図1 小倉記念病院外観
施設によっては、血管撮影室が埋まってしまいハイブリッド手術室しか緊急対応できない場合があるかもしれませんが、当院は頭腹部用の血管撮影装置でフィリップスが2台導入されています。そのため、血管内治療だけで終われる症例でハイブリッド手術室を使うことはありません。1Fの血管撮影室は救急エリアとの動線が良く、麻酔科医もすぐに対応してくれますので、基本的には血管内治療は血管撮影室のバイプレーンシステムで治療するという方針にしています。3Fの手術エリアには脳神経外科専用の手術室が1室あり、外科手術だけの場合はその部屋を使用しています。加えて緊急時に脳神経外科用に空いている手術室がもう1つ別で確保されており、とても恵まれた環境で診療や手術が実施できている状況です。同じ手術エリアにあるハイブリッド手術室(図3)は脳神経外科以外に循環器内科や心臓外科も使用しており、とても稼働率が高く毎日どこかの診療科が手技を行っています。脳神経外科で使用しているハイブリッド手術室の枠は隔週に1回で、ハイブリッド手術が必要な症例の際に使用しています。
図3 新設されたハイブリッド手術室
ハイブリッド手術室で行うのは外科手術と血管内治療を行うハイブリッド治療です。ハイブリッド治療で最も多く、有効性を感じているのは脳動脈瘤の治療です。開頭手術あるいは血管内治療のいずれか単独では治療が困難な症例や、ハイブリッド治療を選択することでより低侵襲に治療ができる症例が適応になります。その他にも安全・確実性を高めるために術中に血管撮影を行い状況を把握したい症例や、頸動脈直接穿刺により血管内治療を行う必要がある症例でも使用しています。
ハイブリッド手術が必要になる症例として大型脳動脈瘤でドームから重要分枝が出ているような症例を多く経験します。まずドームからの分枝血管にバイパス手術を行った後に動脈瘤を血管内治療で塞栓します。
以前ハイブリッド手術室が整備されていなかったときは、できるだけ外科手術と血管内治療のインターバルをあけて実施していました。バイパス手術と血管内手術の間隔に関しては、さまざまな要素を勘案して決める必要があります。バイパス手術後の確実な止血を考えれば2週間程度の間隔をあける必要があります。しかし、待機中に動脈瘤が破裂した症例を経験しました。一方で短い間隔で血管内治療を行う場合には血管内治療の際に使用するヘパリンや抗血小板剤の影響で開頭術後出血の危険性があります。この合併症に関しても3日のインターバルで治療を行った症例で硬膜下血腫を生じた症例を経験しました。新しいハイブリッド手術室では、外科手術と血管内治療を同日に実施しています。一期的に2つの治療を行うことで待機中の出血の危険性がなくなります。実際には、バイパス手術を行った後、開頭したままの状態で血管内手術を行い、血管内治療後に閉頭しています。血管内手術では、ヘパリンや抗血小板剤を使用するため、創部にある程度の出血を認めますが、開頭した状態では脳への影響はありません。血管内治療が終了後にしっかりと止血を行い閉頭することで出血性の合併症を防ぐことができます。
開頭手術の際に3Dロードマップ(図4)が可能となり、3Dロードマップ下で動脈瘤の位置、バイパスを要する血管の位置、必要な開頭範囲や皮膚切開をシミュレーションすることができます。さらに選択的血管造影(図5)やICG選択的動注撮影(図6)を行うことでバイパスを要する血管が脳表で正確に同定できるようになりました。従来は脳溝を剥離開放し動脈瘤を露出して、動脈瘤近傍の血管やバイパス血管を確認し、トラッピング術やバイパス手術を行っていましたが、ハイブリッド手術室の血管撮影装置を活用することで、最小かつ適切な皮膚切開、開頭、硬膜切開で、脳溝を剥離開放することなく動脈瘤を見ずにバイパス手術や血管内治療による動脈瘤のトラッピングを行うことができ、非常に低侵襲な治療が可能となりました。
図4 開頭手術時の3Dロードマップ
図5 選択的血管造
図6 ICG選択的動注撮
