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病気とたたかう子どもに寄り添い、応援するNPO法人「シャイン・オン・キッズ」のファシリティドッグ・プログラム。国内で初導入した静岡県立こども病院では、スタッフの評価が導入の決め手でした。

facility dog program icon

子どもたちの心を支えるファシリティドッグ

 

静岡県立こども病院では、医療チームの一員としてゴールデン・レトリーバーのファシリティドッグ(タイ・4歳)が活躍しています。タイとペアを組むのはハンドラーの谷口めぐみさん。毎日ふたりで病棟をめぐり、入院生活を送っている子どもたちに会いに行きます。


「入院中の子どもたちに遊んでもらうこともあれば、病棟の医師や看護師から『明日手術がある小児がんの患者さんに付き添ってほしい』『リハビリしたがらない子を励ましてあげてほしい』などと依頼を受けて病室に顔を出すこともあります。


病室にタイが入ってきた途端、子どもたちの顔がパッと明るくなって、目が輝きだします。タイと私は常勤しているので、子どもたちが『タイに会いたい!』と言えばすぐに駆けつけるし、長期入院しているお子さんとはお友だちみたいに仲良しになります。『タイが来てくれるなら、検査がんばる』と言ってくれる子もいて、タイが心の支えになってくれているんだなと感じます。


子どもたちにとって、お外で遊んだり、家族や友達と自由に会えない入院生活は、辛く、寂しく感じることも多いかと思います。大人ですら耐えがたい検査や病気の苦痛を小さな身体で必死に耐えています。親御さんや看護師が励ましたり、言い聞かせたりしても、辛いものは辛い、イヤなものはイヤ、と気持ちを切り替えられないこともあります。そんなとき、タイは子どもたちの心にスッと入って『タイとなら、手術室に行けるかも』『タイと一緒に歩けるようになりたい』と、前向きな気持ちに変えてくれる力があるのです」


ある日、タイと谷口さんに応援要請が来たのは、心臓カテーテル検査を怖がる子どもの病室からでした。以前の検査で辛い思いをしたのか、看護師や医師がいくら諭しても手術室に行きたくないと言うのです。


「タイが尻尾を振りながら病室に入った瞬間、泣いてぐずっていた子がニコニコの笑顔になって。『タイちゃんと一緒に手術室までお散歩しようよ』と声をかけたら、自分で立ち上がって歩き出したのです。タイのリードも一緒に持ってもらうとご機嫌になって『いってきます』と手を振って手術室に入っていきました。


イヤがる子どもを無理に連れていくこともできますが、それは子どもの心に辛く悲しい記憶を刻むことになります。でも、タイが付き添ってくれたことで、自分の足で手術室に入っていくことができた。きっとその経験は、そのお子さんの自信につながり、その後の人生にもきっといい影響を与えてくれるのではないかと思うのです」

静岡県立こども病院

人に共感し、人に寄り添う「犬」という伴侶動物

 

タイと一緒に病棟をめぐるハンドラーの谷口さんは、赤十字病院などで10年にわたって看護師としてキャリアを積んできました。子どもの頃から動物が大好きで、「鳥さんとお話できたらなあ」と夢見るような女の子でした。7歳の誕生日から柴犬を飼い始めて以来、きょうだいのように一緒に育ってきました。


高校卒業後は、動物と人をつなぐ仕事がしたいと動物介在療法を学びましたが、その知識を活かせる職業は少なく、介護士を経て看護師の資格を取得しました。ハンドラーとなってからは、これまでの看護師の知識を活かして、子どもたちの病状や治療に合わせて、タイと二人三脚で動物介在療法に取り組んでいます。


「これまで看護師として婦人科、神経内科の入院病棟や救急外来などさまざま診療科で働いてきましたが、痛みに苦しむ患者さんや死に直面している患者さんに私はどれだけ寄り添えているのだろうか、もっとできることがあるのではないか、と思うこともありました。そんなとき、ドキュメンタリー番組で、病院で重病の子どもたちの心のケアをするファシリティドッグの存在を知ったのです」


谷口さんは、日本に初めてファシリティドッグ・プログラムを導入し普及に取り組むNPO法人「シャイン・オン・キッズ」の門を叩きました。ちょうどその頃、静岡県立こども病院で2代目のヨギ(当時10歳)とハンドラーが引退する時期で、2021年から谷口さんとタイが3代目を務めることになったのです。


「タイと一緒にいると、あらためて犬は人間の良きパートナーなんだと実感します。もともと犬は何万年にわたり人間とともに暮らしてきた動物ですが、人に愛されたい、人に喜ばれたい、一緒に過ごしたいという思いから、コミュニケーション能力を身につけるような進化もしたそうです」


