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病気を抱える人が挑戦できる社会をつくるには?2023年春に東京でのフルマラソンを完走したCOPDアスリートのラッセルさんに、呼吸器障害患者団体「J-BREATH」の遠山和子理事長、吉田なぎさ事務局長の両氏が話を聞きました。

copdathlete jbreath icon

COPDという慢性疾患とどう向き合うか?

2023年11月15日は「世界COPDデー」です。COPDとは、肺胞が破壊されて肺の機能が徐々に失われ、呼吸が困難になっていく病気です。喫煙を主な原因とする肺の慢性疾患で、進行すると酸素濃縮装置から酸素供給を行う在宅酸素療法が必要となる場合があります。「世界COPDデー」はCOPDの研究と啓発に力を注ぐ世界的な組織GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)が2002年に制定したもので、毎年さまざまなイベントが世界中で開催されます。


2023年3月、東京で3年ぶりにコロナ禍前と同じ規模での国際マラソンが開催されましたが、オーストラリア在住のラッセル・ウィンウッドさん(56歳)は、ポータブル酸素濃縮装置を背負いながら一般ランナーにまじり完走を果たしました。45歳でCOPDを宣告されたときは、肺活量は22%しか残されておらず、最重症のステージⅣという深刻な診断でした。しかし、ラッセルさんはこの状況を挑戦ととらえて、トレーニングを重ねた結果、宣告から12年を経た今も元気に日常生活を送っています。ワールドマラソンメジャーズ(世界6大マラソン大会)に数えられるニューヨークマラソン、ボストンマラソンなどに挑戦しつづけ、東京は5つ目の挑戦、そして完走となりました。


遠山 COPDを抱えながら東京のマラソンを完走するという驚異的な活躍に、私たちも驚きました。ブログ「肺の疾患に負けず、東京を完走したヒーロー誕生。COPDアスリートの挑戦に迫る。 」 は、ステージⅣからステージⅢに回復されたラッセルさんの挑戦の軌跡をお聞きしましたが、今回は患者さんやその家族に向けてアドバイスをいただけたらと考えています。

 

吉田 まず、患者さんの中には、COPDになってもなかなか喫煙をやめられないという方もいます。長年続けてきた習慣から脱するにはどうしたらいいでしょうか?


ラッセル 私もそうでしたが、自分の人生にマイナスになるとはっきり自覚したことで、やめざるを得なかったというのが当時の状況でした。家族、長生き、自分の人生にとって何が大切なのかの動機づけが大切です。私はまだ若かったので、子どもたちのため、そして、孫と会うまでは元気でいたいという一心でした。


COPD患者が一番に取り組むべきは禁煙です。運動よりも薬よりも、食事よりも、禁煙が大切ですから、1日も早く禁煙を達成してほしいですね。禁煙に成功した人に共通するのは、「吸いたい」と思う気持ちをしばらく我慢すること。吸いたい時間を乗り切ると、欲求がかなり薄れます。その時間が少しずつ増えていき、最終的に「タバコは必要ない」というステージにたどり着きます。


遠山 COPDの症状が重くなると、カニューレという管を鼻に差し込んで、酸素吸入器をつねに携帯する必要があります。外出すると、人にジロジロ見られたり、何か言われたりすることが辛くて、家に閉じこもりがちになってしまう患者さんが日本にはとても多いのです。


ラッセル それはよくわかります。私も二度見されたりしますから。でも、見られたり、質問されたりすることがCOPDの理解や認知度向上につながると私はポジティブに考えています。誰かに話してみることで、ヒントにつながる情報や発見を得られるかもしれない。また、次に別の患者さんを街で見かけたら、サポートしてくれるかもしれない。オープンマインドであることで、自分の可能性がもっと広がると考えています。

ラッセル・ウィンウッドさんとJ-BREATH

夫婦二人三脚で、よりよい人生をつくっていく

 

遠山 私たちJ-BREATHでは患者さんのサポートはもちろん、患者さんを支える家族の皆さんも応援していきたいと考えています。奥さまのリアンさんは、ラッセルさんがフルマラソンなど過酷なスポーツに挑戦することをどう考えておられますか?


