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心肺停止後の1ヶ月生存率が全国40位の山形県。市民の救急救命活動で命を守りあう社会をつくるために山形大学医学部川前金幸教授が立ち上げた「SOSやまがたコンソーシアム」に注目が集まっています。

aed yamagata consortium asset

心肺停止の6〜7割は自宅で発生している

 

山形県は、心肺停止で倒れた人の1カ月生存率は5年前まで全国40位、社会復帰率は全国39位と低迷していました*1。県の現状を変えようと立ち上がったのが、山形大学医学部副医学部長の川前金幸教授を中心とする「SOSやまがたコンソーシアム」です。医療、救急、行政、民間が参加する“オール山形”で、地域の救命率向上を目指していく全国的にも新しい試みです。


SOSやまがたコンソーシアム公式サイト【リンク:https://sosyamagata.com/】では「芋煮会中に人が倒れたら!?編」「自宅で人が倒れたら!?編」と題してAEDを使った救急救命動画が公開されています。山形ならではのシチュエーションですね。


「山形県民の大切な楽しみである芋煮会、そして、三世帯のつながりが高い県なので孫が遊びに来ているおじいちゃんの家を現場にしました。伝統的な山形県民の暮らしが舞台ですが、ここには新たなITテクノロジーが登場します。それは『MySOS』という無料の救命・健康サポートアプリ。居合わせた人がスマホでアプリを立ち上げてSOSボタンを押すと、圏内エリアにいるMySOS登録者のスマホにアラートが届き、倒れた場所とAEDがある場所が地図上で表示されるという画期的なシステムです。


心肺停止を疑い、応援を呼ぶ(119番通報含む)。AEDを持ってきてもらい、心肺蘇生を始める――これらの初期動作が社会復帰率をあげるポイントとなります。AEDを3〜5分以内に確保できることが理想ですが、MySOSでエリア内にいる人がAEDを持って駆けつけてくれることをイメージしています。


命を守るために居合わせた人はどう行動すればいいのか、この動画では「悪い例」「良い例」でわかりやすく示されています。


「とくに注目してほしいのは『死戦期呼吸』のシーンです。心肺停止時に起こる、口をパクパクしてあえぐような動作を死戦期呼吸といいます。酸素を体に取り込めず、もがいている状態ですが、初めて遭遇する人は呼吸があると勘違いして、AEDや胸骨マッサージが遅れてしまうことがあります。動画では山形大学医学部附属病院の救急部部長である中根教授が監修して『死戦期呼吸』を再現していますから、ぜひご覧いただきたいですね」


「自宅で人が倒れたら!?編」では、就寝中のおじいちゃんが急変し、おばあちゃんやお孫さんが慌てる様子がリアルでした。山形県内では、心肺停止で救急搬送される人の数は年間約1,500人で、そのうち6割近くが自宅で起きています(全国平均では7割)*2。駅や学校などAEDが身近にあるエリアと異なり、家だとAEDがすぐ近くにないことが多いですよね。


「心肺停止は、自宅で起こるリスクが最も高いのです。とくに狭心症や心筋症、心筋梗塞などの既往歴がある方、ペースメーカーを使われている方、不整脈などで循環器内科や心臓内科に通っている患者さんは、自宅に置けるコンパクトなHOME AEDがあるといいですね。ご家族もAEDを使った心肺蘇生法を学んでおくと、安心だと思います」


各家庭に住宅用消火器が置かれるようになったように、自宅にも家庭用のAEDの備えが普及すれば、万が一のときに家族や身近な人の命を守れる安心が高まるのですね。

山形県民を“本気”にさせる、教育×IT救急救命改革

 

心肺停止時は、1分経過するごとに生存率が10%下がり、10分を経過すると命を救える確率は0%まで近づきます*3。一方、救急車の到着時間は全国平均で8.7分*4。人口密度の低い地域や交通アクセスの悪い僻地ではもっと遅くなることも予測されます。


