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高齢者の医療課題を抱える青森市が選んだ解決策は“ヘルステックによるまちづくり”でした。高齢者が安心して地域で暮らせる〈予防・早期発見・みまもり〉を実現した最新のソリューションに迫ります。

aomori healthcare

超高齢化・医療過疎に、日本はどう向き合うか?

 

現在、日本人の約3人に1人が65歳以上で、高齢化率は世界最高に達し、今後も上昇を続けると予測されます*1,2。さらに人口減少で医療過疎となる地域も年々増えており、経験したことのない社会・人口構造にどう対処していくか――日本の対応に世界の注目が集まっています。

 

フィリップス・ジャパンでは、これまで地域の課題に合った独自のプロジェクトに取り組んできました。たとえば、長野県伊那市では、ヘルスケアモビリティによるオンライン診療で医療過疎の課題解決につながるソリューションを提供しました。また、大阪府吹田市・摂津市では、駅前エリアに「SOSボタン」を設置して急病者の位置やAED設置場所を周囲の人のスマートフォンに通知するネットワークを構築し、まち全体を“救命チーム”にするHeart Safe Cityを実現しました。

 

これらのフィリップスが核となる健康まちづくり事業は、“地域密着・地域課題解決型”であることが最大の特徴です。自治体と手を結び、医療機関や地元企業、市民、大学などで構成されるコンソーシアムを発足し、地域の人たちとのディスカッションや調査やデータ分析などを行いながら、地域の健康課題を抽出します。さらに、その課題に合わせて、医療機関や企業と連携し、新たなヘルステックを地域に根づかせていく、まったく新しい医療ソリューションを展開しているのです。

青森市健康まちづくり事業

地域の医療課題をヘルステックで解決する青森市の挑戦

 

こうしたフィリップスの活動として、2020年度から3年間の実証事業で、青森市との「健康まちづくり事業」がスタートしました。東北地方は日本の中でも高齢化が進んでおり、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の割合も高く、健康課題を多く抱えています。とりわけ青森県は47都道府県で平均寿命が最下位*3。その原因としては、高血圧や糖尿病など生活習慣病の管理が十分行われていないことや、不適切な食生活や運動不足、さらに医療機関への受診の遅れや専門医不足、あるいは医師の偏在などによる診断の遅れなどがあると青森県は分析しています。*4

 

さらに県庁所在地である青森市の高齢化率は32.3%(2020年)で、同年全国平均(28.8%)を上回り、2044年には高齢化率は44.6%に達すると予測されています。市が独自に行なった調査では高齢者の42.7%が認知機能低下のリスク該当者という結果が出ています。*5

 

青森の未来をより良い方向に導いていくために、青森市は“ヘルステックによるまちづくり”への取り組みを始めました。青森市は北東北における交通・行政・経済・文化の拠点都市として古くから栄えてきた歴史があります。今後はヘルステックテクノロジーを地域や家庭にまで浸透させて、高齢者が自立して暮らし、社会参加できる“健康長寿のまち”として、東北地方から日本をリードしていくことを目指しているのです。

青森市での取り組み意義

地域を巡る「ヘルスケアモビリティ」で予防につなげる

 

青森市が始める“ヘルステックによるまちづくり”とは、いったいどのようなものなのでしょうか。市では2020年度から、フィリップスと協働して浪岡地区においてヘルスケアモビリティ×IoTによるヘルスケア改革の実証を行なってきました。

 

「モビリティを活用した予防サービス」では、フィリップスの手がけるヘルスケアモビリティが青森市内を巡回しました。ヘルスケアモビリティとは、各種の検査機器やモニターを搭載し、車内で受診や検査ができる移動式車両。看護師、保健師や管理栄養士などが同乗した車両が地域や個人宅を訪問し、車内でオンライン診療、検査、健康指導などを受けることができます。

 

浪岡地区では、保健師や管理栄養士が乗ったヘルスケアモビリティが公民館や商業施設を巡回。高齢者や働き盛り世代の方を対象に簡易ヘルスチェックと予防プログラムを実施しました。血圧や血糖値などの検査に加え、野菜摂取量を推計できる皮膚のカロテノイド量測定や認知機能チェックができるとあって、300人を超える人たちが利用しました。

 

多角的なヘルスチェックでは、浪岡地区の受診者は、高血圧やフレイル(加齢で運動や認知の機能が低下した状態。健康と要介護の中間)、野菜不足に該当する人が約7割に達するという驚きの結果が判明しました。さらに80歳以上で自分の歯を20本以上保っている「8020」の割合が26%(全国平均は51%)と、オーラルフレイルが進んでいることがわかりました。

 

浪岡地区は、以前から健診未受診者が多いことが課題でした。病院から遠い地域に住む人や、病院や健診に行かない人も、ヘルスケアモビリティの巡回があれば、家のすぐ近くで健康指導を受け、病気やフレイルになる前に生活習慣の改善を図ることができます。

モビリティを活用した予防サービス

24時間体制のみまもりで、高齢者の健康と暮らしを守る

 

