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「時間はみんなに平等に与えられる」は間違いだった⁉︎ 実験心理学を専門とする一川誠教授(千葉大学)が、年齢や環境、状況で変わる“時間感覚のからくり”を科学的に明かし、大人の時間術を紹介します。

time management hero

加齢による代謝の低下が、時間を短く感じさせる⁉︎

 

「毎日があっというまに過ぎていく」「1年が終わるのが早い」――大人になると、時間の流れの早さを実感する人は少なくないようです。しかし、時計は今も昔も変わらず、同じペースで1秒を刻んでいます。時間が早く過ぎる、あるいはゆっくり流れると感じる感覚は、一体どこからやってくるのでしょうか?

 

「光や音は感覚器官で知覚することができますが、時間を感じる感覚器官はありません。そのため、私たちは、太陽光の変化や移動の距離、体験の数、感情、空間など複数の感覚を組み合わせて、時の流れを押し測っているのです。私たちが感じることができるのは、あくまで“主観的な時間”。それゆえに個人差があるし、状況や環境によって感じ方が異なってくるのです」

 

物理的な時間は一定ペースで進んでいきますが、その感じ方は千差万別というわけですね。では、大人になると時間が早く過ぎるように感じられるのは、なぜなのでしょうか。

 

「複数の理由があると考えられますが,特に影響の大きな3つの要因があります。一つは加齢による〈代謝の低下〉です。子どもは代謝が活発で、体温も高い。歳をとると、代謝が落ちて体温も低くなってきます。ゼンマイ仕掛けの時計を想像してみると、わかりやすいかもしれません。子どものときは、ゼンマイがくるくると早く回るけど、大人になるほどゆっくりしたペースになる。たとえば、これまでの1分が30秒ぐらいになって、相対的に時間が短く感じられるというわけです。

 

この代謝による時間経過の変化を、私たちは毎日感じています。朝の時間はあっというまに過ぎると思いませんか? 起床時は代謝が低く体温も低いために、代謝が高まる昼に比べ、時間が早く過ぎるように感じるのです」

 

一川先生によれば、季節によっても時間感覚は変化するといいます。たとえば、冬は気温が下がって、代謝も低下しやすいため、夏より時間が早く過ぎていくように感じられます。12月を「師走」と呼ぶのは、年の瀬であるだけでなく、季節による時間感覚の変化も関係しているのかもしれません。

太陽光の変化などで時の流れを感じる

新たな体験と未来への期待が、今の時間を豊かにする

 

「時間を短く感じさせる次の要因は〈体験の数〉です。体験や認知の数が多いほど時間は長く感じられます。子ども時代は、初めて遭遇するできごとが多くあります。食事シーンを思い浮かべると一目瞭然ですね。好物をいつ食べようかと迷ったり、スパゲッティで遊んだり、牛乳をこぼしたりと、いろんなできごとや感情を体験します。しかし、大人は慣れきったルーティンと化し、ただ黙々と食べることも多くなる。食事が“ひとまとまりの単調なできごと”になってしまいます。


“ひとまとまりの単調なできごと”になると、時間は早く過ぎるように感じられます。極端な話、大人の場合、1日が『仕事する』という “ひとまとまりの単調なできごと”になることもあるかもしれません。こうなると、まさに『光陰矢の如し』で、人生はハイスピードで過ぎ去っていきます」


新鮮な体験や感情の高まりが少ないと、時間は早く過ぎるように感じるのですね。


「3つめの要因は〈時間経過への注意〉です。子どものとき、カレンダーや時計を繰り返しながめては、未来のイベントや行事を待ちわびた経験はありませんか。子どもは,そのイベントまでの日数を指折り数えて待ち遠しく感じられるようなことが多いものです。時間経過に注意が向く回数が多いほど、時間は長く感じられるのです」


なぜ、大人は時間が早く過ぎるように感じるのか?――その問いの答えは、身体の代謝低下に加え、新しい体験の不足、さらには未来への期待感が低下していることが要因として考えられるのです。

子どもの頃は期待感から時間が長く感じる

“主体的に楽しむ”大人の時間術を身につけよう

 

大人になるほど早く過ぎるように感じる時間感覚のからくり――これを変える方法はあるのでしょうか?


