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10月は乳がんの正しい知識を広めるピンクリボン月間です。日本で本格化した2000年代から、乳がん検診の啓発や患者さん支援を続ける認定NPO法人J.POSHの平田以津子事務局長に話をうかがいました。

breast cancer awareness icon

乳腺外科医の思いから始まった、乳がん検診の啓発活動

 

2023年で21年目を迎える認定NPO法人J.POSH(ジャパン ピンクリボン オブ スマイル アンド ハピネス)は、私たち大阪府立四条畷高校の同級生6人で、2002年に設立したものです。乳腺外科医となった同級生(田中完児J.POSH理事長)が「乳がん啓発のための活動がしたいから手伝って欲しいと」言い出したのが始まりです。


田中は乳腺外科医ですが、お姉さんが乳がんで亡くなられています。産婦人科で検診を受けて、異常なしとの事でした。子供たちの受験などもあり、自分の事は後回しにしていて、体調を崩して田中のもとに来た時には乳がんがかなり進行していたそうです。せっかく検診に行ったのに、見落とされていたようでした。

 

当時は乳腺外科という科がまだなく、乳がん検診は外科で行っていましたが、女性の事だからと産婦人科に行く人は多かったようです。最近では、乳腺に力を入れている産婦人科医も増えてきましたが、当時は乳がん検診をどこで受ければよいのかの情報発信はあまりなかったように思います。検診の必要性も周知されておらず、今でこそ日本の乳がん検診率は47%*¹にようやく届きましたが、当時は17%程度*²でした。


乳がんは早期発見・早期治療すれば、ほとんどが治るがんです。乳がんの正しい知識や検診を普及させようと、1980年代のアメリカでピンクリボン運動が始まり、欧米ではかなり進んでいました。田中も1996年にイギリスに留学した際にピンクリボン運動を目の当たりにして、これは日本でも広めなければならないと乳腺外科医としての使命を感じたのかもしれません。


田中の熱意に触発されて、かつての同級生が知恵を出しあい、乳がんに関わる啓発活動をするNPO法人J.POSHを設立しました。以来、啓発リーフレットの制作・配布に始まり、ピンクリボン啓発イベントの参加、全国講演、患者さんや家族支援などさまざまな活動を展開していきました。

 

日本の女性の乳がん検診率が低い理由をJ.POSHで調査したところ、「検診に行く機会がない」「日曜など休日であれば受ける」などの回答が多く見られました。乳がん検診の推奨年齢は40歳以上ですが、この世代の女性は、子育てや家事、仕事で忙しい方が多いのです。そこで私たちは、2009年からジャパン・マンモグラフィ・サンデープログラム(JMS) と名付け、ピンクリボン月間である10月の第3日曜日に乳がん検診を実施してくれるように、医療機関に協力を求める活動を始めました。全国3,600の医療機関に手紙を出したところ、218の医療機関が賛同してくださり、現在は409件にまで増えています(2023年9月22日時点)。


JMSに参加されている医療機関の中では、子宮頸がん検診や骨密度検査などもメニューに加えて、女性のためのヘルスチェックデーにしてくれているところもあります。また、子連れでの検診もできるようにして、年1回のファミリーフェスティバル的な日にされている医療機関もあります。社会貢献の一環ととらえて取り組んでくださる医療機関が年々増えており、これからも継続して全国に広げていきたいと考えています。

認定NPO法人J.POSH平田以津子事務局長

患者さんと家族を支えるサポートを広げたい


私たちが乳がん検診の啓発活動を続ける中で、やらなければならないと強く感じたのは、患者さんやご家族をサポートすることでした。乳がん検診の啓発活動を続けていても、乳がんになってしまう人をゼロにできるわけではありません。病気になれば、ご本人も苦しい思いをしますし、治療や手術でお金も時間もかかります。また、お子さんやパートナーも、不安や心細さを抱えていらっしゃいます。そこで患者さんご家族を支援する「キッズファミリープログラム」「お父さんネットワーク」(いずれも現在は休止中)なども全国で展開してきました。


