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11 01, 2019

男性の人生幸福度に大きく関わる?急増する「前立腺がん」を考えよう

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欧米諸国を中心に世界的な広がりを見せる男性のがんの啓発活動Movember(モベンバー)。なかでも近年、急増する「前立腺がん」の検査や治療の最新事情を東京医科歯科大学の吉田宗一郎先生に伺いました。

自覚症状の出にくい前立腺がん、どう早期診断する?

11月になるとオーストラリアやアメリカ、カナダ、ヨーロッパの各地で口ヒゲを生やした男性が集まるイベントが開催されます。これはMovember(モベンバー)というキャンペーンで、Mo(口ヒゲ)とNovember(11月)をかけ合わせた造語に由来します。男性特有のがんや健康問題の意識を高めていくことを目的に2003年に始まった運動で、いわばピンクリボン運動(女性のがんの啓発活動)の男性版です。
 

男性特有のがんで、近年、日本でとくに増えているのは「前立腺がん」。2012年時点では、男性のがんの部位別罹患数では胃がん、大腸がん、肺がんに次ぐ第4位で、2020〜24年には第1位になると予測されていました。しかし、前立腺がん罹患数の増加スピードは予想以上に早く、2015年には年間98,400人と罹患数で第1位となっています。なぜ、前立腺がんは急増しているのでしょうか。
 

「前立腺がんは典型的な高齢者のがんであるため、平均寿命が伸びたことが増加の一因と考えられます。ただし、年齢階級ごとにも罹患率が上昇しているため、それ以外の要因も関与していると考えられます。生活習慣の変化なども指摘されますが、診断技術が向上したことも大きな要因です。前立腺がんの早期発見を目的とした前立腺の腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)検査が普及したしてきたことがあげられます」
 

PSA検査は、人間ドックや企業健診などで受けることができます。罹患率の高さを考えると、中高年の男性は、一度は受けておいたほうがいい検査といえそうですね。
 

「はい。ただ、“PSA検査でがんが見つかる”と思われがちですが、PSA値だけで前立腺がんの確定診断はできません。一般的に『PSA値が高い』とされる基準値は4ng/mLなのですが、これは絶対的な基準ではありません。前立腺の他の病気で値が上がることもありますし、4ng/mL以下でも、前立腺がんが見つかるケースもあります。がんの確定診断には、前立腺の組織を採取する生検やMRI検査を行う必要があります」

「PSA検査で基準以下だったから安心」とは言い切れないのですね。では、前立腺がんの早期発見にはどうすればよいのでしょうか。
 

「前立腺がんは50代以降、罹患率が高くなる病気です。日本泌尿器科学会では40歳~49歳の男性には人間ドックを用いたPSA検査を推奨し、50歳以上の男性には住民検診の受診を勧めています。欧州泌尿器科学会でも40歳でのPSA基礎値の測定を勧めています。健康な状態の自分のPSA値を知っておけば、それが基準になり、以降にPSA検査を受けたとき、異常値かどうかが判定しやすくなるのです」
 

前立腺がんは、早期ではほとんど自覚症状がなく、進行した段階で「尿が出にくい」「排尿時の痛み」「尿や精液に血が混じる」などの症状が現れます。早期発見するには、検査が不可欠ということですね。かかりやすい人のタイプはあるのでしょうか。
 

「とくに家族歴に注意してほしいと思います。親や兄弟など2親等内に前立腺がん、あるいは乳がんにかかった近親者がいる人は罹患リスクが高まります。例えば、父親が前立腺がんを発症した場合、その子どものリスクは1.5〜2.5倍になります(下図)。当院の研究でも、悪性疾患の既往歴や家族歴がある人は前立腺がんと診断される確率が高いことが判明しています。これらが当てはまる人は、45歳になったらPSA検査をぜひ受けておいていただきたいと思います」

前立腺がんの家族歴とリスク

前立腺がんは“治るがん”。治療の選択肢は多い

前立腺がんにかかってしまったときの治療についてお聞きしておきたいのですが、男性にとくに知っておいてほしいことはありますか?