「有効な方法は、体験の数を意識的に増やすことです。新しい体験は、時間を長く充実したものに感じさせます。たとえば、毎日が同じ仕事の繰り返しだったとしても、帰りの電車で本を読む、違うルートで帰る、公園やカフェに寄ってみるなど、新しい体験を組み込むと、1日が“ひとまとまりの単調なできごと”から、特別な1日に変わります」


子どもの頃は、周囲の大人たちが日々の楽しみや行事を用意してくれていました。大人になったら、自分で自分を楽しませる時間をつくることが大切なのですね。


「“豊かな時間を過ごした”という記憶が、人生の充実感にもつながります。ただ、記憶はすぐ消えたり、歪められてしまうもの。だから、写真を撮ってSNSにアップしたり、日記を書いたり、あるいは俳句にしたりして形に残すのがおすすめです。その時間が可視化されて、あとで思い起こす記憶の呼び水にもなります」


こうした〈体験の記録〉は、仕事でも応用できると一川先生は話します。


「時間を有効に使おうと、前もってスケジュールをみっちり埋めるのは逆効果です。時計と予定に駆り立てられて、『やたら忙しかった』『予定に追われて1日が過ぎた』という記憶しか残らないことが多いのです。未来の予定はほどほどにして、その日に成し遂げた成果、反省などを書き込んでいく〈体験の記録〉型のスケジュール帳の使い方が、1日の充実感や達成感につながりやすいと思います」


1日の成果や反省が目に見える形に残れば、自分の頑張りや次の目標も明確になりますね。


「もし退屈な会議に辟易したら、あえて積極的に発言してみるというのもいいと思います。目の前のことに主体的に関わると、体験や認知されることがらの数が倍増します。スポーツ選手がよく言う、ボールがスローモーションで見えるというのは、その最たるもの。ものごとに主体的に取り組むと、見えるものが多くなる。そのぶん時間は濃く、充実したものになるのです。

自分らしい睡眠スタイルを身につける

自分らしい睡眠スタイルが人生時間を豊かにする

 

1日の時間の使い方に思いをはせると、そもそも私たちは約3分の1を「睡眠」に費やしています。この睡眠タイムが、1日を充実させるうえで重要な役割を担っていると一川先生は話します。


「睡眠の時間と質が不十分だと、疲れやすかったり、ボーッとして時間を有意義に過ごすことが難しくなります。たとえば、1日を有効に過ごそうと朝活に励む人もいますが、つらい思いをして早朝に起床したり、日中に眠気に襲われるようならば本末転倒かもしれません。睡眠不足が続けば、パフォーマンス低下、肥満,生活習慣病のリスクの上昇、メンタルの不調にもつながります。時間を充実させるには、睡眠の充実は不可欠です。


人類には共通して、日の出とともに起きて日没とともに眠るサーカディアンリズム(体内時計)が備わっていると考えられていましたが、一部の人はサーカディアンリズムが遺伝的に夜型にセットされていて、昼型の生活に合わせるのは困難であることがわかっています。最近の研究では個人差が大きく、早寝早起きだけが理想的な睡眠スタイルではないことが明らかになっているのです」


最適な睡眠時間やタイミングは、人それぞれに異なる――そう考えると、睡眠は“常識”にしばられる必要はなく、自分が快適と感じるものが正解ということですね。睡眠研究の成果や快適な睡眠をつくるデバイスや環境づくりが広まることで、多様な睡眠スタイルを確立できる時代が来るのかもしれません。


「私は学生時代からショートスリーパーで、深夜に寝て早朝に起きるという睡眠スタイルが自然と習慣化しています。いい睡眠は、目覚めの感覚でわかります。朝になると自然と目覚める、日中元気に活動できるという身体感覚にしたがうのが、その人にとってのいい睡眠につながると思います」


人生の時間を充実させるには、主体的に楽しみ、自分のベストな睡眠を追求すること。「今日も楽しかった!」という満足とともに眠りに就き、1日の期待とともに目覚める時間の過ごし方を目指したいですね。(取材・文/麻生泰子)

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