リアン ふだんのトレーニングはあまり心配していないのですが、レースの最中は、生きた心地がしません。東京のマラソンでは、レース終了時から気温が下がり、冷たい小雨が降り始めました。早く暖かくさせて、薬を飲ませたい一心でした。激しい運動後は、免疫力が急激に下がり、呼吸が悪化することがありますから、完走した日の夜もよく眠れません。でも、朝起きたら、彼が元気な様子だったのでとても安心しました。


吉田 リアンさんのサポートの力は大きいですね! 日常生活で気をつけていることはありますか?


リアン ふだんはラッセルのために特別なことはしていません。ごくふつうの夫婦として生活しています。ただ、呼吸のコンディションや体調変化にはとても気をつけていますね。少しでも咳をしたり、痰がからんだときは一気に悪化する予兆であることがあります。本人が気づく前に私が先に気づくことも多いですね。普段と違うことがあれば、主治医に連絡したり、ステロイドや抗生物質を飲ませたりすぐに行動します。


遠山 病気がわかったときは、お二人でどのようなことを話されたのでしょうか。


リアン じつは私たちは学生時代の友人同士で、離婚後にシングルになってから再会したのです。付き合い始めてほどなくして、ラッセルがCOPDと診断されました。ラッセルには「僕は先が長くないかもしれない。だから今別れてもいいんだ。そのことを君が申し訳なく思う必要はない」と言われました。でも、私は、これからの人生をラッセルとともに過ごしたいと決めました。


ラッセル 二人で話し合って決めたルールがあります。それはいたずらにCOPDに関する情報をネット検索しないことでした。当時、COPDに関して希望をもてる情報はほとんどなく、深く落ち込むことばかりでした。まるで『不思議の国のアリス』が暗くて深いウサギの穴に落ちたときのように、絶望的な気分になりました。だから、COPDの患者さんに希望を伝えたくて、私たちはCOPD ATHELETE を立ち上げたのです。


遠山 すばらしいですね。リアンさんがラッセルさんに惹かれつづけるお気持ちがよくわかります。


リアン
 彼は見た通り、とても純粋で善良な人なのです。自分が家族やまわりの人の役に立つことをいつも願っている人です。そして、自分で目標を決めてそれに向かって前向きに行動する姿を尊敬もしています。


ラッセル ありがとう。あと、歌がうまいこともぜひ付け加えてほしいね(笑)。

ラッセル・ウィンウッドさんとリアンさん

患者同士がつながる「世界COPDデー」に向けて

 

遠山 ラッセルさんがご活躍をされているのは、ご自身の努力はもちろん、リアンさんやご家族やお仲間の支えも大きかったと思いますが、オーストラリアにもCOPDの患者団体はあるのでしょうか。


ラッセル もちろんあります。Facebookなどオンラインが主体ですが。私はオーストラリア、アメリカの患者団体とつながっています。


吉田 患者さんの立場から、ラッセルさんが患者団体に期待することはどんなことでしょうか。


ラッセル 最新の治療法やリハビリテーションなど役立つ情報発信はぜひ知りたいと思います。オーストラリアでの団体では、運動によるリハビリテーションを推進していて、エクササイズレッスンなどもオンラインで発信されています。そうした機会の提供も大事ですね。


吉田 運動やリハビリの大切さは私たちも強く実感しています。日本では外来で受けられる病院がまだ少ないんです。外来で呼吸リハビリテーションを継続的に受けられるようになるのが私たちの願いです。呼吸リハビリテーションがもっと身近になるように、COPDの認知度を高め、運動の大切さを知らせていく活動が大切ですね。


遠山 私たちは「LUNG WALK」というイベントを毎年10月に開催しています。また、「いきいきお散歩ラリー」という企画もあり、世界COPDデー(2023年は11月15日)までの約1ヶ月間、各自が歩き、その合計距離で日本一周を成し遂げるイベントです。


ラッセル それはいいですね。海外からも参加できるのですか?


遠山 もちろんです! アプリで世界中どこからでも参加できるイベントです。


ラッセル ぜひ私も参加させてください! じつは私も今、世界COPDデーに向けて、世界中のCOPD患者さんが活用できるエクササイズチャレンジを予定しています。世界中の患者団体と共同して行うもので、すでに5、6カ国の団体が参加表明しています。J-BREATHさんともぜひつながって、世界のCOPDネットワークを一緒に広げていきたいですね。(取材・文/麻生泰子)

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