とりわけファシリティドッグに選ばれる犬は、人懐っこい性格の子が選ばれ、愛情をたっぷり注がれながら、かつ幼犬のうちからさまざまな人と接するなど、体系的なトレーニングを受けて育てられるといいます。


「タイもそうですが、ファシリティドッグは無条件に人間が好きで、人と関わるのが大好きなんです。人工呼吸器を装着していたり、抗がん剤で髪の毛が抜けていたり、どんな状態のお子さんにも、タイは変わらぬ愛情で接してくれる。自分のありのままを受け入れてくれるという子どもたちの安心感は大きいのではないかと思います」


谷口さんとタイは、普段の生活も共にしています。親子のような関係であり、同僚でもあり、友人でもあります。病院で働いた後は、谷口さんとめいっぱいボール遊びをしてから帰路につきます。


「タイにとってボール遊びは“仕事後の1杯のビール”みたいですね。週末は朝から川に泳ぎに行くほど元気です。でも、月曜の朝に病院の青いベストを着ると、お仕事モードになって早く病院に行こう!と私をぐいぐい引っ張ってくれます。タイのオン・オフの切替は見習いたいぐらい見事ですね」

タイとハンドラー・谷口めぐみさん

その子らしく笑顔で過ごせる時間を大切にしたい

 

病気と闘う子どもたちと日々触れ合い、笑顔や勇気を届けているタイ。子どもたちの状況や自分の役割をタイはどのぐらい理解しているのでしょうか。


「ハンドラーである私の気持ちに同調するので、ここはお子さんを応援するところ、そっと寄り添うところという自分の役割はわかっているのではないかと思います。以前、私とタイが出会った小児がんの患者さんで、病気が進行して抗がん剤も放射線治療も効かず、終末期を迎えたお子さんがいました。


ある日、医療用麻薬が効かないほどの激痛で一睡もできず苦しんでいるお子さんに、いつもその子にしてあげていたようにタイがベッドに上がり添い寝をしたんです。お子さんは、タイの温かい体にぴったり寄り添って、上下するお腹に手を当てました。そのうち痛みが少し和らいだようでウトウトしはじめ、タイと一緒に眠ることができました。


病気による痛みだけでなく、おそらくお子さんは家族から離れて病室で過ごす寂しさと病気への不安で、より痛みを感じやすい状態だったんだと思います。タイが寄り添ったことで安心して、痛みをしばし忘れることができたのかもしれません」


お子さんが昏睡状態になってからも、タイと谷口さんは病室を訪ねて『そばにいるよ』というメッセージを送り続けました。それから数日後にお空に旅立ってしまいましたが、病室を去る前にタイが添い寝して、タイとその子との思い出をご家族と振り返りながら、お別れの時間を過ごしました。


「そのお子さんやご家族にとって、病院での日々は辛いことが多かったかもしれません。でも、タイと過ごしたときは笑顔になり、本来のその子らしい姿を見せてくれたと思います。


患者さんやご家族が、その人らしく、そのご家族らしく過ごす時間を大切に尊重してあげることも、私たちの役割なのだとタイとの活動を通じて学びました」

ファシリティドッグ・タイ

スタッフの評価により、国内初の導入が実現

 

現在、国内でファシリティドッグ・プログラムを導入している医療機関は、タイと谷口さんが活躍する静岡県立こども病院、神奈川県立こども医療センター、東京都立小児総合医療センター、国立成育医療研究センターの4施設です。


2010年に国内で初めて導入した静岡県立こども病院では、導入前は賛否両論が沸き起こりました。議論の末、「子どもたちのためになるなら試してみよう」と1週間のトライアルが実施されました。トライアル後、正式に導入となった決め手は、実際にベイリーを見た現場スタッフの評価でした。


ファシリティドッグとは「特定の施設で職員の一員として活動する、専門的な育成を受けた犬」という意味があり、発祥のアメリカでは病院のみならず、裁判所での被虐待児の精神的サポート、退役軍人施設でのPTSDの緩和などに貢献しています。日本では、海外で育成されたファシリティドッグが活躍してきましたが、谷口さんの所属するNPO法人「シャイン・オン・キッズ」では、タイの世代から国内育成事業が始まっています。


日常生活と切り離された病棟という場所で、谷口さんとタイは「その子に会いに行く」ことを目的に子どもたちの病室を訪ねます。入院生活の中で、日常に近いふれあいや交流ができる時間を過ごすこと。それは子どもたちにとって、病気に負けない希望や勇気を与えてくれる、かけがえのない大切なひとときなのです。ファシリティドッグの活躍は「医療に大切なもの」「人が生きていくうえで大切なもの」を私たちに教えてくれているようです。(取材・文/麻生泰子)

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