「IoTを活用したみまもりサービス」としては、浪岡地区の一人暮らしのお年寄りや訪問看護利用者の方の24時間みまもりで在宅生活をサポートするシステムの導入を行いました。利用者宅には、トイレ、ベッドなどにIoTセンサー、家電利用状況がわかる電力センサー、緊急時に顔を見て対話ができるテレビ電話などを設置しました。各センサーのデータは青森市立浪岡病院にある「あおもりヘルステックセンター」に送られ、2名のみまもり看護師が訪問看護ステーションと連携して24時間365日モニタリングしています。

 

利用者の方が、起床するたびに、トイレに行くたびに、IoTセンサーがログを取ります。いつもの起床時間を過ぎても起きない、家電の利用がないなど“異常“を感知すると、ヘルステックセンターの看護師は、テレビ電話で呼びかけたり、最寄りの訪問看護ステーションや利用者家族と連絡をとる、救急車を呼ぶなどして対応を行います。

 

みまもりサービスを利用した人への事前のアンケート調査では、55%の人が「一人のときに不安を感じることがある」と回答していました。不安になるタイミングは「転んだとき(43%)」「自然災害が発生したとき(29%)「体調が悪くなったとき(21%)」を挙げており、一人では非常時の対応ができないことへの懸念が大きいことがわかりました。実際にみまもりサービスを受けた後、よかった点として「遠隔のみまもり(33%)」「24時間体制(28%)」「みまもり看護師の対応(17%)」を挙げており、生活の中に“見守ってくれる存在”が果たす役割は大きいことがわかりました。

IoTを活用したみまもりサービス

みまもりデータ活用で「認知機能低下の早期発見」につなぐ

 

青森市では「ヘルステックを核とした健康まちづくり事業」を2020年度から約2年間にわたって実施してきました。3年目となる2022年度はエナジーゲートウェイによる電力センサーがさらに進化を遂げ、認知機能低下を早期発見できる新IoTサービスが始まりました。

 

認知機能が低下してくると、IH調理器、電子レンジやエアコンなどの使用時間が短くなる傾向があることがわかっています。その点に着目して、電子レンジや洗濯機など日常的に使用する家電の使用状況を常時モニタリングし、アルゴリズム解析で予測を立てることで、認知機能低下の予兆を感知できるのです。

 

認知機能低下(MCI)とは、記憶力や注意力が低下した状態で、認知症の前段階ともされています。MCIから認知症に進行する確率は1年で10%、5年で40%です。つまり、早期にMCIを発見し、生活習慣の改善やトレーニングにつなげることで、近い将来の認知症を予防できる可能性が高まるのです。

「予防・早期発見・みまもり」が高齢者支援のカギ

 

青森市における「ヘルステックを核とした健康まちづくり事業」では、「予防」と「見守り」を実現し、さらに「早期発見」につなげる、高齢者に向けた包括的支援が確立されつつあります。プロジェクトに参加した青森市立浪岡病院事務局 地域医療連携チームは、今回のモビリティやみまもりサービスの成果について次のように述べています。

 

「モビリティ巡回は、簡単かつ短時間で健康や栄養の状態がわかり、利用者の満足度が大きかったようです。また、IoTを用いたみまもりサービスは、24時間体制の見守りで利用者の方の安心が高まり、ご家族や介護従事者の負担も軽減されたとの声も届いています。すでに複数回ご参加いただいている方や次回の参加を希望する声も増えており、サービスを通じて一つのコミュニティが形成されていると実感しています。

 

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、青森市の人口は2040年には約20万人に減少し、約9万人が65歳以上の高齢者になることが見込まれています。そのときにはモビリティサービスやIoT機器によるサービスが確立され、高齢者が住み慣れた地域で安心して自立した暮らしができ、生きがいをもって社会参加できる環境をつくっていけたらと考えています。本プロジェクトがそのモデルとなっていくことを期待します」

 

青森市では、今回のフィリップスとの健康まちづくり事業で確立した〈予防・早期発見・みまもり〉の支援を2023年度以降の健康寿命延伸事業につなげ、市の福祉部や保健部、浪岡病院事務局の地域医療連携チームが連携しながらサービスを自走させるべく取り組んでいきます。

 

超高齢化や医療過疎化という日本が抱える社会課題に、モビリティやIoTの活用で解決の糸口を見いだした青森市の健康まちづくり事業。青森市ではこのヘルスケア改革を起点に、市民の健康増進や地域活性化を実現し、すべての人が生きがいをもって社会参加できるまちを目指していきます。(取材・文/麻生泰子)

ヘルステックを核とした健康まちづくりプロジェクト/青森市 (city.aomori.aomori.jp)

 

ヘルステックを核とした健康まちづくりプロジェクト (ahtc.aomori.jp)

 

*1 総務省統計局「人口推計」2021年9月15日

*2 World Population Prospects:The2019 Revision(United Nations)

*3 『平成27年都道府県別生命表の概況』(厚生労働省)

*4 『健康あおもり21(第2次)改訂版』(青森県)

*5 『青森市高齢者福祉・介護保険事業計画 第8期計画(令和3年度〜令和5年度)』(青森市)

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