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一人では何もできない“弱いロボット”が私たちに教えてくれることは? 豊橋技術科学大学ICD-LABの世界に例を見ないユニークなロボット開発から、イノベーションのヒントを探ります。

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寄せ集めから生まれるイノベーションが面白い

 

一人ではゴミ拾いのできない〈ゴミ箱ロボット〉、ストーリーをときどき忘れてしまう昔ばなしロボット〈トーキング・ボーンズ〉、モジモジオドオドしてなかなかティッシュを配れない〈iBones〉――豊橋技術科学大学ICD-LABのロボットたちは、ちょっぴり頼りない“弱い”ロボットたちです。ロボットと聞いて連想するのは、作業や計算を完璧にこなす有能な人工知能が搭載されたマシン。でも、“弱いロボット”たちはどこか不完全で、「なんだか気になる」「助けてあげたい」という感情を湧き上がらせます。そして、私たちから思いやりやおせっかいの行動を引き出し、ロボットと人間の間に“持ちつ持たれつ”の関係を生み出してしまう、不思議なソーシャルロボットなのです。

 

こんな奇想天外でイノベーティブなロボットを生み出すICD-LABでは、さぞかし型にはまらない自由な発想が行き交い、さまざまな技術を駆使して面白いロボット研究開発に励んでいるのではと想像します。ラボを率いる岡田美智男教授によれば、“弱いロボット”は限られた技術や予算の中で生み出された、ブリコラージュの賜物だと語ります。ブリコラージュとは、ありあわせでつくること。「繕う」「ごまかす」を意味するフランス語
bricolerが語源になっています。

 

「皆さんが仕事をするときと同様で、僕らがロボットをつくろうとするときも、部品や機能などの技術的な制約はもちろん、時間的・予算的な制約はつねにつきまといます。でも、それは開発の障壁になるかというと、必ずしもそうではありません。むしろお金がない、部品がない、技術が足りないという悩ましい状況の方が、新しいものは生まれやすいと僕は考えているんです。

 

たとえば、料理をつくるとき、レシピどおりに材料を揃えて忠実につくれば、間違いなくおいしい料理ができあがるでしょう。でも、それは予定調和の味でしかなく、そこには新たな発見もイノベーションも生まれません。しかし、材料が足りない、調理道具が足りないという困った状況となれば、材料や道具で工夫を凝らします。もちろん失敗するリスクは上がりますが、食べたことのない味、思いがけない味わいに出会う確率も高まるのです。

 

現代科学は、課題や目標を明確に設定して、いかに早く効率的にそこにたどり着けるかを競いますが、僕は競争はあまりしたくありません(笑)。むしろ寄り道をしながら、あり合わせでどうにかこうにかしながら、そこで出会う発見や発想にこそ、イノベーションのヒントが隠されているのではないかと思うのです」

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お掃除ロボットがヒットした意外な理由

 

岡田先生によれば、2000年代初頭に登場した「お掃除ロボット」は、まさにブリコラージュ的な発想から生まれたもので、それゆえに商業的にも成功したロボットだったと指摘します。

 

「初期のお掃除ロボットは、直線方向にしか動けないものでした。まっすぐ動いて、部屋の壁に突き当たると方向転換してまた進む。モノを避けて動くことができないために、人間は床を片付けたり、電気コードを束ねたりと、かいがいしくお掃除ロボットの仕事環境を整えてあげる必要がありました。周囲の環境を利用し、人間の協力をちゃっかり引き出していくという、したたかな生存戦略をもつロボットだったのです」

 

ロボットとしては、まだちょっと不完全――だからこそ結果的に、お掃除ロボットは多くの家庭に受け入れられて、広く普及したのだと岡田先生は考えます。

 

「私たち、自分がどんな状況かをつねに相手に示しながらコミュニケーションしています。たとえば、僕が話を始めると、聞く人はうなずいたり、首を傾げたりするでしょう。自分は理解している、理解してないと自己開示している。それを見て、私は話すペースや内容を変えたりするわけです。そこには双方向のコミュニケーションが生まれています。一方、ロボットや機械は決められたプログラムにしたがって作業を完遂するので、そこにはコミュニケーションが生まれる余地も必要もありません。でも、お掃除ロボットは不完全ゆえに、人間の手助けなしにお掃除ができない。そこに人間の関わる余地が生まれた。人とロボットの関係性を作り出すことに初めて成功した例ともいえるのです」

 

ロボット開発では、より高性能で、より完璧で精緻なものを目指していきます。しかし、人間の生活に溶け込めるロボットを開発するには、ICD-LABが取り組む“弱いロボット”開発のような、人間との双方向な関係をつくれるテクノロジーの“余白”があることがカギとなっていくのかもしません。

豊橋技術科学大学・岡田美智男教授

テクノロジーの余白に、創造性や喜びが生まれる

 

現代のテクノロジーは、利便性や効率性をひたすら追い求めて発展してきました。しかし、岡田先生は「とにかく便利なものを作りたい」という発想は、その周辺にある価値や可能性を見落としてしまう “工学的呪縛”になりかねないと考えています。

 

「目の前の課題を解決するために、それに合う理論を探し、理想的な設計と部品を用いて解決策を提案する。それがエンジニアリングの基本となっています。でも、これだけを正解とするのは、優秀な人材を集めて研究開発費を投じればイノベーションが生まれると信じ込むのに近い、閉ざされた思考になりかねないと私は考えています。

 

むしろ日本の高度経済成長を牽引した戦後のものづくりは、まさにブリコラージュの連続でした。物がない、お金がない、技術がない中で、あるものを工夫して組み合わせて、数々の輝かしいイノベーションを生み出していたのです」

 

その例として、本田技研工業の原点であり、終戦直後の大衆の足として大ヒットした補助エンジン付き自転車(通称バタバタ)は、陸軍払下げの発電用エンジンや湯たんぽを借用した燃料タンクを自転車に取り付けるというありあわせの発想からでした。ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈博士は、研究設備が乏しい中で半導体の混合率を間違えたことがきっかけとなって、エサキダイオードを生み出しました。

 

「最近、生卵を落とせる凹みがある即席ラーメンがありますよね。その凹みは卵を落としてもいいのですが、チーズやネギをのせたり、大根おろしや鰹節を乗っけてアレンジしてもいい。ネット上で、いろんな人が自分のアレンジレシピを披露して、ワイワイ盛り上がっています。

 

これからも、さまざまなテクノロジーが生まれて私たちの生活はますます便利になっていくのだと思いますが、このラーメンの凹みのように、すべて用意されていない、人間が関わる余地がある部分が残されることも大切なのだと思います。そこに、私たちは幸せや自律性を感じることができるのですから」

 

豊橋技術科学大学ICD-LABで日夜研究に励む学生や院生たちは、必ずしも優等生タイプではないと岡田先生は言います。その代わり、プログラミングが得意だったり、デザインに長けていたり、何かしら自分の得意や好きをもっている、まさにブリコラージュ的に人を寄せ集めたラボだと岡田教授は話します。

 

「これから彼らが社会に出て、ものづくりを支えていく一人ひとりになります。すべてを持っている必要はない。ありあわせの工夫を重ねて、ときには寄り道を楽しみながら、本質的な人間の幸せにつながるイノベーションを生み出していってほしいと思いますね」

 

不足や不便があるからこそ、イノベーションは生まれる。この世界がすべて用意された完璧な世界ではないからこそ、私たち人間は自由なイマジネーションや遊び心を発揮して、新たなものを生み出す喜びを味わうことができるのかもしれません。(取材・文/麻生泰子)

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