ある年、九州で実施したときに、娘さんが乳がんになり実家である我が家に戻ってきているという、ご高齢の男性が参加されました。ご本人は足が不自由だったのですが、娘さんの力になりたい一心で会場に来られました。そこで患者ご家族の皆さんと交流されて励まされたようすでした。


残念ながら、それから半年後に娘さんは亡くなられ、男性からお手紙をいただきました。娘さんは、小学生の二人のお嬢さんにメモ書きを遺されていました。「ママはあなたたちを産んでとても幸せでした。人を思いやる優しい心だけは忘れないでください。おじいちゃんおばあちゃんにお願いしているので、困ったことがあればなんでも相談してください」というような内容で、最後は「高校、しゅうしょく」という言葉で途切れていました。


子どもたちの進学や将来のことを考えたとき、お母さんはどんなお気持ちだっただろうかと胸が痛みました。高齢のご両親に子供たちを託す辛さ、誰が子どもたちの成長を支えてくれるのだろうか、と無念だったにちがいないと思いました。このお手紙の内容を読み、私たちに何ができるだろうかと話し合った結果、「J.POSH奨学金まなび」をスタートすることにしました。これは保護者が乳がんで亡くなられた、あるいは闘病中の保護者をもつお子さんに返済不要の奨学金を支給するもので、2009年から今日まで続いています。支給金額は年間12万円と十分とはいえませんが、卒業時にはお子さんから「クラブ活動が続けられました」「修学旅行に参加できてよかった」「受験の費用にしました」などとお礼とご報告を兼ねたお手紙を毎年いただいています。


最近は30代の若い方の乳がんも増えています。私が子どもを育てたときは、両親が近くに住み、また隣近所の助け合いがあって何度も助けられたものでした。でも、都会で暮らす娘のもとを訪ねると、隣近所のお付き合いもなく、表札もないので、隣家の苗字すら知らないのです。実家から遠く離れて、働きながら子どもを育てる現代のママの大変さをひしひしと実感しました。これでもし、お母さんが病気になってしまったら、どれだけ大変だろうと思った時に創設したのが「シッターサポートプログラム」です。


お母さんが病院に行っている間、お子さんを預けるシッター代を補助するプログラムです。抗がん剤は一般的には3〜6ヶ月間おこなうことが多いので、6か月間にわたって月1万円(一括で6万円)支給します。離れたご両親に来てもらって交通費を渡すなどいろんなパターンがあるので領収書は不要、治療が長引いた場合は再申請可能と、利用しやすさを第一にしました。


こうした支援プログラムの申請や支給のやりとりはメールで行うことが多いのですが、「治療費用も高く、シッター費用もかさむので、治療をあきらめようかと思っていたけど、応援してもらえたので頑張ろうと思いました」「あたたかいメールをいただいて、涙が出るほどうれしかった」とお返事をいただけることが多く、こうして喜んで前向きになってくださる方がいることが、私たちが活動を続ける大きな力となっているのです。

乳がんになっても「大丈夫だよ」といえる社会を

 

J.POSHの活動費用は、すべて寄付金でまかなわれています。年間2,000円をいただく個人サポーターもいらっしゃれば、オフィシャルサポーターとなってくださっている全国約90社の企業もあります。企業の方からは年間12万円の登録料をいただいていますが、このほかに社員の方が自主的に社内イベントを開催して寄付金を送ってくださることもあります。奥さまが乳がんで亡くなられて、受け取った保険金をそのまま寄付してくださった男性もおられました。また、篤志家の方から、どうぞ役立てくださいとご寄付をいただいたこともありました。


