福井県立病院
救命救急センター 医長 瀬良 誠 先生
タブレットエコーは、通常検査室などで使用しているハイエンド機やHand-carried機の超音波診断装置と比べて、軽量で低コストですが、低画質・低機能といったデメリットを感じている方々も多いと思います。今回は、このタブレットエコーのマイナスのイメージを一気に払拭できる内容になっていると思っております。
2022年に日本救急医学会より、日本初のPOCUS診療指針が出ております。これは救急科専門医のPOCUSの到達目標となっており、必要時に実施できる主項目(表1)と、今後重要性が高まる付加項目(表2)があります。こちらの診療指針の項目に沿ってさまざまな病態を見ていきたいと思います。
表1、2:日本救急医学会「 救急point-of-care 超音波診療の指針」
1歳6か月のお子さんが主訴肩関節脱臼で救命救急センターに来院されました。よくこの主訴で来院されますが、この年齢で肩関節脱臼とは考えにくく、手や腕を動かすことができない状態でしたので病歴から肘内障を疑い、整復しております。整復後の評価として研修医の先生の中には、腕を前後に動かすだけの確認をしている場合もあるようですが、本当はものを掴む動作ができるかどうかが重要になります。また、整復後に痛みを主張する患者様もいますので、エコーなら客観的に整復されていることを確認できます。これもエコーのよい部分といえます。肘内障では、回外筋が関節内に入り込んでいるJサインが重要なエコー所見となります。また、健側との比較をすることも治療の成果を確認するポイントになります(図1)。
末梢静脈路確保が難しい場合のエコー使用時のポイントをお話しします。まず、エコーで深さ1 cmより浅い血管を探します。エビデンスでは、1.6 cmを超えると成功率が0 %になる報告(図2-1)や血管の深さが1.2 cmを超えると点滴の維持率が12時間で50 %以下になってしまうという報告があります(図2-2)。また、血管径も関係しており、血管径が5 mmを超えたら成功率が高くなります(図2-1)。ただ、末梢静脈路の確保が難しい患者様は血管径が小さいことが多いです。そのほかに考慮すべきこととして、穿刺針の長さがあります。私は22 Gを使用することが多いのですが、針の長さが25 mmで血管の中に1 cm留置すると考えても、深さ1 cmまでの血管がターゲットの限界となります。
図2-1:血管の深さと直径におけるUSガイド下静脈注射の成功率(*¹)
図2-2:点滴保持率と時間の関係(*²)
深部静脈血栓(図3)の確認は、カラードプラや圧迫の方法があります。圧迫による確認だけでも感度96.5 %、特異度96.8 %となる報告(*³)がありますので、私は基本的に圧迫だけで確認することが多いです。どのくらい圧迫すべきかと質問をよくいただくのですが、並走する動脈を半分になるくらい圧迫しても対象の静脈がつぶれない場合を血栓ありと評価します。どの血管を見ていくかという点では、総大腿静脈と膝窩静脈の2-pointで見ていくことが多いと思います。それは、2-pointで確認することが3-pointで確認する場合と同等レベルの感度、また、特異度があるだけでなく、DVT発生率もwhole-leg(検査室で行うような全ての血管を確認する方法)と大きな差がないからで(*⁴*⁵)。それでも2-pointですと見落としする可能性がありますので、私の場合は各pointの前後5 cmくらいの血管を見るようにしています。つまり、2-areaで見るようにすると見落としが少なくなると考えています。DVTの実臨床では、Wellsクライテリア≦4+D-dimer陰性にエコーを追加することで、偽陰性が1.9 %から約半分の0.8 %以下になるという報告(*⁶)もありますので、是非この3つでDVTを考えてみることがよいと思っています。また心エコーを行い、右室負荷所見を認めて肺塞栓症を疑う際に、近位下肢のDVTを確認できれば特異度96 %と非常に高いため自信を持って造影CTをすることができます(*⁷)。
呼吸困難の診断精度でエコーが関わる役割について見ていきます。気胸に関しては、エコーでの診断よりもCTを含む標準的診療の方が感度は高いですが、急性冠症候群・肺炎・胸水・心嚢液では、エコーを使っても使わなくても診断精度はそれほど変わらないという報告があります(*⁸)。しかし、これらのクリティカルな疾患は、診断までの時間 が非常に重要であり、エコーを使用すると診断時間が24±10分で、標準的診療の186±72分に比べて圧倒的に短時間で診断できるという報告もあります(*⁸)。さらに院内急変の患者様ではエコーを活用した場合、診断までの時間が短縮でき、標準的診療で加療されるより死亡率が低いという結果に繋がっているとの報告(*⁹)があります。この点 からもエコーを実施することは非常に重要だといえます(図4)。
皆さんは、心不全についてどのように診断されていますでしょうか。病歴・身体所見・心電図・胸部レントゲンでの評価では心不全の44 %は診断がはっきりしないという報告があります。その点を注意するためにも、エコー検査が重要になります。心不全のエコー所見の中には肺エコーのB-lineがあります。前胸部にエコーを当てて垂直方向に出現するアーチファクトをB-lineといいます。B-lineが出るとき、肺は「Wet」状態にあるといえ、心不全や肺炎などを疑います。私は、心エコーも同時に実施することが多いのでセクタプローブで実施しています。B-lineの数は、1肋間に3本以上見えていると異常所見としてカウントします。しかし、実際に検査をしてみるとB-lineは何本あるのかわかりにくいことがあります。その点、LumifyではB-lineのAutoカウント機能(図5)が付いていますので非常に便利です。特に治療効果の判定で時系列変化を見ていくのには、非常に有用だと思います。そのほか、胸水貯留、EF≦40 %、IVC>2 cm+虚脱率<50 %の条件を満たすと特異度97.6 %(*¹⁰)と非常に高いので、心不全を疑う際には、これらの項目を活用していただきたいです(*¹¹)。