「心肺停止時は時間との戦いで、医療と救急の力だけでは命を救えないケースが多くあります。助かるはずの命を救うには、どうしたらいいのか? それには社会が変わる必要があるのです。誰もがAEDを使った心肺蘇生法ができる社会になれば、救命率は確実に向上するのです」


県の心肺停止者の救命率や社会復帰率が、全国平均を大きく下回っている要因についてはどうお考えですか。


「県民性を考えると、山形県民は控えめで奥ゆかしい。それに保守的なところもある。つまり、でしゃばることを嫌い、新しいことをすぐに取り入れるのが慎重な傾向にあります。一方で、社会が比較的同質で団結力があるので、同じ目標を共有すれば、高い団結力を発揮できます。教育や啓発活動しだいで、飛躍的に向上する可能性を秘めていると思います。


一方、地域的な事情としては、人口密度が高い地域と比較して医療機関の数が少ないことが挙げられます。その点、地方は都会と比べてどうしても不利になりがちです。ただし、今の時代は、My SOSのようなITテクノロジーも登場している。こうした技術を活用すれば地域的なデメリットもかなり解消できるのです」


“教育とIT”で救急救命をより身近にしていけば、県民の命はもっと救える――こうした川前教授の思いから、「SOSやまがたコンソーシアム」の活動はスタートしたのです。

山形大学医学部川前金幸教授

人の命を助けられるのは、医師や救命士だけではない

 

SOSやまがたコンソーシアムでは、AED救急救命の動画配信に続き、次は山形大学の学生向けにAED救命講習会を実施していくことを計画しています。


「大学生は活動範囲が広いから、彼らがAEDを使った心肺蘇生法をマスターすれば、それだけで地域の安心につながります。また、救命講習を受けた学生を“講師”に育てて、企業などを対象に講習会を開催するネットワークを築いていきたいですね。ティーチング・イズ・ラーニング(教えることは、学ぶことである)で、誰かに教え伝えていくことで、自分自身の理解や自覚も高まるのです」


川前教授は、山形大学医学部で救急救命講座を開設し、救急救命医療の向上に大きく貢献されてきました。先生が救急救命をご専門にされたきっかけは?


「私は“なんでも治せる医者になりたい”と思って医療の道を選びました。救急救命の現場では、あらゆる病気や怪我に対応できる医学の知識と技術が求められ、患者さんが最も差し迫って医療を必要とします。いちばん困っている患者さんを助ける仕事ができたらと思ったんですね。


救急救命の現場では、残念ながらすべての患者さんを助けられるわけではありません。そのなかでも、患者さんが一命をとりとめ、元気になっていく姿を見ることができたときは感無量としかいいようがありません。その役割を担えるのは、医療従事者だけではありません。心肺停止を疑う。応援を呼ぶ(119番通報含む)。AEDを持ってきてもらう。胸骨圧迫を始める。心肺蘇生を始める―“救命の連鎖”をよりは早く起動させることができたら、誰もが人の命を助けることができる可能性があります」


おたがいの命を守り合える社会をつくるのが「SOSやまがたコンソーシアム」の目標なのですね。でも、助けたい気持ちはあっても、身近な人が倒れたら気が動転してしまうかもと感じる人もいるかもしれません。


「それを変えていくのが教育の力です。AED救命講習を体験したり、動画を見たり、くり返し学ぶことで、誰もが命を助ける行動が起こせるようになると安心してください。その勇気ある行動を支えてくれるのが、AEDやMySOSのようなテクノロジーです。教育とITを充実させると同時に、AEDの適正配置、医療機関の連携、自治体との体制づくりも進め、山形県の救命率を日本一にまで引き上げていきたいと考えています」


「SOSやまがたコンソーシアム」の取り組みは、人口減少や僻地を抱える地域の医療事情に希望をもたらすモデルとなるかもしれません。教育やITは、世の中の可能性を大きく引き出す力を秘めているのです。(取材・文/麻生泰子)

出典

*1 山形県ホームページより(「救急・救助の現況」の平成23年~27年の統計)

*2、4 「令和2年版救急・救助の現況」(総務省消防庁)

*3 「平成30年版消防白書」(総務省消防庁)

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