「前立腺がんは“治るがん”です。前立腺がんの多くは外科手術や放射線治療で根治が可能です。また、症状や選択によっては“治さない”道も選べる病気でもあります。
 

低リスクと判断されれば、アクティブサーベイランス(監視療法)で“すぐに治療を行わず慎重に観察する”選択をするケースもあります。アクティブサーベイランスは、定期的に生検やMRIをしながら経過を診ていきます。進行によっては、適切なタイミングで治療を始めることもあります」
 

治療となったときは、主には外科手術か放射線治療になるのですね。それぞれのメリットとデメリットを教えてください。
 

「外科手術は前立腺を全摘します。現在は、ロボット支援手術が主流で、従来の開腹手術や腹腔鏡手術より傷が小さく、精度が高まっています。病状に応じて、勃起機能を残す神経温存が選択肢となりますが、前立腺を摘出するので射精機能はなくなってしまいます。
 

一方、放射線治療は、X線や陽子線、重粒子線を使用し、がんを治療する方法です。体の外側から照射する外照射療法と、前立腺内に埋め込んで照射する組織内照射療法(小線源療法)があります。組み合わせや治療に要する期間は病状によって異なります。射精や勃起機能障害は、外科手術と異なりすぐには生じませんが、長期間のフォローでは、機能低下してしまうリスクは高いとされます。
 

外科手術と放射線治療の治療成績はほぼ同等で、どちらも頻尿や尿失禁などの術後合併症が起こるリスクがあります。外科手術後の尿失禁の多くは徐々に回復していきます。放射線治療後には、膀胱がんや直腸がんの二次発がんにも注意が必要です。
 

さらに、第3の選択肢として登場しているのはフォーカルセラピー(焦点治療)です。射精機能も含めた男性機能を残すことを目的に、ピンポイントでがん治療をしながら正常組織を可能なかぎり残します。治療方法には、高密度焦点超音波療法、凍結療法、小線源療法などが用いられています。まだ受けられる医療機関が少ないのが現状です」

前立腺がんの治療法

前立腺がんは“男性の幸福度”に関わる問題

がんを治療しながら、どこまで排尿機能や男性機能を守るかーー前立腺がんは、一般的に進行もゆるやかで死亡率も低いゆえに、治療の選択肢が多いともいえますが、患者さんとしては悩ましいところですね。
 

「日本人はがんを抱えたまま生きることに抵抗がある方が多いようで、アクティブサーベイランスが可能でも、根治治療を希望されるケースも少なくありません。一方、アメリカでは、アクティブサーベイランスで何としても機能を残したいと考える人の割合が比較的多いようです」
 

ハーバード大学の心理学者キリングワース氏とギルバート氏の研究では、人間が幸福を感じる行動を調査したところ、睡眠、仕事、運動、旅行などさまざまな行動の中で最上位となったのは「making love」でした(Science. 2010; 330: 932.)。また、排尿機能に障害を抱えたまま生きることも、想像以上に生活の質を下げる可能性があります。年齢にかかわらず男性機能を失うことは、男性にとっては大きな問題です。
 

「前立腺がんは生存率も高く、治せるがんです。しかし、生活の質や人生の満足度にまで思いをはせたとき、安易に治療法を選択してしまうことは避けたいものです。生き方そのものにも関わってくることですから、Movemberをきっかけに、自分自身に問い直してみたり、パートナーと話し合ったり、あるいはPSA検査を検討してみるのもよいのではないかと思います」(取材・文 / 麻生泰子)
 

プロフィール

吉田宗一郎 先生(東京医科歯科大学腎泌尿器外科学助教)

東京医科歯科大学卒業後、同大学医学系研究科博士課程修了。2010年より米国国立衛生研究所客員研究員。2012年より東京医科歯科大学医学部附属病院泌尿器科を経て、現職。

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