エビデンスはまだ少ないですが、私は心肺停止の原因検索や自己心拍再開予測の目安、リズムの確認などにエコーの有用性を感じ、積極的にエコーを使用しています。心停止(蘇生)エコーの確認所見としては、4つ覚えておくと臨床で役立つと思います。忘れやすいので、私は頭文字をとってSACsと覚えています。これは主に心臓の周りを観察します(図6)。その中でも、蘇生可能な原因を探していくことが大切になります。特に、モニタ波形が出るが脈が触れない無脈性電気活動(PEA)のときには、4H&4Tの鑑別が必要になります(図7)。その中でも循環血液量減少、心タンポナーデ、緊張性気胸、血栓症(特に肺血栓塞栓症)の鑑別がエコーの役割として重要です。
図6: 心停止(蘇生)
エコー確認所見
図7:4H&4T(*¹²)
気管挿管は、救急外来で頻繁に実施する確実な気道確保になります。そのため気管挿管後に食道挿管となっていないことを確認することが特に大切です。確認する際に聴診器や食道検知器、EtCO2モニタで確認することがあると思いますが、これらの特異度は高いものの感度はさほど高いとはいえません(図8)。特に心肺蘇生患者に対してはさらに感度が低下するという結果が出ています。そのため私は、エコーが重要だと思っています。エコーでは、リアルタイムで挿管チューブが気管内に留置されることを見ることができますし、確認自体は17秒でできるといわれていますが、私の経験上、慣れてしまえば10秒以内で実施できると思います(*¹⁴)。さらにエコー以外のデバイスではたとえ食道挿管されていたとしても換気をしないと確認することができませんがエコーではその必要もありません。
主要項目の中の腹部について、今回は割愛しました。理由としては、皆さん腹部は見慣れておられると思いますし、どの超音波機器を使ってもそれなりに見ることができるからです。それ以外の部分でLumifyはどのくらい対応できるのかが皆さんにとって興味のある部分だったのではないでしょうか。結論としては、Lumifyの特長である 3本のプローブがあれば、主要項目のほとんどが検査可能ですし、付加項目も結構検査できます。「救急point-of-care 超音波診療指針」のほとんどをカバーできると体感できました。
Q:エコーのトレーニングについて
A: 最低限FASTだけでも実施できるように、初期研修医の先生には2か月に1回の頻度で後期研修医の先生にレクチャーをしていただき、ハンズオンを実施しています。もちろん、臨床現場においてもサポートをしながら学んでもらっています。看護師には、具体的なトレーニングは実施していません。
Q:タブレットエコーと据え置きエコーの使い分けについて
A: 携帯性の部分で使い分けをしています。どこで検査をするのかがポイントになります。例えば、病院外で検査をしなくてはいけないケースや、病棟の狭い場所で実施する場合などはタブレットエコーが重宝しています。使いやすさは、実臨床で是非検証してみてください。
参考文献:
*1:Acad Emerg Med.2009 Dec;16(12):1298-1303.
*2:Am J Emerg Med.2012 Sep;30(7):1134-40.
*3:Ann Emerg Med.2015 Jun;65(6):699-701.
*4,5: Medicine. 2019;98(22):e15791.
J Emerg Med.2022 Sep;63(3):348-354.
*6: JAMA.2020 Nov 3;324(17):1765-1776. Ann Intern Med.1998 Dec 15;129(12):997-1005. Acad Emerg Med.2017 Mar;24(3):270-280.
*7:J Thromb Haemost. 2016; 14:1765-72.
*8:Chest. 2017 Jun;151(6):1295-1301.
*9:Crit Care. 2021 Jan 22;25(1):34.
*10:Cardiovasc Ultrasound. 2017 Jun 19;15(1):16.
*11:Acad Emerg Med.2016 Mar;23(3):223-242
*12:2014 Jun;85(6):749-56.
*13:Anesth. Analg.1986 Aug;65(8):886-91. Anaesthesia.1989 Dec;44(12):984-5. Anesthesiology.1990 May;72(5):828-33. Resuscitation.2003 Feb;56(2):153-7.
*14:Can J Anaesth. 2015 Apr;62(4):413-23. West J Emerg Med. 2014 Nov;15(7):834-9.
救急領域におけるタブレットエコーの活用術
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