最近、外視鏡を使えるようになりハイブリッド手術室でも活用しています。透視中は血管撮影装置が術野の上にあるため、顕微鏡で術野を観察することができません。しかし、外視鏡は焦点距離が長く、血管撮影装置との位置や角度を工夫すれば、大画 面モニタ上で外視鏡による術野の拡大画像と血管撮影装置に よる透視画像を同時に見ながら手術を進めることができます(図7、8)。外視鏡と血管内治療のハイブリッド手術は、頸動脈を直接穿刺して血管内治療を行う症例では、非常に有用です。
図7 外視鏡と血管撮影装置を同時に設置するレイアウト
図8 大画面モニタに透視画像と術野画像を同時に表示
頸動脈を直接穿刺する症例では、IV-DSA*が非常に有用です。以前は超音波装置や他部位を穿刺してカテーテルを誘導して血管撮影を行い、穿刺部位を決定していました。IV-DSA (図9)であれば、他部位の穿刺やカテーテル誘導の必要がなく、大動脈分岐部や頸動脈分岐部などの位置が正確に同定でき、IV-DSAのロードマップ(図10)を用いることで、適切な穿刺部、切開部の決定が可能です。我々は、施設の特性で大動脈解離が頸動脈に進展した解離病変の治療を行う機会がありますが、IV-DSAにより解離の進展も把握した上でロードマップ 下で穿刺部を決定しています。
図9 IV-DSA
図10 IV-DSAによるロードマップ
*IV-DSA:静脈から造影剤を流してDSA撮影する手法
FlexArmの動きに関しては放射線技師の方が全体を見て工夫して動かしてくれているためあまり意識したことがありません。開頭手術の際には血管撮影装置を部屋の隅に大きく退避させ、必要な際に術野に持ってくるという運用です。術者、助手、看護師、麻酔科医の適切で快適なポジショニングを動かすことなく開いているスペースから症例に応じて、さまざまな方向からCアームを挿入できるため、さまざまな体位で頭部を3点ピン固定している状態でも不便なく血管内手術を行うことが可能です(図11)。
図11 腹臥位ポジションでの回転撮影
側面からのアーム挿入により頭側スペースを確保したまま回転撮影が可能
「血管内治療“だけ”行う」のであればもちろんバイプレーンが良いと思います。しかし、開頭手術時には大きく退避でき、必要なときには顕微鏡やその他の機械に干渉することなくさまざまな方向から入れることができ高精細の撮影や血管内治療を充分に行うことができる機動性を考えると、ハイブリッド手術室としては今までの使用経験からはシングルプレーンがベターではないかと考えています。
ハイブリッド手術室の稼働率に余裕があれば、ハイブリッド手術を必要としない脳動脈瘤など血管障害の顕微鏡手術をハイブ リッド手術室で施行します。顕微鏡手術を行う上で脳神経外科の手術室で専用の手術台を使用して手術を行う場合と比べ全く遜色なく手術を快適に行うことができます。そればかりか術中、術後に必要となった際にいつでも血管撮影を行うことができるメリットがあります。
血管撮影装置としてもシングルプレーンであることを除けば血管撮影室と同等の検査と治療が可能です。施設の実情に合わせ緊急の血管内治療や検査が血管撮影室で対応できなければハイブリッド手術室で行うことができます。
当然、手術は、装備や脳神経外科医師のみでは施行できません。 麻酔科や看護師、臨床工学技士などの協力が不可欠です。ハイブリッド手術室においては、特に放射線技師の方の協力が不可欠です。“こんなことはできないか?”という当科からの希望に最大に応えてくれるだけではなく、放射線技師サイドからは“こんなこともできる”という提案を積極的にしてくれて、相乗効果で有効な使用方法が拡大しています。
一番期待するのは手術台との連動です。ハイブリッド手術室では万能手術台を使用して腹臥位や仰臥位で実施していますが、現在はアームの位置とベッドの位置をそれぞれ記憶して元に戻すという作業をしています。どちらもボタン1つで元の位置に戻るとより便利だろうと思っています。顕微鏡手術が快適な体位ででき、かつ同じ状態で血管内治療ができると理想的ですが、そういったことに今のフィリップスの装置は近づいてきていると感じています。
図12 ハイブリッド手術を各専門分野からサポートする多職種チーム
Azurion-小倉記念病院 導入事例