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話題の著書『未来は予測するものではなく想像するものである』で〈SF思考〉を用いたイノベーションを説く樋口恭介氏。フィリップス・ジャパン堤浩幸社長と、未来を創り出す思考について語り合いました。

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医療が“快適で楽しいものになる”未来へ

 

――フィリップスのヘルスケアモビリティ「医療MaaS」で、病院に行かずに診療や検査を受けられる革新的な医療サービスが始まっています。フィリップスはグローバルで「2030年までに25億人をより健やかにする」というパーパスを掲げています。これから目指す未来について教えてください。


 私たちが描く2030年は、医療を“いつでもどこでも”ユビキタスな存在にすることです。実現するのは、医療が暮らしに溶け込み、楽しみですらある世界です。将来的なイメージとしては、糖尿病の患者さんが通勤中に医療MaaSの中で音楽を聴きながら定期検査や医師からのアドバイスを受けたり、腎疾患の患者さんが車内で透析を受けながら郊外へ旅立つ――そんな医療の未来を創ろうとしています。


樋口 これからの医療の目指す方向として、僕はすごく共感を覚えますね。ちょうど今日、健康診断を受けてきたのですが、自分の体が工場のラインに乗った製品のように扱われる感覚で、非常にユーザー体験に乏しいと思いました。検査や治療って体験として全く面白くなくて、受け手からすると、健康を守るためにやらないといけないとはわかっていても、感情レベルでのインセンティブが湧かないんですよね。そうした現状を省みると、医療を生活の一部に取りこんでしまう発想はとてもいいと思います。


――SF映画や小説の世界で描かれるような、スマートな未来ですよね。


樋口 8年後の未来として、技術的に実現可能な世界だと思いますね。ニーズもすこぶる高い。あとは法規制や医療の常識をどう超えられるか。医療の世界には、医療機関はじめ、行政や医師の業界団体などさまざまなステークホルダーが存在します。現実的な話として、それらをいかに巻き込んでいけるかがカギだと思います。


 現在、稼働している医療MaaSも、業界を超えたエコシステムを構築し、さらには自治体や医療機関を巻き込んで生まれたものです。今後はさらに国や省庁、業界団体を動かす大胆な巻き込む力が必要になってきますね。

作家・樋口恭介氏

ぶっとんだ未来を思い描く〈SF思考〉の力

 

――樋口氏は著書『未来は予測するものではなく想像するものである』で、新たな世界や革新的なテクノロジーを紡ぎ出すにはぶっとんだ未来を思い描く〈SF思考〉が必要で、そこから生まれる架空の物語=〈SFプロトタイピング〉が現実を変えていく原動力になると説いています。未来を変えるには「こうありたい」「こういう世界をつくりたい」という明確なパーパスが大切なのですね。


 人類が願い、医療が追求してきた究極のパーパスは「ずっと健康で生きる」ことです。永遠のテーマでもあるのですが、そこに少しでも肉薄できるシステムを構築したいと私たちは考えています。医療機器の中に、人間が押し込められる時代はいずれ終わるかもしれない。これからはセンサリング技術で、いつでもどこでも自分の体がモニタリングされて、病気になる前に適切なアドバイスが受けられる。医療の世界にもメタバースは実現するはずだと私は考えています。


樋口 SFの世界ではそれに近い世界がすでに描かれています。グレッグ・イーガンの『万物理論』(1995年)では、体内の細菌バランスを整えるナノボット(人工ウイルス)が体内を駆け巡り、無自覚のうちに排泄などの生理機能がコントロールされて、健康が維持されている登場人物が描かれています。日本の作品だと、伊藤計劃の『ハーモニー』(2007年)でも、血液中をWatchMeと呼ばれるアプリケーションを内蔵したナノボットが巡って健康がコントロールされています。そこでは、たとえばタバコを吸うなど体に悪いことをすると、自分の体からアラートが発せられるわけです。


自分の体がシステムに管理される世界がはたしてユートピアか、ディストピアかは、それぞれの作品で異なる視点で描かれています。僕なんかは病院には極力行きたくないタイプですから、個人データ管理やセキュリティを担保する仕組みが整備されているのであれば、ナノボットを体に入れて体内環境の最適化を図ってもらいたいし、なんなら自分で医療行為ができたり、遺伝子編集をDIYでできるSFの世界に対して肯定的な立場です。でも、世の中には病院に行くと、ホッと安心する人たちもいるかもしれない。人間の医者や、そこで出会う他の患者たちと会話を交わすことが救いになっている人はきっといるでしょう。だったら、そういう選択肢も残しておかなければいけない。重要なのは、単一の未来ではなく、複数の未来の可能性を確保するということです。単一の環境、単一の生き方を強制するようなテクノロジーの利用ではなく、自己決定権を最重視したシステムを構築していけば、イーガンや伊藤が描いたテクノロジーが現実のものとなりつつも、それらの作品世界とはまた別の世界を選べるはずです。SF思考とはそういうものだと思います。SF思考やSFプロトタイピングは、欲しい未来を選び取るための手段になりうるのです。


