEDがすぐに取りに行ける場所になかった――そのことが救命の大きなハードルとなることがあります。そこで、日本小児循環器学会では『学校管理下AEDの管理運用に関するガイドライン』(班長:金沢大学 小児科 太田 邦雄教授)(以下、学校AEDガイドライン)を作成し、2020年4月に発表しました。鮎沢先生は、この学校AEDガイドラインの作成委員も務めています

 

「子どもの心臓突然死は、グラウンドや体育館、プールなど体を動かす場で多発しています。心臓に疾患がある児童では、通常の教室や階段、音楽室などで起こるリスクもあります。日本小児循環器学会修練施設での調査データでは、学校発症が55%で、その内グラウンド、プール、体育館など運動を行う場所が大部分でした。つまり、運動中または運動直後の発症が多く、注意が必要なことが分かります。

 

しかし、広い構内にAED設置数が1台のみで、しかも職員室など運動施設から離れた場所にあるなど、3分以内のAED実施が現実的に難しいケースも少なくありません。そこで今回の学校AEDガイドラインでは『片道1分以内にAEDを設置する』『マラソン大会や運動会、対外試合にAEDを携行する』などAED適正配置・携行の明確な基準を示したのです」

救急車到着前の行動が究明が大切です

学校環境で片道1分以内のAEDの適正な設置が実現すれば、 助けられなかった子どもの数は今よりもっと減らすことができるかもしれません。日本小児循環器学会が示した学校AEDガイドラインは、今後、日本の小中高学校の安全管理体制をさらに進化させ、子どもたちの健康と命を守るための確かな一歩となるでしょう。

 

参考.学校内のAED設置推奨場所(学校AEDガイドライン、Mitamura H. Circ. J.2015; 79: 1398-1401)

 

1. 人目につきやすい場所、児童生徒も含め皆が毎日、目にする場所に設置

  例えば玄関ロビーや職員室・保健室近くの廊下(看板で設置場所を示す)

2.学校内のどの場所からも片道1分以内で取りに行ける場所に設置

  1台でそれが不可能な場合にはAEDを取り寄せる体制を整備するか、複数台に増設して対応

  (職員室または保健室、体育館、移動用AEDなど)

3.運動が行われるグランド、プール、体育館など心停止が発生しやすい場所へのアクセスを考慮

  (但し雨に濡れる場所、気温が極端に高い/低い場所は避ける)

4.保管場所は施錠せずに24時間、365日アクセス可能な状態にする

5.運動会や試合などの開催時には、随時その近くにAEDを移動

  一時的にAEDをレンタルすることも考慮

  マラソン大会ではAEDの複数の配置場所に加え、自転車での携行も考慮

6.クラブ活動や対外試合などで学校を離れる際には、携行用のAEDを用意

7.近隣の住民にAEDが必要な事態が生じたとき、校内のAEDを貸与できる工夫が望ましい

 

迷ったら「AED+胸骨圧迫」が命を助けるアクション

 

子どもの命を助けるためには、AEDを学校内に適正に設置するだけ十分とはいえません。次の段階として、AEDを活用して適切な救命活動を行える人を育成することが重要です。鮎沢先生によれば、AEDの適正配置と合わせて知っておいてほしいのは「胸骨圧迫』だといいます。「AEDが届くまで胸骨圧迫が実施できれば、脳への血流を維持できるので、助かる確率が高まります。子どもの容態が心肺停止かわからなくても、迷ったらとにかく胸骨圧迫です。

 

心停止直後はしゃくりあげるような喘ぎ呼吸が現れることがあります。これは『死戦期呼吸』といって一見、呼吸をしているように見えます。そのために『呼吸している』と勘違いして蘇生をやめてしまったケースがあります。呼吸をしているようでも異常を感じたら、恐れずに胸骨圧迫とAEDを行なってください。心停止でなければ、うめいたり、声を上げるので、区別がつくと思います」

 

胸骨圧迫は、子どもの胸の真ん中で両手を揃え、体重をかけて1分間に100回程度リズミカルに押します。子どもなら胸が3分の1(大人なら胸が2分の1)ぐらい沈むほど強く押します。1分間に100回は「うさぎとかめ」「アンパンマンマーチ」などの曲と同じペースだと鮎沢先生はアドバイスします。

 

