タナカさんがサウナに目覚めたのは40歳の頃。18歳からマンガ家デビューして以来、『バカドリル』『オッス!トン子ちゃん』などヒット作を飛ばしてきました。40歳はちょうど下り坂になろうとする体力の衰えを感じ始めた頃でした。 「同世代を見ると何かしら不調を抱えている人が多い。このままではいかん!とジムに通い出したんです。でも、僕は自分に甘いタイプ(笑)。ジムに行っても、お風呂だけ入って帰る日々が続きました。そのうち、お風呂っていいなと再認識して、試しにサウナに行ってみたのがすべての始まりです」 最近は若い人の間でサウナブームが起き、「サウナー」を自称する愛好家も増えているといいます。タナカさんはブームの火付け役で、今では毎日サウナに入るほどのヘビーサウナー。タナカさんにいったい何が起きたのでしょうか。 「火付け役なんておこがましい。僕が通い始めた10年ほど前はすでにサウナーの先人たちがいましたから。サウナの基本は温冷交代浴です。サウナでポカポカに温まった体を水風呂でキュッーと冷やす。すると、血管が収縮して全身あますところなく血液が駆けめぐります。水風呂から上がったら、脱力したラクな姿勢で心ゆくまでクールダウンし、余韻を楽しみます。 この瞬間こそ、サウナの醍醐味です。全身にじんわりとした心地よさが広がり、えもいえぬ極上の感覚が訪れます。いわば“サウナトランス”ともいうべき恍惚状態。この究極に心身が満たされた状態をサウナーたちは“ととのう”と表現しています」 「温まる→冷やす→休む」のワンセットで、それを何度か繰り返します。そうすると心身がスッキリする “ととのう”瞬間が訪れるのですね。サウナで過ごす時間はどのぐらいなのでしょうか? 「僕はだいたい1時間ぐらいです。時間を決めて頑張る必要はなく、自分がちょうどいいと感じたときが、出どき・入りどきです。水分は早めにしっかりとっておいた方がいいと思います。摂取した水分が体に行きわたるのに30分ほどかかるといわれていますから」 自分の体調や気分に合わせて、自由なスタイルでいいのですね。持病などがある人はかかりつけ医に相談してから。とくに水風呂については、慣れていない人は抵抗感があるかもしれません。 「安心してください。最初から水風呂が好きな人はたぶんいません(笑)。サウナや温泉で平然と水風呂に入っている人を見かけますが、あの人たちは一線を超えていった人たち。水風呂の良さを味わってしまうと、その快感を体が欲するようになります。むしろサウナの楽しみは、水風呂に入ってからが本番ともいえます。 体調に関しては、サウナを始めてから肩こり、腰痛、目の疲れ、倦怠感など体の不調は一切なくなりました。夜はよく眠れるし、前向き思考になるし、仕事の量と質はグッと高まりました」
【サウナの目的別入浴法】
スポーツ・トレーニング後や肉体疲労時には、熱めのサウナがおすすめ。疲労部位と非疲労部位の差がなくなって疲労感がとれ、疲労物質(乳酸)が排泄されて、疲労回復が促進される。
皮膚から1mlの汗が気化するときには、約0.58カロリーの熱量を消費するため、減量効果が期待できる。
血管調節の働きをよくして、皮膚の生理機能を活発にする。低温のサウナに時間をかけて入ると、毛穴がよく開き、汗腺も活動し、汚れや皮脂を排出しやすくなる。
全身の代謝亢進、心とからだの平衡、汗が蒸発する爽快感など、いわば間脳刺激のマッサージ効果が得られる。
サウナと冷水の交代浴で、血圧を正常に近づける(ただし、心臓疾患や高血圧症の人のサウナ入浴には注意が必要)。
低温サウナにゆっくり入り、汗のひくのを待ってからすぐ就寝すると眠りに就きやすくなる。
(参考:公益社団法人日本サウナ・スパ協会ホームページ・サウナ健康読本「サウナブック」)
*効果には個人差があります。 *持病等がある方は医師にご相談の上、行なってください。