 フィリップスの社員に「SFと聞いてイメージするのは?」という四択アンケートをとったのですが、一番が「科学」、続いて「妄想」が多く、次に「娯楽」「虚構」の順でした。それぞれのとらえ方が面白いと思いますが、やっぱり私たちは「娯楽」の部分は忘れちゃいけないと思うんです。ワクワクする、楽しいという感覚をつねに大事にしてほしいと思います。それが希望ある医療の未来にもつながっていくと思います。

フィリップス・ジャパン堤浩幸社長

人間のもつ想像力を武器に、医療の未来をつくっていく

 

 樋口さんはご著書でSFプロトタイピングの手法として、現存の技術を組み合わせて未来をつくる〈フォアキャスティング・アプローチ〉、未来を構想してから技術を選び、創り出す〈バックキャスティグ・アプローチ〉を説いていました。医療の世界でイノベーションを起こしていくうえでは、どちらのアプローチが最適なのか? 直接お聞きしたいと思っていました。


樋口 フォアキャスティングが“現実ドリブン”だとしたら、バックキャスティングは“妄想ドリブン”のアプローチです。フォアキャスティングは現存する技術を集めるので、実現可能性は高いものの、イノベーティブなものは生み出しにくい。一方、バックキャスティングは、実現可能性は比較的低いのですが、実現できれば世界を一変させるようなイノベーションを起こせるのです。フィリップスでは「2030年までに25億人をより健やかにする」という明確なパーパスを掲げています。技術先行ではなく未来志向のスタンスなので、バックキャスティングのアプローチが不可欠だと思います。


 私たちが将来のあるべき姿を思考して、現実世界を変えていくアプローチですね。障壁もたくさんありますが、まずは脇に置いて、思考を自由に広げることが大切ですね。


樋口  “戦略”とはそうあるべきだと思います。でも、まだ見ぬ未来を現実化するプロセスを考えるのは容易ではありません。そこで〈SFプロトタイピング〉で、実際のSF小説のように架空のストーリーを紡いでみる。そうすると、必要な技術や課題が等身大で“見える化”されてくるのです。


医療でいえば、さきほど申し上げたようにステークホルダーを巻き込んでいけるが重要になってくると思います。その中心核となるのが、フィリップスという企業体です。うまく巻き込んでいくためには、未来志向で挑戦的な会社であるとともに、社員一人ひとりの働き方にもかかってきます。組織としてヴィジョンを達成するためのメカニズムを作り、構造的に動かすということが大事だと思います。


 私は社員に成功しろとは言わないのです。なぜなら、今の時代はやるリスクに比べ、やらないリスクははるかに大きいのです。失敗したら悩むのではなく、すぐアクションをとることが大事。そこでまた失敗してもいい。方向性さえ間違わなければ、いつかかならず成功にたどりつくはずです。


樋口 失敗を恐れない姿勢は、イノベーションには不可欠ですよね。多くの社員は、失敗するか成功するかの瀬戸際で自分のキャリアを危険にさらす働き方だと、ブレない判断軸をもつことが難しくなります。そこで、たとえばグーグルでは社員の働き方に「20%ルール」を掲げています。これは仕事の80%を利益が確保できる業務に割り当て、残り20%を将来大きなチャンスになるかもしれないプロジェクトの探索や取り組みに使うというルールです。


さきほどSFのイメージに〈科学・妄想・娯楽・虚構〉という要素を挙げられていましたが、これはまさにSFの構成要素ですよね。一つの案ですが、一日の20%の時間を、社員がそれぞれに思うSFの構成要素を選び、それに基づく研究時間にするといった取組みをしてみるというのは面白いと思います。「自分は妄想中心で新規プロジェクトを考える」「自分は科学と虚構で未来都市を構想する」「自分は娯楽100%でエンタメ要素を加える」などと、自分の強みや志向にしたがって〈SF思考〉を少しずつでも実践できれば、これからフィリップスで面白い事業が始まっていくのではないかと思います。


 未来は、私たち一人ひとりが夢想する先に創られていくということですね。フィリップスの130年の歴史はイノベーションの連続でした。現在もフィリップス・ジャパンのR&D投資は高い割合で推移し、イノベーションのDNAをしっかり引き継き、挑戦しつづけています。


〈SF思考〉とは、私は未来のあるべき姿に向かって挑戦していくことだと考えています。しかも、その未来やプロセスは、自分たちが楽しめるものでなければ意味がない。人間のもつ想像力を武器に、この時代を自分たちがどう進むか――あらためて大きなヒントをいただきました。ヘルステックカンパニーとして医療の未来を創っていく、これからのフィリップスに大いにご期待いただければと思います。


*2月15日にフィリップス社員向けに配信された対談を一部まとめたものです。(取材・文/麻生泰子)

 

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