「可能ならば、胸骨圧迫の合間に人工呼吸を行います。胸骨圧迫30回に人工呼吸2回のペースを繰り返すことが推奨されています。ただし、人工呼吸は感染症などのリスクもあるので、無理に行う必要はありません」

 

鮎沢先生によれば「うさぎとかめ(♫もしもし亀よ〜。。。)」の1番で、胸骨圧迫がちょうど30回行えるといいます。実際の救命現場では正確な数を実施するのは難しいかもしれませんが、救命訓練で一度体験しておくとわかりやすいかもしれません」

心臓突然死から子どもを守る4つの学校環境ポイント

鮎沢先生によれば、心臓突然死から子どもを守る学校管理体制のポイントは4つあるといいます。それは「片道1分以内にAED」「運動施設近くにAED設置」「救命シミュレーション」、そして「胸骨圧迫の知識」です。

 

「グラウンドや体育館など運動施設から1分以内で駆けつけられて、見つけやすいAED設置場所はどこか。そのためにAEDの数はいくつ必要か。居合わせた人、連絡を受けた人はどう動くか。ガイドラインを学校で実現するにあたって、専門知識のある養護教諭の意見を積極的に取り入れながら、みんなで設置場所を決めて、教職員全員で救命シミュレーションを行っていただきたいと思います。

 

心臓突然死はいつどこで起こるかわかりません。プール実習時や発汗時で体がびっしょりと濡れている状態ではAEDは通電できません。心臓疾患がある子どもの場合は、心臓にペースメーカーが入っていたり、心臓が右側にあるケースもあります。校内でシミュレーションしてみることで、校内の隠れたリスクや課題など初めて見えてくることがあります。考えられる事態を想定して、AEDの設置場所を決めて、シミュレーションを重ねていけば、いざというとき体が自然と反応するようになっていくはずです」

 

こうした一連の救命シミュレーションは、防災訓練と同じように学校全体の取り組みにしてほしいと鮎沢先生は考えています。

 

「生徒向けに一次救命処置の授業を行う中高校も増えていますし、小学生でも高学年向けに救命トレーニングを実施している学校もあります。学校において、救護するにはできれば救助者として最低4人が必要です。胸骨圧迫する人、119番通報する人、AEDを取りに行く人、周りでうろたえる学生を現場でケアする人がいると理想的で、緊急時にそれらの人に一斉に連絡してすぐに集まって対応できるような準備が必要です。

 

ちなみに、心臓に疾患を抱える子どもへの運動指導や運動強度は、教職員が使う『学校生活管理指導表』に疾患ごとに記されています。しかし、疾患や個人、治療状況によってリスク度合いや注意点は異なり、疾患によってはじっとしている場合の方がリスクが高いケースもあります。できれば、学校の先生が病院を訪問し、主治医と直接話す機会をもってほしいですね。疾患ごとの症状や注意するポイントについてあらかじめ相談しておけば、学校の先生も保護者の方もより安心で心強いかと思います。」

 

また、学校における救命シミュレーションや訓練の意義について鮎沢先生はこう話します。

 

「学校における救命体制が整うことで、救えるはずの子どもの命を救うことができることはもちろんですが、子どものうちから『自分も人の命を助けることができる』『勇気を出して人を助けることは素晴らしいことだ』という意識を根づかせる良い機会にもなると思います。教職員や学校医、消防、行政、教育委員会など多くの人たちに大切に守られた子どもが、やがては社会を守る存在になっていく。今回作成した学校AEDガイドラインが“救命の連鎖”を社会全体に広げるきっかけになってくれればと願います」(取材・文 / 麻生泰子)

 

鮎沢衛(あゆさわ・まもる)

1984年日本大学医学部卒業。86年国立療養所足利病院小児科、都立墨東病院小児科。都立広尾病院小児科を経て、97年米国南カリフォルニア大学ロサンゼルス小児病院でVisiting Professorを務める。2002年日本大学医学部小児科講師。2009年日本大学医学部小児科准教授。日本大学医学部附属板橋病院小児新生児科科長。

*1 総務省消防庁「令和元年度版 救急救助の現況」

参照資料

鮎沢衛、伊東三吾、岡田和夫ほか「学校における突然死予防必携改訂版」独立行政法人日本スポーツ振興センター、2011年 

独立行政法人日本スポーツ振興センター「学校の管理下の災害」平成30年版

清原康介ほか「学校管理下で起こる心臓突然死の予防に向けた市民AEDの普及と効果に関する研究」2018年

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