こうして皆さんから届けられた善意が、乳がんになってしまった方やそのお子さん、ご家族を支援する力になっているのです。私たちは皆さんから預かった善意の心を、一人でも多くの方にお届けることを考えて、実行しているにすぎません。理事メンバーのほかにも、大阪の事務局で働いてくれている2人の女性スタッフ、そして活動当初から「自分も何か力になりたい」と協力してくれている東京在住の乳がんサバイバーのメンバーもいます。彼女は妹さんを乳がんで亡くしていますが、妹が乳がんになった事で、自分も検診を受け、乳がんが見つかったという事もあり、妹がくれた命のようなものだから、妹の分まで元気に生きなければという思いが強いようです。今は、J.POSHの一員として、いろいろ尽力してくれています。彼女がいることで、患者さんの気持ちにもよりいっそう寄り添えるし、患者さんにとっても大きな希望になるのではないかと思います。


乳がんで苦しい思いをする人を一人でも減らしていくために、乳がん検診の大切さを伝えていくことが私たちの活動の柱です。そのためには、すべての女性にブレスト・アウェアネス(乳房を意識する生活習慣)を心がけていただくことが大切だと私たちは考えています。

 

※ブレスト・アウェアネスとは乳房を意識する生活習慣 (厚生労働省、乳がん学会が推奨)

①自分の乳房の状態を知る。

②乳房の変化に気をつける。

③変化に気づいたらすぐ医師に相談する。

④40才になったら、2年に一度は乳がん検診を受ける。


私の友人も、J.POSHの活動を始めたときから関心をもってくれて、彼女は当時から、自分で乳房をチェックすることを習慣にしていました。ある日、しこりのようなものを見つけて、産婦人科に子宮がん検診に行くついでに、乳がん検診も受け、エコー(超音波)検査を頼んだのですが、触診だけで終わり、異常なしと言われました。それでも、気になって田中理事長に診察してもらった結果、ごく小さなしこりが見つかったのです。乳がんだとわかったときは複雑な気持ちだったと思いますが、「見つけてくれてありがとう」という気持ちだったと彼女は言っていました。そして、ごく初期のがんだったので日帰り手術で済み、今もとても元気に過ごしています。

乳がんの早期発見・早期治療には、マンモグラフィやエコーによる検診はもちろん、自分自身で行うセルフチェックも大切なのです。それこそがブレスト・アウェアネス~乳房を意識する生活習慣です。(取材・文 / 麻生泰子)

乳がん早期発見に役立つセルフチェック

【2023年ピンクリボン月間のJ.POSHの活動】

J.POSHで展開するピンクリボン温泉ネットワーク

は、乳がんの手術をされた方にも温泉を楽しんでいただける環境づくりに取り組む、全国の温泉施設のネットワークです。傷跡をカバーする専用入浴着の販売、入浴着歓迎のポスター・ステッカーの普及などに努めています。


2023年のピンクリボン月間には、「家族で湯ったりキャンペーン」として全国23軒の温泉旅館さんに協賛いただき、乳がん手術をされた患者さんとそのご家族を温泉旅行にご招待(2023年11月11日が応募締切)。詳細はホームページをご確認ください。

 

――フィリップス・ジャパンでは10月のピンクリボン月間に合わせて、社内イベントとして乳がんを経験した方やその家族の経験を聞くなどの乳がんの啓発イベントを開催して、検診の促進や正しい知識を得る活動を行っています。このような活発な啓発イベントを通じて意識を高めることが検診率の高さにもつながり、フィリップス・ジャパンの女性社員の乳がん検診率は89.1%(2021年度実績)に達しています。


「2030年までに年間25億人の生活を向上させる」というパーパスを掲げるフィリップス――その実現のためには、健康の意識を高め正しい知識を持つことが大切です。

今、日本女性の9人に1人が乳がんにかかるといわれています*³。私たちにできることは、ブレスト・アウェアネスを啓発し、乳がんの早期発見・早期治療を普及させて、乳がんを「治るがん」にしていくことです。そして、たとえ乳がんになったとしても正しい知識を持って適切なサポートをすることで共に生きる社会をつくっていきたいと考えています。

 

*1 「令和4年 国民生活基礎調査」厚生労働省

*2 「平成13年 国民生活基礎調査」厚生労働省

*3 「がんの統計2022」国立研究開発法人国立がん研究センター

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