タナカさんの1日は朝4時から始まります。昼12時まで執筆などの仕事に励み、午後は行きつけのサウナに出かけて打ち合わせや取材など人と会う時間にあてています。毎日サウナに入って疲れないのでしょうか。 「いやいや、サウナは“休息”ですから。むしろその日の疲れが一気に吹き飛んで、よく寝た朝の目覚めのように体が軽くなります。温冷交代浴はリフレッシュ効果が抜群に高いのです。 その意味では、サウナは“積極的休息”ともいえるかもしれません。私はスマホやゲームなどで中途半端な休息をとらないぶん、サウナで心身ともに生まれ変わるような休憩をとっています。忙しくて疲れがたまっている人ほど、サウナの積極的休息をおすすめしたいですね」 さらに、タナカさんにとってサウナは、マインドフルネスの場でもあるといいます。 「最初は仕事のことを考えたりしながら、サウナ室に入るのですが、そのうち『暑いなあ』『水風呂入りたい』しか考えられなくなり、ぼんやりしてきて無我の境地になる。それから水風呂に入って、休憩室でひと休みしていると、仕事のアイデアがポンポンと浮かんでくる瞬間があるのです。 パフォーマンスを上げようと思ったら、まずはしっかり休むことです。そうすると疲れやモヤモヤが解消されて、本来のパフォーマンスが最大限発揮できるようになると思います」 タナカさんが企画・プロデュースしたガチャガチャの大ヒット玩具「コップのフチ子」シリーズも、サウナ室から生まれたものだといいます。そして現在、週刊モーニングで毎週の『マンガ サ道』の連載をこなしながら、京都精華大学で教鞭をとり、水中園芸作家、室内空間やグッズのクリエーターとして様々な活動を行なっています。そのタフな創造力と行動力を支えているのが、サウナで過ごす時間なのかもしれません。 (下記写真は、長野県のフィンランド・ビレッジでのサウナ後に「ととのっている」タナカさん)
じつは、タナカさんは日本サウナ・スパ協会から「日本サウナ大使」を任命され、サウナの本場・フィンランドでのサウナ体験や交流なども行なっています。 「フィンランドでは、日本のお風呂に近い感覚でサウナが身近に親しまれていますね。なんと、軍隊が士気を高めるためにサウナ設備を持ち運ぶほど。でも、よく考えたら、日本の自衛隊も国内どこにでもお風呂をつくっちゃいますよね」 お風呂とサウナ。遠く離れたフィンランドと日本は、意外な共通点があるようですね。 「フィンランド人の中には、サウナを神聖な空間としてとらえる人もいます。フィンランドのサウナは、日本でいう“茶室”のように精神を集中させて、人と交流を深める場でもあるのです。じつは日本の歴史をひも解くと、千利休も蒸し風呂を愛好していたことがわかっています。茶室は、そもそも入浴後に茶をたしなむ場所として始まったのです。サウナー流に言えば、茶室は僧侶や武士たちが“ととのう”場所だったのかもしれませんね」 健康な生活を続けるためには、毎日の疲れやストレスを上手にリセットして心身を整える習慣を見つけることが大切です。昨今のサウナブームで、フィンランド式のサウナ室や、ワークスペースや漫画部屋などがあるサウナ施設などバリエーションも広がっており、サウナでの積極的休息の健康習慣は人生の楽しみも増やしてくれそうです。ぜひサウナデビューして、新たな人生の扉を開いてみませんか?(取材・文 / 麻生泰子) <プロフィール> タナカカツキ マンガ家。著書には『逆光の頃』『オッス!トン子ちゃん』、天久聖一との共著『バカドリル』などがある。カプセルトイ「コップのフチ子」企画、デザインを担当。2011年『サ道』(パルコ出版)を刊行。その後、日本サウナ・スパ協会からサウナ大使に任命される。
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